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また会う日まで
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王子さまはヴェルキウス公の手でかるがると持ち上げられ、今度はかんたんに穴の外へと無事に出ることができました。
「父さま!」
王子さまは冥王さまに駆け寄ります。冥王さまはようやく安堵の表情を見せられ、馬から降りて王子さまを抱き上げました。お互いの精霊たちも再会を喜びあいます。王子さまが無事とわかり、騎士たちはほっと胸をなでおろしました。緊張がほぐれ、その場は一転して和やかな空気につつまれました。
「いつも言っているであろう、危ないことをしてはいけないと」
冥王さまは声を震わせ頬ずりします。
「余はそなたを失っては生きてゆかれぬ」
「はい。ですからこのとおり、無事に戻りました」
王子さまは屈託なく笑い、いつものように冥王さまのほっぺたにキスをしました。話したいことがいっぱいありましたが、今はそれどころではありません。
「父さま、紹介したい者たちがいるのです。彼らはぼくとヴァニオンを助けてくれました。だから無事に戻れたのです。矮人族をご存じですか?」
「ああ、もちろん、知っておるとも」
紹介された矮人族の父子、ベンツァーとアルヴィスが、兜帽をとって進み出ます。
「そなたらは……たしか」
冥王さまは目を瞠りました。冥王さまが覚えていてくれたことを嬉しく思いつつ、ベンツァーはなまった魔族語で息子を紹介します。
「お久しぶりでごぜえます、冥王さま。またお会いできる日が来ようとは、夢にも思いませんで。あの日、女神さまに短剣をおささげしたのはうちの父です。父は今は亡くなり、鍛冶屋の職は倅のわたしが引き継ぎました。でもって、これなるは、わたしの倅のアルヴィスちいいます」
「なんと、矮人族の刀鍛冶は代替わりしておったのか」
「はい、近ごろでは魔族の旦那がたに武具を買ってもらっております」
冥王さまは、女神につづいて王子までもが世話になったことへのお礼を重ねてお伝えになり、こう仰せられました。
「矮人族の鍛冶親方よ。これを機に、冥府で工房を開くというわけにはいかないだろうか? 数は少ないが昨今、冥府では他にも矮人族の職人が工房を開くようになってきている。そなたが望めば場所を用意し、王宮御用達の看板を掲げることを認めよう。こうして数百年ぶりに再会できたのも何かの縁」
ベンツァーは首を振って言いました。
「ありがてぇ仰せです。しかしせっかく100年かけて切り開いてきた我が家の坑道を閉鎖するわけには行きませんし、私は先祖代々の生活様式を守りたいのです。せっかく張り巡らせたこの穴ぐらから出て暮らすつもりは微塵もありゃしません」
「ならば、そなたの息子は冥府にて見聞を広げてはどうか?」
ベンツァーは息子を振り返ります。
「冥王さまが、望めばお前を冥府に連れて行ってくれるそうだ。アルヴィス?」
しかしアルヴィスも首を横に振りました。
「おいらも、坑道から出て暮らすつもりはありません。ここには家族も親戚もおおぜいいるし、おいらたちは穴ぐら住まいがいちばん落ち着くのです。
おとうから鍛冶の技術を学んで、おいらも将来は、鍛冶屋になります」
冥王さまは王子さまを抱っこしたまま、深く頷かれました。
「そうか、家族思いの立派な子だ。腕のいい鍛冶屋になれるよう頑張りなさい」
するとベンツァーは冥王さまの前で片膝をつき、ひとふりの鞘つきの剣を差し出したのです。
「父さま!」
王子さまは冥王さまに駆け寄ります。冥王さまはようやく安堵の表情を見せられ、馬から降りて王子さまを抱き上げました。お互いの精霊たちも再会を喜びあいます。王子さまが無事とわかり、騎士たちはほっと胸をなでおろしました。緊張がほぐれ、その場は一転して和やかな空気につつまれました。
「いつも言っているであろう、危ないことをしてはいけないと」
冥王さまは声を震わせ頬ずりします。
「余はそなたを失っては生きてゆかれぬ」
「はい。ですからこのとおり、無事に戻りました」
王子さまは屈託なく笑い、いつものように冥王さまのほっぺたにキスをしました。話したいことがいっぱいありましたが、今はそれどころではありません。
「父さま、紹介したい者たちがいるのです。彼らはぼくとヴァニオンを助けてくれました。だから無事に戻れたのです。矮人族をご存じですか?」
「ああ、もちろん、知っておるとも」
紹介された矮人族の父子、ベンツァーとアルヴィスが、兜帽をとって進み出ます。
「そなたらは……たしか」
冥王さまは目を瞠りました。冥王さまが覚えていてくれたことを嬉しく思いつつ、ベンツァーはなまった魔族語で息子を紹介します。
「お久しぶりでごぜえます、冥王さま。またお会いできる日が来ようとは、夢にも思いませんで。あの日、女神さまに短剣をおささげしたのはうちの父です。父は今は亡くなり、鍛冶屋の職は倅のわたしが引き継ぎました。でもって、これなるは、わたしの倅のアルヴィスちいいます」
「なんと、矮人族の刀鍛冶は代替わりしておったのか」
「はい、近ごろでは魔族の旦那がたに武具を買ってもらっております」
冥王さまは、女神につづいて王子までもが世話になったことへのお礼を重ねてお伝えになり、こう仰せられました。
「矮人族の鍛冶親方よ。これを機に、冥府で工房を開くというわけにはいかないだろうか? 数は少ないが昨今、冥府では他にも矮人族の職人が工房を開くようになってきている。そなたが望めば場所を用意し、王宮御用達の看板を掲げることを認めよう。こうして数百年ぶりに再会できたのも何かの縁」
ベンツァーは首を振って言いました。
「ありがてぇ仰せです。しかしせっかく100年かけて切り開いてきた我が家の坑道を閉鎖するわけには行きませんし、私は先祖代々の生活様式を守りたいのです。せっかく張り巡らせたこの穴ぐらから出て暮らすつもりは微塵もありゃしません」
「ならば、そなたの息子は冥府にて見聞を広げてはどうか?」
ベンツァーは息子を振り返ります。
「冥王さまが、望めばお前を冥府に連れて行ってくれるそうだ。アルヴィス?」
しかしアルヴィスも首を横に振りました。
「おいらも、坑道から出て暮らすつもりはありません。ここには家族も親戚もおおぜいいるし、おいらたちは穴ぐら住まいがいちばん落ち着くのです。
おとうから鍛冶の技術を学んで、おいらも将来は、鍛冶屋になります」
冥王さまは王子さまを抱っこしたまま、深く頷かれました。
「そうか、家族思いの立派な子だ。腕のいい鍛冶屋になれるよう頑張りなさい」
するとベンツァーは冥王さまの前で片膝をつき、ひとふりの鞘つきの剣を差し出したのです。
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