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王子さま、ともだちを助ける
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台所ではメリン伯母さんが腕を振るいます。穴ウサギのすね肉や、リスの煮込み、燻製のピザなどの料理が並びました。
「母さまも同じものを食べたのかな?」
「燻製は我が家に伝わる独自の製法だからね。きっとお母さまも食べたでしょう」
メリンおばさんがいいました。
『今日はお客がきた』ということで、アルヴィスの親戚も地下通路を通っておおぜいやってきました。ドヴェルグ小人の一族はみんなずんぐりした背格好で、同じ顔に見えました。数十人が集まり、王子さまを囲んでにぎやかな食事がはじまりました。
するとその大騒ぎで、眠っていたヴァニオンが目を覚ましたのです。
「な、なんの騒ぎだ? どこだよここは……」
王子さまははヴァニオンに、一日のうちに起こった出来事を話してやりながら、胴着を貸してやりました。ヴァニオンは花粉を吸い込んで以後、いっさいの記憶がないというのです。樹液まみれで木に宙づりにされていたことも覚えていないようです。王子さまはちょっぴりあきれましたが、ヴァニオンも王子さまにあきれました。だって狩り場では大人たちが王子さまのいなくなったことに気づいて今ごろ大慌てしているでしょうに……。いやいや、ヴァニオンは、王子さまがどれだけ大変な思いで自分を助けたかなんて、知りませんから仕方がないですね。
服が半分以上溶けてしまったヴァニオンは、ズボンはアルヴィスのものを借りましたが、案の定お腹はぶかぶかで、丈はぜんぜん足りませんでした。
けれど子どもたちはひとまずからっぽのお腹を満たさなければなりませんでしたから、食べるのに夢中でだれもそんなことは気になりませんでしたよ。
:+:-・:+:-・:+:-・:+:-・:+:-・:+:-・:+:-・:+:-・:+:-・:+::+:-・:+:-・:+:
さて、そのころ森では、冥王さまの配下の魔族たちが王子さまを探しまわっておりました。魔族の騎士たちだけではなく、狩り大会に参加していた冥界貴族たちも王子さまを探しました。
王子さまのお姿が見えなくなってから何時間も経過し(人間界の暦では丸一日といったところでしょう)、もしも食人樹に囚われていたら命の危険が差し迫っています。騎士団長は部下を引きつれて森に入り、けもの道を進むうちに、王子さまの付けたとおぼしき、真新しい目印を発見しました。すぐに騎士団長は軍務卿を呼びました。
軍務卿ヴェルキウス公は、かつて冥王さまの元へいち早く参上し忠誠を誓った9人の魔族の氏長のひとりです。9人の中ではもっとも年齢が下でしたが、勲功は抜きんでており序列は筆頭でした。均整のとれた長身で、ひときわ立派な鎖かたびらを着ていなかったら、叙任されてまもない新米騎士と間違われるほどの若さでした。
ヴェルキウス公は目印を確認すると、すぐ冥王さまに報告しました。
「母さまも同じものを食べたのかな?」
「燻製は我が家に伝わる独自の製法だからね。きっとお母さまも食べたでしょう」
メリンおばさんがいいました。
『今日はお客がきた』ということで、アルヴィスの親戚も地下通路を通っておおぜいやってきました。ドヴェルグ小人の一族はみんなずんぐりした背格好で、同じ顔に見えました。数十人が集まり、王子さまを囲んでにぎやかな食事がはじまりました。
するとその大騒ぎで、眠っていたヴァニオンが目を覚ましたのです。
「な、なんの騒ぎだ? どこだよここは……」
王子さまははヴァニオンに、一日のうちに起こった出来事を話してやりながら、胴着を貸してやりました。ヴァニオンは花粉を吸い込んで以後、いっさいの記憶がないというのです。樹液まみれで木に宙づりにされていたことも覚えていないようです。王子さまはちょっぴりあきれましたが、ヴァニオンも王子さまにあきれました。だって狩り場では大人たちが王子さまのいなくなったことに気づいて今ごろ大慌てしているでしょうに……。いやいや、ヴァニオンは、王子さまがどれだけ大変な思いで自分を助けたかなんて、知りませんから仕方がないですね。
服が半分以上溶けてしまったヴァニオンは、ズボンはアルヴィスのものを借りましたが、案の定お腹はぶかぶかで、丈はぜんぜん足りませんでした。
けれど子どもたちはひとまずからっぽのお腹を満たさなければなりませんでしたから、食べるのに夢中でだれもそんなことは気になりませんでしたよ。
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さて、そのころ森では、冥王さまの配下の魔族たちが王子さまを探しまわっておりました。魔族の騎士たちだけではなく、狩り大会に参加していた冥界貴族たちも王子さまを探しました。
王子さまのお姿が見えなくなってから何時間も経過し(人間界の暦では丸一日といったところでしょう)、もしも食人樹に囚われていたら命の危険が差し迫っています。騎士団長は部下を引きつれて森に入り、けもの道を進むうちに、王子さまの付けたとおぼしき、真新しい目印を発見しました。すぐに騎士団長は軍務卿を呼びました。
軍務卿ヴェルキウス公は、かつて冥王さまの元へいち早く参上し忠誠を誓った9人の魔族の氏長のひとりです。9人の中ではもっとも年齢が下でしたが、勲功は抜きんでており序列は筆頭でした。均整のとれた長身で、ひときわ立派な鎖かたびらを着ていなかったら、叙任されてまもない新米騎士と間違われるほどの若さでした。
ヴェルキウス公は目印を確認すると、すぐ冥王さまに報告しました。
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