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王子さま、ともだちを助ける
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「ジェニウス!」
王子さまから名を呼ばれたヴェルキウス公は、驚いた拍子に穴の中へ真っ逆さまに落ちました。公はくさりかたびらを着ておりましたので重く、ゴッ…とひどい音がトンネルに鳴り響きました。
「父さん!」
続いて息子ヴァニオンの声がします。頭をさすりながら起き上がると、王子さまとヴァニオンが、数人の矮人族とともに奥から姿を現したのです。
「おお、殿下。ご無事で!」
そして矮人族に対しては警戒あらわに、尻もちをついたまま剣を抜こうとするので、王子さまはあわててヴェルキウス公を止めました。
「ジェニウス、ちがうの。矮人族はぼくたちを助けてくれたんだよ」
「おお、それはなんと…! 失礼つかまつった。なんと御礼を申し上げたらよいか」
ヴェルキウス公は居ずまいを正し、家主である鍛冶屋ベンツァーに正対しました。
「この度は、王子殿下と我が息子を保護していただき、感謝の念にたえませぬ。ぜひ、冥王陛下に紹介させていただきたい」
トンネルの中で、(いつもいばっているはずの)若い冥界貴族が正座して、矮人族に平伏せんばかりにぺこぺこと頭を下げている様子はなんだか面白くて、王子さまはうふふと笑いそうになりました。さいわい、矮人族のおとなたちもヴェルキウス公の礼儀正しいふるまいを見て「魔族にしては話せるやつ」だと認めた様子です。
ヴェルキウス公はヴァニオンに対してはげんこつを振りかざします。
「まったくお前というやつは、勝手についてきただけならまだしも、殿下を危険な目に遭わせるとは!」
王子さまはまたしても慌てて止めにはいります。
「ジェニウス、ちがうよ。ヴァニオンはぼくを守ろうとしてくれたんだよ。もちろん森に入ったのはいけなかったんだけど、ぼくたちふたりともぼうけんしてみたかったの。ヴァニオンがぶたれるなら、ぼくもぶたれないといけないの」
「殿下……」
ヴェルキウス公は困ってしまいました。森に入らないといういいつけをやぶったのはふたりとも同じなので、もしヴァニオンにおしおきをするなら、王子さまにもおしおきをしなければなりません。王子さまにげんこつを落とすわけにはいかないので、公はしぶしぶげんこつを仕舞いました。
「わかりました、殿下。じゃあ王宮に帰ったら、ばつとして、ヴァニオンといっしょに馬たちの世話をお手伝いください」
王子さまの目がちょっとかがやきました。黒天馬たちの世話をお手伝いできるなんて! 王子さまたちはまだ小さくて、厩舎に行っても「蹴られると危ないから」といつも追い返されてしまっていたのです。
それはおしおきというよりも、ごほうびではないのかしら、と思いましたが、王子さまはすなおに「はい」と言ってヴァニオンを振り返りました。
ヴァニオンはまだ半泣きでした。けれど鼻の頭やほっぺに残るヤケドのような樹液の痕は、かれが王子さまを守った勲章みたいなものですものね。おうちに帰ったらやっぱりこっぴどく叱られるんでしょうけれど、あとでこっそり、この乳兄弟にはなにか特別な感謝のしるしをあげなきゃいけないなと思いました。魔象のツノのかけらとか、面白いカタチの鉱石とか、珍しい羽虫のぬけがらとか。王子さまも男の子らしく、宝箱という名のガラクタ入れに色々集めているのです。ともだちに友情を示すためにならば、宝箱の中身を見せて選ばせてあげてもいいと思いました。
王子さまから名を呼ばれたヴェルキウス公は、驚いた拍子に穴の中へ真っ逆さまに落ちました。公はくさりかたびらを着ておりましたので重く、ゴッ…とひどい音がトンネルに鳴り響きました。
「父さん!」
続いて息子ヴァニオンの声がします。頭をさすりながら起き上がると、王子さまとヴァニオンが、数人の矮人族とともに奥から姿を現したのです。
「おお、殿下。ご無事で!」
そして矮人族に対しては警戒あらわに、尻もちをついたまま剣を抜こうとするので、王子さまはあわててヴェルキウス公を止めました。
「ジェニウス、ちがうの。矮人族はぼくたちを助けてくれたんだよ」
「おお、それはなんと…! 失礼つかまつった。なんと御礼を申し上げたらよいか」
ヴェルキウス公は居ずまいを正し、家主である鍛冶屋ベンツァーに正対しました。
「この度は、王子殿下と我が息子を保護していただき、感謝の念にたえませぬ。ぜひ、冥王陛下に紹介させていただきたい」
トンネルの中で、(いつもいばっているはずの)若い冥界貴族が正座して、矮人族に平伏せんばかりにぺこぺこと頭を下げている様子はなんだか面白くて、王子さまはうふふと笑いそうになりました。さいわい、矮人族のおとなたちもヴェルキウス公の礼儀正しいふるまいを見て「魔族にしては話せるやつ」だと認めた様子です。
ヴェルキウス公はヴァニオンに対してはげんこつを振りかざします。
「まったくお前というやつは、勝手についてきただけならまだしも、殿下を危険な目に遭わせるとは!」
王子さまはまたしても慌てて止めにはいります。
「ジェニウス、ちがうよ。ヴァニオンはぼくを守ろうとしてくれたんだよ。もちろん森に入ったのはいけなかったんだけど、ぼくたちふたりともぼうけんしてみたかったの。ヴァニオンがぶたれるなら、ぼくもぶたれないといけないの」
「殿下……」
ヴェルキウス公は困ってしまいました。森に入らないといういいつけをやぶったのはふたりとも同じなので、もしヴァニオンにおしおきをするなら、王子さまにもおしおきをしなければなりません。王子さまにげんこつを落とすわけにはいかないので、公はしぶしぶげんこつを仕舞いました。
「わかりました、殿下。じゃあ王宮に帰ったら、ばつとして、ヴァニオンといっしょに馬たちの世話をお手伝いください」
王子さまの目がちょっとかがやきました。黒天馬たちの世話をお手伝いできるなんて! 王子さまたちはまだ小さくて、厩舎に行っても「蹴られると危ないから」といつも追い返されてしまっていたのです。
それはおしおきというよりも、ごほうびではないのかしら、と思いましたが、王子さまはすなおに「はい」と言ってヴァニオンを振り返りました。
ヴァニオンはまだ半泣きでした。けれど鼻の頭やほっぺに残るヤケドのような樹液の痕は、かれが王子さまを守った勲章みたいなものですものね。おうちに帰ったらやっぱりこっぴどく叱られるんでしょうけれど、あとでこっそり、この乳兄弟にはなにか特別な感謝のしるしをあげなきゃいけないなと思いました。魔象のツノのかけらとか、面白いカタチの鉱石とか、珍しい羽虫のぬけがらとか。王子さまも男の子らしく、宝箱という名のガラクタ入れに色々集めているのです。ともだちに友情を示すためにならば、宝箱の中身を見せて選ばせてあげてもいいと思いました。
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