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時和雪

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プロローグ

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『あいつ、女みてぇ』

 阪無アキラ。それが俺の名前だ。
 可愛い物や綺麗な服が好きで、洋裁に刺繍に編み物など、祖母の影響を受けてそれらに没頭するのが趣味だった。

『お前、男が好きなんじゃねーの?』

 うるさい。
 手芸好きだからって、女って決めつけるな。

「はあぁぁ」

 信号機の青い光に合わせて、スクランブル交差点を練り歩く。俺は群衆の中に紛れるように歩き、ため息をついた。
 地元を離れ、上京した俺は都心からやや近い高校へ入学し、新たな生活環境で新たな人間関係を築いている真っ最中だ。

 中学の頃のようなヘマはもうしない。俺は自分の趣味を他人に馬鹿にされたくないし、女扱いされるのもこりごりだった。
 だから高校では自分の身を守るためにも、趣味の話は一切していない。適当にスマホのRPGが好きだとか、SNSをよく見たりするなど当たり障りのない回答で誤魔化している。

 俺は女になりたいと思ったことは一度もないし、無論男が好きなわけでもない。けどそれをどう伝えたところで、あいつらは端から理解しようとしないんだ。

「はあぁぁ」

 もう一度、おまけとばかりにため息をこぼす。
 そして過ぎた時間を取り戻すように、群衆の中へ意識を戻した時だった。


「は……?」


 目の前が暗闇に変わった。
 慌てて周囲を見回してみるが、さっきまでの人込みが嘘みたいに消えている。

「っ、誰か! 誰かいませんかあ!?」

 異常事態にパニックを起こし、助けを呼ぼうとすると――。

 さっきまでそこにあったはずの足場が霧散し、暗闇の下へと続く大穴が広がっていた。

「は⁉」

 バランスを崩し宙を掴もうするが、当然落ちる。落ちた、奈落へと。

「うわああああぁぁぁぁぁぁ‼」

 浮遊感に包まれたあと、まるで渦潮に巻き込まれるみたいに、俺は地底へと落ちていった。
 落下中全身に電流みたいな痺れが走り、脳が焼き切れるんじゃないかってくらいの痛みが襲ってくる。

「あ”あ”っ⁉」

 痛い、熱い、痛い痛い熱い熱い――。

 目の前に火花が散る。これは俺の見ている幻覚なんだろうか。それとも実際に俺の身体から出ている火――なんだろうか。

(俺は死ぬ、のか……?)

 電光のような炎に包まれながら、俺は意識を失った。

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