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あれから俺、阪無アキラは老虎で番を張るチームリーダーこと、壱リュウの許可を得て、このチームのアジトとかいう廃工場に滞在させてもらっている。
一応他を当たることもそれとなくリュウに提案したのだが、何せこの町の治安は最悪らしく、まともなホテルや民宿等は一軒もないそうだ(そもそもここで使える通貨を持っていないから、どこも利用することが出来ない)。
仮に俺みたいな新参者が運良く泊まれたとしても、身ぐるみを剝がされて終わるか、サンドバックにされてそのまま外へと放り出されてしまうらしい。
とにかく、どこへ行っても危険が付きまとうというわけだ。となると、当然野宿の線も消えた。
外で寝ていたらスリに遭うか、臓器密売を生業とする輩に連れ去られてしまうらしい。この町は本当に治安が悪すぎる。
またこの前報告に上がっていた逃亡者についてだが、あいつは他チームに自分が所属するチーム老虎に関する内部情報を売っていたそうだ。
けど途中でチーム内にそのことが露呈し、仲間が捕まえて問い詰めようとしたところ、あいつは急に発狂し出して、町の郊外に位置するあの一帯へ逃げたらしい。
「それで俺とすれ違ったのは理解出来ましたけど……あの畦道の先へ行ったら丸焦げ死体になるって、どういうことですか?」
俺はさっき取り入れた大量の洗濯物をちまちま畳み、腕を組んで不機嫌そうにこちらを見下ろす人物を見上げた。
「だ~か~ら~。あの先へ続く道はもうねーの! ある程度進んで行ったら、突然壁みたいなのにぶち当たって、次の瞬間には感電死すんだよ。なぜかは知らねえけどな」
「なんで感電するんですか? おかしいでしょう」
「だから、知らねえっつってんだろ!」
糸目が憤慨する。ちなみに彼の名前は、拾壱フゥリ。最初に俺をここに連れてくるよう部下に命令した人物だ。
フゥリには、リュウの「アキラの世話係はお前な。色々と教えてやれ」という命の元、この世界に関する様々なことを教えてもらっている。
まあ世話役というのはあくまで名目上であって、実際は監視役というポジションが正しいのかもしれない。
「他にも色々と聞きたいことはあるんですが……」
「まだあるのかよ」
「俺のことをいじん? って言ってましたけど、俺の他にもここへやって来た人がいたってことでしょう?」
「あ~、まあな。大分昔のことだから、ほぼ伝説みたいなものだけど」
「良ければ、それについても教えてください」
衣類が盛り上がってできた塚を、せっせと崩していく。俺は一枚、もう一枚と洗濯物を畳んだ。
ちなみにこれは俺がここにいる間、協力できることならなんでもするといった時に、リュウから任された仕事である。他にも厨房らしき場所で料理や配膳等を手伝ったり、衣類の繕いを請け負ったりしている。
しばらく俺の様子を黙って見守っていたフゥリが、口を開いた。
「なんか何十年も昔にここへやって来た異人がいたんだとよ。そいつはここのチームリーダーと一緒になって、この町から出ていったらしい」
「出ていった⁉」
もしそれが事実なら、俺もここから出られるかもしれない。そんな希望的観測が浮かび上がって、俺は嬉々としてフゥリに詰め寄った。
「どうやって出たんでしょうか。だって、あの先へ出たら感電死するんでしょう?」
おまけに、町周辺にはバリケードのような外壁が築かれていて、出入りできる場所は限られている。おまけにどの方角から町を出たとしても、最終的にはあの水田地帯に辿り着いてしまうそうだ。
さらにあの畦道から足を踏み外してしまうと、泥の中に引きずり込まれるようにして人が消えていってしまうんだとか。
フゥリが何度かそうして消えていった人を見たそうなので、これについてはかなり信憑性が高い。まさに嘘みたいな本当の話だ。
「それが異人と一緒だと外の世界に出られる……って聞いたことがある。って言っても、どれも尾鰭をつけた噂話だろうけど」
「その人たちは外へ出られたんですね……」
「色んなパターンがあるが一番有名なのだと、そうだなぁ。どれだけ探しても死体は見つからなかったってやつ?」
「そうですか……」
目一杯伸びていた首が、力なく縮んでいく。噂で、しかも色んなパターンがあるということは、確実に出られる保障はないと断言されたようなものだ。それだけ憶測が飛び交うというのは、事実雲を掴むような話だということ。
(でも、可能性はゼロじゃない。今のところ、ここから出る手段の最有力候補だ――)
一応他を当たることもそれとなくリュウに提案したのだが、何せこの町の治安は最悪らしく、まともなホテルや民宿等は一軒もないそうだ(そもそもここで使える通貨を持っていないから、どこも利用することが出来ない)。
仮に俺みたいな新参者が運良く泊まれたとしても、身ぐるみを剝がされて終わるか、サンドバックにされてそのまま外へと放り出されてしまうらしい。
とにかく、どこへ行っても危険が付きまとうというわけだ。となると、当然野宿の線も消えた。
外で寝ていたらスリに遭うか、臓器密売を生業とする輩に連れ去られてしまうらしい。この町は本当に治安が悪すぎる。
またこの前報告に上がっていた逃亡者についてだが、あいつは他チームに自分が所属するチーム老虎に関する内部情報を売っていたそうだ。
けど途中でチーム内にそのことが露呈し、仲間が捕まえて問い詰めようとしたところ、あいつは急に発狂し出して、町の郊外に位置するあの一帯へ逃げたらしい。
「それで俺とすれ違ったのは理解出来ましたけど……あの畦道の先へ行ったら丸焦げ死体になるって、どういうことですか?」
俺はさっき取り入れた大量の洗濯物をちまちま畳み、腕を組んで不機嫌そうにこちらを見下ろす人物を見上げた。
「だ~か~ら~。あの先へ続く道はもうねーの! ある程度進んで行ったら、突然壁みたいなのにぶち当たって、次の瞬間には感電死すんだよ。なぜかは知らねえけどな」
「なんで感電するんですか? おかしいでしょう」
「だから、知らねえっつってんだろ!」
糸目が憤慨する。ちなみに彼の名前は、拾壱フゥリ。最初に俺をここに連れてくるよう部下に命令した人物だ。
フゥリには、リュウの「アキラの世話係はお前な。色々と教えてやれ」という命の元、この世界に関する様々なことを教えてもらっている。
まあ世話役というのはあくまで名目上であって、実際は監視役というポジションが正しいのかもしれない。
「他にも色々と聞きたいことはあるんですが……」
「まだあるのかよ」
「俺のことをいじん? って言ってましたけど、俺の他にもここへやって来た人がいたってことでしょう?」
「あ~、まあな。大分昔のことだから、ほぼ伝説みたいなものだけど」
「良ければ、それについても教えてください」
衣類が盛り上がってできた塚を、せっせと崩していく。俺は一枚、もう一枚と洗濯物を畳んだ。
ちなみにこれは俺がここにいる間、協力できることならなんでもするといった時に、リュウから任された仕事である。他にも厨房らしき場所で料理や配膳等を手伝ったり、衣類の繕いを請け負ったりしている。
しばらく俺の様子を黙って見守っていたフゥリが、口を開いた。
「なんか何十年も昔にここへやって来た異人がいたんだとよ。そいつはここのチームリーダーと一緒になって、この町から出ていったらしい」
「出ていった⁉」
もしそれが事実なら、俺もここから出られるかもしれない。そんな希望的観測が浮かび上がって、俺は嬉々としてフゥリに詰め寄った。
「どうやって出たんでしょうか。だって、あの先へ出たら感電死するんでしょう?」
おまけに、町周辺にはバリケードのような外壁が築かれていて、出入りできる場所は限られている。おまけにどの方角から町を出たとしても、最終的にはあの水田地帯に辿り着いてしまうそうだ。
さらにあの畦道から足を踏み外してしまうと、泥の中に引きずり込まれるようにして人が消えていってしまうんだとか。
フゥリが何度かそうして消えていった人を見たそうなので、これについてはかなり信憑性が高い。まさに嘘みたいな本当の話だ。
「それが異人と一緒だと外の世界に出られる……って聞いたことがある。って言っても、どれも尾鰭をつけた噂話だろうけど」
「その人たちは外へ出られたんですね……」
「色んなパターンがあるが一番有名なのだと、そうだなぁ。どれだけ探しても死体は見つからなかったってやつ?」
「そうですか……」
目一杯伸びていた首が、力なく縮んでいく。噂で、しかも色んなパターンがあるということは、確実に出られる保障はないと断言されたようなものだ。それだけ憶測が飛び交うというのは、事実雲を掴むような話だということ。
(でも、可能性はゼロじゃない。今のところ、ここから出る手段の最有力候補だ――)
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