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王子さま、ともだちを助ける
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「金色の髪は洞窟の中でみつけた金塊なんかよりもずっと輝いていた。女は名前を明かさなかったが、天から落ちてきた男神を探している、と言っていた。俺たちはまだ、そのころは何のことだか分からなかった。地中奥深いこの世界に、天から落ちてくるようなおっちょこちょいの神さまがいるもんかと思っていたからさ。
だが彼女はひどく消耗している様子だったので、一族の家で休ませてやり、暖かいスープをふるまった。その人はスープを呑んで、母のちいさなベッドで休み、また旅に出ようとした。とても急いでいる様子だった。
『天から落ちてきた男の神さま』ってのはあとから知ったんだが冥王のことだったんだな、つまりあの女の人は、冥王を探して降りてきた女神だったんだ」
王子さまは胸が熱くなりました。
とびとびの伝え話で聞かされてきたお母さまの消息を、まさか矮人族から聞くことになるとは思わなかったのです。
「急いでいる様子だったので、おれのおっ父が地下道の入り口まで案内してやり、その短剣をゆずってやったんだ。大きな剣はとてもじゃないが、非力で持てないと言うのでな。
だが、そこまでは普通の短剣だ。女神が、短剣に命を吹き込んだ」
「命を? どうやって?」
王子さまは尋ねました。
「女神は剣に加護を与えたんだ。どうやるかってのは、あんたのが詳しいんじゃないのかい? 俺らには説明できない。
そうすると短剣は、青白い神気につつまれた。ちょうどほら、さっきあんたが握ったときのように」
ベンツァーは王子さまの手元を指さしました。
「精霊の宿った短剣で、女神は腐樹界の森を抜けたんだろうな。じゃなきゃ、女の足で、あの食人樹が数百体はいる腐樹界の森を抜けられるわけがない。その後の消息は知らない。けれどそれからずいぶんと経ってから、魔族たちの王、冥王と名乗る神が現れた。やがて冥王の城ができ、冥府の都は精霊たちの盾壁で覆われるようになった。
都ができてから、一度王宮に招待されたことがあるんだ。
冥王様は女神を助けてくれた礼を言って、おれたちに王宮付きの刀鍛冶にならないかと誘ってきた。だがおっ父は穴ぐらから出て暮らすのはいやだと断り、断ったお詫びに、後日あの短剣とおそろいの柄で作った長剣を献上した。冥王様は、その場で長剣に加護を与えた。
お妃が亡くなり、王子が生まれたと聞いたのはそのあとぐらいだ」
「じゃあ、この短剣は、母上が持っていたものだったのかな」
王子さまは自分の手の中の短剣を見つめてつぶやきました。
「そういうことだな。それがあんたの持ち物である証拠に、俺が握っても何の光も発さなかった。あんたが握ったときだけ、効力を発するんだ。きっとお父上が、母上から預かって、あんたのために大切にしまっておいてくれたんだろうさ」
自分が王子だということもばれていたようです。王子さまは、照れくさそうに、あらためて世話になった礼を述べました。
「だが、少々刃が研ぎ足りないみたいだ。研ぎなおしてやるから、ちょっと貸しなさい」
王子さまから短剣を預かったベンツァーは、職人の目つきになりわずかな刃こぼれに目を光らせはじめました。
「おかしいな。最初に拾ったときよりも、剣に宿る力が弱い…」
「どういうこと?」
「分からない。小さい刃こぼれと関係あるのかもしれない。とりあえず研いでみよう」
そのとき、急に王子さまのおなかがぐるると鳴りました。ぱっと赤面した王子さまを見て、アルヴィスが笑いました。
「おれも腹が減った! 父ちゃん、先に飯にしよう」
だが彼女はひどく消耗している様子だったので、一族の家で休ませてやり、暖かいスープをふるまった。その人はスープを呑んで、母のちいさなベッドで休み、また旅に出ようとした。とても急いでいる様子だった。
『天から落ちてきた男の神さま』ってのはあとから知ったんだが冥王のことだったんだな、つまりあの女の人は、冥王を探して降りてきた女神だったんだ」
王子さまは胸が熱くなりました。
とびとびの伝え話で聞かされてきたお母さまの消息を、まさか矮人族から聞くことになるとは思わなかったのです。
「急いでいる様子だったので、おれのおっ父が地下道の入り口まで案内してやり、その短剣をゆずってやったんだ。大きな剣はとてもじゃないが、非力で持てないと言うのでな。
だが、そこまでは普通の短剣だ。女神が、短剣に命を吹き込んだ」
「命を? どうやって?」
王子さまは尋ねました。
「女神は剣に加護を与えたんだ。どうやるかってのは、あんたのが詳しいんじゃないのかい? 俺らには説明できない。
そうすると短剣は、青白い神気につつまれた。ちょうどほら、さっきあんたが握ったときのように」
ベンツァーは王子さまの手元を指さしました。
「精霊の宿った短剣で、女神は腐樹界の森を抜けたんだろうな。じゃなきゃ、女の足で、あの食人樹が数百体はいる腐樹界の森を抜けられるわけがない。その後の消息は知らない。けれどそれからずいぶんと経ってから、魔族たちの王、冥王と名乗る神が現れた。やがて冥王の城ができ、冥府の都は精霊たちの盾壁で覆われるようになった。
都ができてから、一度王宮に招待されたことがあるんだ。
冥王様は女神を助けてくれた礼を言って、おれたちに王宮付きの刀鍛冶にならないかと誘ってきた。だがおっ父は穴ぐらから出て暮らすのはいやだと断り、断ったお詫びに、後日あの短剣とおそろいの柄で作った長剣を献上した。冥王様は、その場で長剣に加護を与えた。
お妃が亡くなり、王子が生まれたと聞いたのはそのあとぐらいだ」
「じゃあ、この短剣は、母上が持っていたものだったのかな」
王子さまは自分の手の中の短剣を見つめてつぶやきました。
「そういうことだな。それがあんたの持ち物である証拠に、俺が握っても何の光も発さなかった。あんたが握ったときだけ、効力を発するんだ。きっとお父上が、母上から預かって、あんたのために大切にしまっておいてくれたんだろうさ」
自分が王子だということもばれていたようです。王子さまは、照れくさそうに、あらためて世話になった礼を述べました。
「だが、少々刃が研ぎ足りないみたいだ。研ぎなおしてやるから、ちょっと貸しなさい」
王子さまから短剣を預かったベンツァーは、職人の目つきになりわずかな刃こぼれに目を光らせはじめました。
「おかしいな。最初に拾ったときよりも、剣に宿る力が弱い…」
「どういうこと?」
「分からない。小さい刃こぼれと関係あるのかもしれない。とりあえず研いでみよう」
そのとき、急に王子さまのおなかがぐるると鳴りました。ぱっと赤面した王子さまを見て、アルヴィスが笑いました。
「おれも腹が減った! 父ちゃん、先に飯にしよう」
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