シークレット・ラブ

朝海

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シークレット・ラスト2

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「麻子?」
 名前を呼ばれて彼女は歩いていた足を止めた。目標である昴がこちらを見ている。ナイフを取り出されるとは思わなかった彼は大きく目を見開く。
 麻子が駆け寄ってきた。 
 彼女を正気に戻そうとした瞬間。
 麻子は昴の腹にナイフを突き刺した。
 彼女はそのまま、どこかに行ってしまう。
 じんわりとした熱。
 痛み。
 刺されたのだと理解をした。麻子に刺されるとは夢にも思っていなかった。
 昴はその場に倒れこむ。
 麻子が遠くに感じてしまう。
 それでも、彼女に手を伸ばした。刺されたとしても、麻子を思う気持ちに変わりはない。
 揺らぐことはない。
 愛していると言いたい。
 ――行くな。
 行くな、麻子。
 言ったらダメだ
 戻ってこい。
 だが、伸ばした手は麻子に届くことはない。彼女を元に戻さなければいけない。食いしばって動こうとするが、体がいうことをきかない。
 ――ここで、死ぬわけにはいかない。
 七海と加奈の分まで生きると誓ったのだ。
 その誓いを破りたくない。
 コンクリートの道に爪を立てた。
 混濁とする意識に抵抗をするように。
「昴君!?」
 すると、丁度、遊びに来ていた幸美と琥珀、帰ってきた雄二が駆け寄ってきた。この場所なら救急車を呼ぶよりも車で行った方が速い。さすがに、いつも一緒に仕事をしているだけある。
 お互いの動きも慣れたものだった。
「あ……こが」
「無理をしなくていいから!」
「いつ……こと……違っていた」
 ――いつもの麻子と違っていた。
 昴は肩で息をしながら言葉を絞り出す。敬語でないのもそれなりの信頼関係があるからこそである。それが、幸美も琥珀も雄二も嬉しかった。
「違っていた?」
「う……ん。目に……がなかった」
 ――目に力がなかった。
 昴が血を吐き出す。
 どうやら、限界が近いようだ。
 これ以上、無理をさせるわけにはいかなかった。
「昴君。もういいわ」
「お願い……調べてほしい」
 彼が止血をしている琥珀の腕を掴む。
 自分が残っている力を振り絞って。
「わかったわ。あとは任せて休みなさい」
 琥珀は幸美が運転している車に、雄二と支えたて昴を乗せた。


 
 情報屋カフェ「縁」
 この男ですねとマスターは幸美、琥珀、雄二にパソコンを見せた。パソコンには一人の男の情報が事細かに記載されている。
 完全なる狂った科学者(マッドサイエンティスト)。
 生かしておいて罪を償わさなければいけないだろう。
 それなりの重罪だ。
 ピロン。
 すると、パソコンが音を立てた。
 映し出されたのは赤い点。
 赤い点はここから数キロ離れた山の中を示している。マスターが渡した位置情報装置の機械が作動しているらしい。
 昴が麻子につけたらしかった。
 彼女を失いたくない。
 彼の咄嗟の判断だろう。
 子供たちが逃げることなく戦おうとしているのだ。それに、大人が応じなければいけない。見守る力も必要になってくるはずである。
 麻子と昴を見捨てるほど薄情ではなかった。
 迷惑だと言われても手を伸ばそうではないか。
 信じてくれている二人のために。
 笑顔が溢れる未来のために。
 それが、できないのなら何のために警察官になったのかが分からない。
「昴君がつけたのかしら?」
「そのようだな」
「彼、大丈夫かな?」
 まだ、意識は戻っていない。主治医からの話によると傷が深かったらしく、一か月から一か月半はかかるということだった。
「昴君を信じよう」
 心苦しいが、昴は病院に任せてあの男を追跡しよう。琥珀、幸美、雄二はマスターに見送られながら、車に乗り込んだ。

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