シークレット・ラブ

朝海

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シークレット9-1

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  カラン。
 昴と麻子は喫茶店のドアを開けた。グラスを磨いていた情報屋「縁」マスターが顔をあげる。
「ああ。桜井昴君と中田麻子さんだね?」
穏やかな声。
二人に座るように促す。

 コトリ。
 二人の前にオレンジジュースを置く。この子たちの負担を少しでも、軽くしてあがった。こうして、頼られたことを嬉しく思う。
 人の役に立ちたい。
 支えたい。
 そのためにこの情報屋カフェ「縁」を開いたのである。
 利用できるものは利用してほしい。
 それが、マスターの本音だ。
 失敗したっていい。
 立ち止まってもいい。
 それを、フォローならいくらでもするつもりでいた。
「米田愛梨についてだったね」
「はい」
「情報が入った。姉の雪美の「オリジナル」さ。両親が姉を殺した。不良品のコピーは殺せと両親に洗脳されているという話だよ」
「ふざけるなよ!」
昴はドンと乱暴にオレンジジュースが入ったコップを置いた。クローンはクローンでも一人の人間だ。                 皆、必死に食らいついて暮らしている。生きようともがきながら苦しんでいる。だからといって、その命を奪ってもいいわけじゃない。
 殺していいわけじゃない。
洗脳されているからと言って、許されるわけないだろう。
このままだと、真面目に生きているクローンが住みにくくなってしまう。
 居場所を奪われてしまう。下手すればクローンと人間との戦争になりかねない。
 それだけは、避けたい。
 これ以上、大切な人をなくしたくないし、泣く姿など見たくなかった。
 麻子が傷つくなんて嫌だった。
そのためには、今は戦うしかない。
「昴、落ち着いて」    
 ここまで、怒っている昴を初めてみた。やはり、自分のことだからだろう。               
 愛されているのだなと麻子は自覚をした。          ならば、自分が強くならないといけない。昴と並ぶのにはまだ、幼すぎる。                
 彼に言ったらそれを含めて麻子だよと、丸め込まれそうだが。

「さて、嬢ちゃん、坊ちゃんはどうしたい?」
 
 マスターは二本指を立てる。もちろん、彼は雪美が生きていることを知っているし、裕二が味方だと聞いている。彼と雪美が潜入しているなら、わざと誘拐されてみせるのもいいだろう。
 米田愛梨を泳がせるために。
 それが、うまくいけば彼女は自爆をするだろう。彼女の導火線が短いということは、雪美も分かっている。
彼の同僚も含めてだった。
 だから、裕二ははわざと愛梨を挑発してみせたのだ。案の定、彼女の導火線に火が点火したのである。
それを、使おうとこんな計画を立てた。

1、わざと、誘拐されて愛梨を警察に突き出すか。
もしくは、精神病棟に入院にさせるのか。
2、洗脳をとき、話をするのか。

「これは麻子が決めるべきだと思う。麻子はどう思う?」
「私はーー」
  思い出すのは愛梨のねっとりとした爬虫類のような瞳。思い出すだけで、ゾッとする。                                      
 麻子に死んでほしいと思っている無言の圧力。生き残るのは自分よといった自信。                
 それに、耐えきれなかった。
 麻子の小さな変化。      
 強張った表情。                 
 それに、気がついた昴もさすがと言ったところだった。

「うん」
「私は警察に突き出すか、精神病棟に入院させるのかのどちらかだと思うわ」
「僕も麻子の意見に賛同する」
「でも、このあとはどう動くのでしょうか?」
 麻子の質問は昴も気になっていた。
「なら、ここに相談をするといい」
 マスターが一枚の名刺を渡す。住所や電話番号しか書かれていないシンプルなものだった。
 クローン対策警察特別対策室
 室長・川口琥珀。
「ここは?」
「私の仲間がやっているクローンに関する何でも屋みたいなものです。彼女たちに、引き継いでもらいます」
「最後に一つ聞いてもいいでしょうか?」
 昴は時計を見た。クローン対策特別警察室に行く時間が迫っている。ここにいたのは約三十分程度だが、体感としては一時間に感じていた。
「何でしょうか?」
「麻子の父親でもある「中田裕二」。彼は一体何者なのでしょうか?」
 昴はストレートにマスターに聞いた。
「彼は君たちを悪いようにはしないから、大丈夫ですよ」
「その言葉、信じていいのでしょうか?」
 昴の瞳には警戒の色。
こちらを探っていることが分かる。
「時には信じることも必要です」
「ねぇ、昴。信じてみようよ」
 麻子は昴の服を握った。人を信じることから始めてみよう。
 そうでなければ、変わらない。
 変わりたいと思うなら、自分たちから動くことも必要になってくる。
 それの練習だと思えばいいのだ。
「ありがとうございました」
 昴と麻子は頭をさげる。
「がんばって」
二人マスターに見送られながら、喫茶店を出た。
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