エレクトリック フェンス

時和雪

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 畦道を歩き続けていくと、途中巨大な鉄柵が見えてきた。
 鉄柵の外側には有刺鉄線が張り巡らされていて、危険な空気がビンビン伝わってくる。
 それに本能的に感じた。ここに入ったら最後、ろくな目に遭わないと。

「離せっ! 離せっ‼」
「ぴーぴー騒ぐんじゃねぇよ、めんどくせー」
「いたっ!」

 右の奴に二の腕を掴まれて、悲鳴がもれてしまう。

「ちょっと捻ったらすぐ音を上げやがって。お前、女かよ」

(クソっ――! なんでこんなところに来てまで、女扱いされなきゃだめなんだよ……!)

「あー。実は女だったりするぅ?」
「ひっ!」

 左側の奴に胸を弄られて、鳥肌が立った。俺は反射的にそいつの手から逃げるように上体を捻った。

「うわ、お前そっち系かよ」
「ちげーよ。この町女少ねぇから、暇つぶしに遊んでみただけだって。こいつ女みてぇな顔してるし、案外いけるかもな?」
「そうかあ? まあ女だったら、顔はまあまあ可愛いかもな」

 左右からゲラゲラと下卑た笑い声が聞こえてきて、俺は俯いた。

(このっ、俺を何だと思ってやがる――……!)

 怒りと憎しみで、心が黒く塗りつぶされそうだ。
 もう一度暴れてやろうと思い睨むが、不良たちにはこれっぽっちも通じていないらしい。それどころか俺の態度が気に入らないのか、前にいた糸目が振り返って、仲間内の奴に耳打ちしている。

 仲間の一人はこくりと頷くと、俺の元へやって来た。

「んぐっ……!」

 素早い動作で目と口を布で覆われ、両手首に手錠らしき拘束具をかけられる。その様が面白かったのだろう。左右の野郎二人がどっと笑い出した。

「似合ってるよぉ。大人しくしてれば良かったのに、ご愁傷様で~す」
「馬鹿野郎。俺らのアジトがばれたら面倒だからだ」

 声からしておそらく糸目だろう。部下と思しき少年たちをたしなめている。

「え~。でもこいつ処刑でしょ? どうせ見せしめにするなら、別にばれてもよくないですかあ?」

 ――は?

 処刑? 見せしめ……?
 
 冗談じゃない。俺はわざわざ殺されるためにこんなところへ来たわけじゃないぞ。
 抵抗しようとあがいてみても視界が奪われた今、ろくに動けない。そんな俺の事などお構いなしに、糸目は続けた。

「万が一があんだよ。それに、リュウさんから捕虜を運ぶ時は気を付けろって、この前注意されたばっかだろ」
「うぃ~っす」

 糸目に念押しされて、周りの奴らが渋々返事をする。その傍らで暴れている俺に嫌気がさしたのか、仲間の誰かがすっと、冷たく鋭利な物を俺の喉元に当ててきた。

 背筋がぞわりとする。もしかして、もしかすると……これは、刃物じゃないのか。いや、絶対そうに違いない。
 刃物を宛がった奴は、心底愉快そうにくつくつと笑った。

「暴れてもいいけど、動いたら頸動脈切っちゃうからね。大人しくしておいた方が賢明よ?」
「っ……!」

(だめだ……このままじゃ、こいつらに殺される!)

 でも、もう抗う術が残されていない。俺は全身の力を抜いて、抵抗の意思を削いだ。まだ完全に諦めたわけではないが、ここは大人しくして、逃走のチャンスを探った方がいい。そう判断し、俺はそっと指を折り曲げた。
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