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「消えない過去、遠い未来」2
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「――雪だ」
病室から外を眺めていると、雨が雪へと変った。雪が激しくなり、雪が積もり始める。銀世界へと姿と変えていく。
そういえば、昼のニュースで、初雪が降ると言っていた。
初雪に見舞い手に来ていた子供たちが、はしゃいでいる。子供たちがはしゃいでいる姿を見たくない。楓は窓のカーテンを閉めた。思い出せば、今日は誕生日である。毎年、祝ってくれた家族はもういない。抱きしめてくれる腕も――笑顔をもう見ることができない。
会えることはない。声を聞くこともできない。こんなに早く家族と別れることになるとは、思ってもいなかった。幸せな日々が簡単に崩れ落ちていくとは、考えもしなかったのである。この平穏をたやすく壊されるとは、予想もしていなかった。
暗闇と絶望の中で――。
夢も希望もない中で
どうやって、生きていけばいいのだろうか?
何を信じればいいのだろうか?
どこへ向かえばいいのだろうか?
「どうして、僕だけをおいていなくなってしまったの? 死んでしまったの?」
一人残された孤独感と戦うぐらいなら――。
どうして、一緒に死ねなかったのかと――自分だけが生き残ってしまったのかとそんな思いが胸をよぎっていく。
涙は泣くだけ泣いて、乾いてしまっていた。
泣き方すら忘れてしまった自分がいる。治療を受けて、幸い声だけは回復したけれど――寂しさだけが募っていく。
それに、気がついてくれたのが、葵と蓮だった。
仕事も忙しいだろう。それなのに、頻繁に顔を見せに来てくれる。お見舞いに来てくれる。今年はこんな物が流行っていると、たわいのない会話をするだけだった。
********
「入ってもいいかな?」
ドアの向こうから、蓮に遠慮がちの声が聞こえてくる。
「はい――どうぞ」
「雪が降り出したな。寒くないか?」
「大丈夫です」
蓮は近くにある椅子に座り、小さな箱をテーブルに置く。箱には有名なケーキ店の名前が書いてある。どうやら、蓮はここで楓の誕生日を祝うつもりらしい。
「ケーキですか?」
「嫌いか?」
蓮は苦笑する。
「好きです」
上半身だけを起こして、背の高い蓮を見上げた。バランスを崩した楓の身体を、蓮が支える。
「今日、誕生日だろう?」
まさか、覚えていてくれたなんて――。
「覚えていて?」
「一緒に暮らすかもしれない子の誕生日を忘れるわけがないよ」
そう言い切った蓮の声は、とても優しいものだった。
「ありがとうございます。長谷さんは?」
「葵なら先に仕事に行かせたよ。なぁ、楓」
「――はい」
蓮に呼ばれて、楓は背筋を伸ばす。
「俺たちは傍にいる――そのことを、忘れないでいてほしい」
蓮は楓の頭を撫でる。楓は一瞬――身体を強張らせたが、素直に受け入れた。祝ってくれた人は違ったけれど――久しぶりに感じた人の温かさだった。
**********
どれぐらい、立ち尽くしていただろうか?
(寒い……冷たい)
昔を思い出しいた楓は、両肩に積もった雪の冷たさと感触で、現実に引き戻された。周囲もうっすらと、雪化粧をしている。弥生も雪が好きな人だった。
よく二人で雪合戦をした記憶がある。
この先、雪を好きになることはない。好きにはなれないだろう。楽しかった時間が霞んでしまう。
(それでも、自分で決めたことだ)
後戻りは出来ない――今更、思い出しても戻れない。戻れないところまで、来てしまっていた。
(仕事中に私情を持ち込むなんて失格だな)
楓の口元に失笑が浮かぶ。
楓の姿は夜の闇へと消えていった。
病室から外を眺めていると、雨が雪へと変った。雪が激しくなり、雪が積もり始める。銀世界へと姿と変えていく。
そういえば、昼のニュースで、初雪が降ると言っていた。
初雪に見舞い手に来ていた子供たちが、はしゃいでいる。子供たちがはしゃいでいる姿を見たくない。楓は窓のカーテンを閉めた。思い出せば、今日は誕生日である。毎年、祝ってくれた家族はもういない。抱きしめてくれる腕も――笑顔をもう見ることができない。
会えることはない。声を聞くこともできない。こんなに早く家族と別れることになるとは、思ってもいなかった。幸せな日々が簡単に崩れ落ちていくとは、考えもしなかったのである。この平穏をたやすく壊されるとは、予想もしていなかった。
暗闇と絶望の中で――。
夢も希望もない中で
どうやって、生きていけばいいのだろうか?
何を信じればいいのだろうか?
どこへ向かえばいいのだろうか?
「どうして、僕だけをおいていなくなってしまったの? 死んでしまったの?」
一人残された孤独感と戦うぐらいなら――。
どうして、一緒に死ねなかったのかと――自分だけが生き残ってしまったのかとそんな思いが胸をよぎっていく。
涙は泣くだけ泣いて、乾いてしまっていた。
泣き方すら忘れてしまった自分がいる。治療を受けて、幸い声だけは回復したけれど――寂しさだけが募っていく。
それに、気がついてくれたのが、葵と蓮だった。
仕事も忙しいだろう。それなのに、頻繁に顔を見せに来てくれる。お見舞いに来てくれる。今年はこんな物が流行っていると、たわいのない会話をするだけだった。
********
「入ってもいいかな?」
ドアの向こうから、蓮に遠慮がちの声が聞こえてくる。
「はい――どうぞ」
「雪が降り出したな。寒くないか?」
「大丈夫です」
蓮は近くにある椅子に座り、小さな箱をテーブルに置く。箱には有名なケーキ店の名前が書いてある。どうやら、蓮はここで楓の誕生日を祝うつもりらしい。
「ケーキですか?」
「嫌いか?」
蓮は苦笑する。
「好きです」
上半身だけを起こして、背の高い蓮を見上げた。バランスを崩した楓の身体を、蓮が支える。
「今日、誕生日だろう?」
まさか、覚えていてくれたなんて――。
「覚えていて?」
「一緒に暮らすかもしれない子の誕生日を忘れるわけがないよ」
そう言い切った蓮の声は、とても優しいものだった。
「ありがとうございます。長谷さんは?」
「葵なら先に仕事に行かせたよ。なぁ、楓」
「――はい」
蓮に呼ばれて、楓は背筋を伸ばす。
「俺たちは傍にいる――そのことを、忘れないでいてほしい」
蓮は楓の頭を撫でる。楓は一瞬――身体を強張らせたが、素直に受け入れた。祝ってくれた人は違ったけれど――久しぶりに感じた人の温かさだった。
**********
どれぐらい、立ち尽くしていただろうか?
(寒い……冷たい)
昔を思い出しいた楓は、両肩に積もった雪の冷たさと感触で、現実に引き戻された。周囲もうっすらと、雪化粧をしている。弥生も雪が好きな人だった。
よく二人で雪合戦をした記憶がある。
この先、雪を好きになることはない。好きにはなれないだろう。楽しかった時間が霞んでしまう。
(それでも、自分で決めたことだ)
後戻りは出来ない――今更、思い出しても戻れない。戻れないところまで、来てしまっていた。
(仕事中に私情を持ち込むなんて失格だな)
楓の口元に失笑が浮かぶ。
楓の姿は夜の闇へと消えていった。
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