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シークレット・ラスト4
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コンコン。
病室のドアをノックするとはい、と返事があった。三人が二人きりにしてくれる。
麻子は病室に足を踏み入れた。
記憶が呼び戻そうとしているのか。
先ほどから激しい頭痛がする。
知っている。
自分はこの人を知っている気がする。
思い出せ。
思い出せ。
徐々に霧がとれて晴れやかになっていく。
本来の自分を取り戻していく。
――麻子。
懐かしい声。
聞きたかった声。
蘇る楽しかった思い出。
そして、愛しい人。好きだよと言ってくれる笑顔。
――そうだ。
私は中田麻子。
目の前にいるのは私の大切な人だわ。
封印されていた記憶が戻ってきた。
薬も実験の始まりだったみたいで、そこまで、投与されていなかったことが大きいだろう。だからこうしてすぐに記憶を取り戻すことができたのである。記憶を取り戻すことができていなかったら、自分は殺人鬼が廃人になっていたるだろう。
それを、打ち破ることができたのは麻子の生きたいという強い気持ちがあったからこそ。
やはり、強い子だ。
「昴!」
「――うん」
「昴!」
麻子は何回も昴の名前を呼ぶ。
生きていることを確かめるように。
「おいで、麻子」
彼は両手を広げた。
傷の痛みなどどうでもいい。
麻子が抱き着いてくる。
昴はもてる力を使い彼女を強く抱きしめた。こんなことぐらいで、二人の絆は切れない。途切れることはない。むしろ、強くなった方だ。
「ごめん。ごめんなさい」
麻子は子供のように彼の腕の中で泣きじゃくる。昴は彼女が落ち着くのを待った。
瞳に残っている麻子の涙を昴は掬い取る。
「僕の方こそ守れなくてごめん」
どれだけ、彼女が苦しんだことか。
しかも、その間自分は眠っていた。
何もすることができなかった。
「どうして、昴が謝るのよ!」
「ねぇ、麻子」
「なぁに?」
「何があっても麻子は麻子だから」
昴は麻子の額に自分の額をあわせる。ふわり、とシャンプーのいい香りがした。疲れもあるのか二人は手をつないだままうつらうつらしてしまう。
そのまま、眠りについた。
一か月後――。
昴は無事に退院し今日から学校復帰が決まっていた。
「おはよ、昴」
「おはよ、麻子」
二人は鞄を持って部屋を出る。リビングに入るとパンが焼けるいい匂いがした。
サラダにゆで卵。
飲み物はカフェオレ。
デザートはリンゴとバナナ。
すでに、雄二が朝食の用意を終わらせているようだ。それぞれの席に座る。いつもと変わらない日常に二人はほっとする。
この日がずっと続けばいいと願わずにはいられない。
「二人とも、おはよう」
「おはよう、父さん」
「おはよう、雄二さん」
「昴君。無理をしてはいけないよ」
「ありがとう」
頂きますと、食べ始める。ある程度、片づけが終わると昴と麻子は鞄を持った。いってらっしゃいと雄二が見送ってくれる。
「麻子」
昴が麻子に手を差し出す。
彼女はその手を握り返した。
「昴」
「どうした?」
「私、昴が好きだよ」
「僕も好きだよ」
昴は麻子の薬指に口づけを落とした。
君を守るという誓い。
未来への約束。
何だか、プロポーズを受けているようだ。くすぐったいような――照れくさいような気もするが、それをやってのけるのが昴である。
「行こうか」
そんな二人を包み込むのは、夏の日差し。
それが、いつも以上に輝いて見える。
その日差しに瞳を細めながら、昴と麻子は歩き始めた。
病室のドアをノックするとはい、と返事があった。三人が二人きりにしてくれる。
麻子は病室に足を踏み入れた。
記憶が呼び戻そうとしているのか。
先ほどから激しい頭痛がする。
知っている。
自分はこの人を知っている気がする。
思い出せ。
思い出せ。
徐々に霧がとれて晴れやかになっていく。
本来の自分を取り戻していく。
――麻子。
懐かしい声。
聞きたかった声。
蘇る楽しかった思い出。
そして、愛しい人。好きだよと言ってくれる笑顔。
――そうだ。
私は中田麻子。
目の前にいるのは私の大切な人だわ。
封印されていた記憶が戻ってきた。
薬も実験の始まりだったみたいで、そこまで、投与されていなかったことが大きいだろう。だからこうしてすぐに記憶を取り戻すことができたのである。記憶を取り戻すことができていなかったら、自分は殺人鬼が廃人になっていたるだろう。
それを、打ち破ることができたのは麻子の生きたいという強い気持ちがあったからこそ。
やはり、強い子だ。
「昴!」
「――うん」
「昴!」
麻子は何回も昴の名前を呼ぶ。
生きていることを確かめるように。
「おいで、麻子」
彼は両手を広げた。
傷の痛みなどどうでもいい。
麻子が抱き着いてくる。
昴はもてる力を使い彼女を強く抱きしめた。こんなことぐらいで、二人の絆は切れない。途切れることはない。むしろ、強くなった方だ。
「ごめん。ごめんなさい」
麻子は子供のように彼の腕の中で泣きじゃくる。昴は彼女が落ち着くのを待った。
瞳に残っている麻子の涙を昴は掬い取る。
「僕の方こそ守れなくてごめん」
どれだけ、彼女が苦しんだことか。
しかも、その間自分は眠っていた。
何もすることができなかった。
「どうして、昴が謝るのよ!」
「ねぇ、麻子」
「なぁに?」
「何があっても麻子は麻子だから」
昴は麻子の額に自分の額をあわせる。ふわり、とシャンプーのいい香りがした。疲れもあるのか二人は手をつないだままうつらうつらしてしまう。
そのまま、眠りについた。
一か月後――。
昴は無事に退院し今日から学校復帰が決まっていた。
「おはよ、昴」
「おはよ、麻子」
二人は鞄を持って部屋を出る。リビングに入るとパンが焼けるいい匂いがした。
サラダにゆで卵。
飲み物はカフェオレ。
デザートはリンゴとバナナ。
すでに、雄二が朝食の用意を終わらせているようだ。それぞれの席に座る。いつもと変わらない日常に二人はほっとする。
この日がずっと続けばいいと願わずにはいられない。
「二人とも、おはよう」
「おはよう、父さん」
「おはよう、雄二さん」
「昴君。無理をしてはいけないよ」
「ありがとう」
頂きますと、食べ始める。ある程度、片づけが終わると昴と麻子は鞄を持った。いってらっしゃいと雄二が見送ってくれる。
「麻子」
昴が麻子に手を差し出す。
彼女はその手を握り返した。
「昴」
「どうした?」
「私、昴が好きだよ」
「僕も好きだよ」
昴は麻子の薬指に口づけを落とした。
君を守るという誓い。
未来への約束。
何だか、プロポーズを受けているようだ。くすぐったいような――照れくさいような気もするが、それをやってのけるのが昴である。
「行こうか」
そんな二人を包み込むのは、夏の日差し。
それが、いつも以上に輝いて見える。
その日差しに瞳を細めながら、昴と麻子は歩き始めた。
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