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矮人族のこと
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しおりを挟むびっくりした瞬間、草がブチッと抜けて、王子さまはバランスを崩してアルヴィスの背中の上からひっくり返ってしまいました。
穴ウサギのワナに落ちたときのように、またドサッと今度は背中から落ちました。
両手に雑草を握りしめたまま、ぎゅっと瞑っていた眼を開けると、そこに立っていたのは矮人族の男の人でした。
「おっ父!」
アルヴィスが慌てて立ち上がります。
「なんでここに?」
「どうもこうもねえ、メリンに聞いたんだよ」
「おばさん、もうしゃべっちゃたのか。口軽っるいな~」
ポリポリ頭をかくアルヴィスの横で、王子さまも立ち上がり、アルヴィスのお父さんに挨拶しました。
「あ、あなたのおうちのウサギ罠を壊してごめんなさい。この上で、食人花に追われて、友達が捕まっちゃったんだ。ちちう…父さんからもらった短剣もこのあたりで失くしちゃって」
「あんたが失くしたのはこの短剣じゃないかい?」
アルヴィスのお父さんが懐から出したのはまさに、王子さまの探していた短剣でした。
「ああ、よかった。大事な短剣なんだ。見つけてくれてありがとう」
王子さまはほっとして短剣を受け取りました。短剣の刀身は不思議と、王子さまの手の中でぼうと蒼白く光りました。まるで王子さまとの再会を喜んでいるかのようです。
それを見ていたアルヴィスのお父さんは、こんなことを言いました。
「その短剣、あんたのかい? お父さんにもらったと言ってたね」
「は、はい」
「その短剣、昔うちの先代が拵えたものだよ」
「えっ!?」
これには、王子さまもアルヴィスも驚いてしまいました。
どうりで、アルヴィスの腰の剣と装飾がよく似ているはずです。
「お父、どういうことだい? じいちゃんの時代は、まだ魔族の連中に武器なんて売ってなかっただろ」
アルヴィスが尋ねます。
「まあ、その説明はあとだ。今はとにかく、あんたの友達とやらを助けなきゃいけないだろう。急がねえと手遅れになる」
アルヴィスのお父さんは背中の背嚢から蔦でつくられたなわばしごをとりだすと、手早くほどいて器用に穴の入り口にひっかけました。これで簡易はしごの完成です。
「ありがとう。上は危険だから、アルヴィスはここで待ってて。ぼく友達を探してくるよ」
そういって王子さまがひとりで上って行こうとすると、アルヴィスが後ろから声をかけてきました。
「カン違いしてるんじゃないか? 矮人族は地中からめったに上へは出て行かないが、まったく出ていかないわけじゃない。ましてや、友達を手伝うためだもんな。おいらもいくぜ」
アルヴィスのお父さんもうなずきます。
「俺も行こう。あんたはどうやらまだ子どもだし、あんたの友達とやらも見捨てるわけにはいかないしな。それに食人花の生態については俺ら矮人族のが詳しい」
父子の頼もしいことといったら。
王子さまはほっとして礼を言いました。自分ひとりであの食人花に立ち向かうなんて、正直なところ不安しかなかったのです。
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