小さな王子さまのお話

佐宗

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矮人族のこと

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「とても強い、りっぱな父上なんだ」
「お前のおっ父も、冥王の子分なのか?」
「そ、そうだよ。魔族はみんなそう。冥王さまに仕えてる」
「冥王ってどんなやつだ? 天上界からきたんだろ。そもそもどうしてそんなやつに魔族は従わされちゃったのかなぁ」
「優しい神さまだよ。それに魔族はむりやり冥王さまに従わされたんじゃなくて、逆に魔族がお願いして、王さまになってもらったの」
「魔族も変わってるよなぁ。争いごとをやめたきゃ自分たちで話し合って解決すればよかったじゃないか。どうして冥王を呼んだりしたんだ? 神さまって、そんなにすごいのかよ」
「……」
 王子さまはちょっと言い返したいのをぐっとこらえました。自分のことにかぎって言えば、そんなにすごくもえらくもありません。神さまの子どもというだけで、まだとくに何もできませんし。冥王さまはすごいですが、魔族たちに呼ばれて冥界に来たわけではないのです。天上界の仲間の神さまたちに強引に、そう決められたからです。
 ああだけど、きっとお父さまがこの世界にくることは初めから決まっていた運命だったのでしょう。だって精霊たちの話では、かれらは主となる神さまがいつか降りてくることを知っていて、長らくそれを待っていたそうなのですから。魔族たちだってきっと……。
 王子さまはぐるぐると考え込みましたが、身分をかくしたまま「それは違うよ」と言葉を選んでうまく反論することができませんでしたから、黙ってしまいました。

 そして王子さまは、アルヴィスの口ぶりからかれが冥王さまのことをあまりよく思っていないことにも気づきました。かれは(または、矮人族ドヴェルグは)冥王さまのことを『天から来たよそ者』と考えているようです。だから魔族が冥王さまに従っていることが不思議で仕方がないのでしょう。

 たしかに、大多数の魔族がお父さまを冥界の王と呼んでいるだけで、他の種族はまだ正式には冥王さまのけらいになったわけではないのです。でもこれは、まだ幼い王子さまにとっては、手の届かないむずかしい問題のように思えました。


 王子さまは話題を変えることにしました。
「食人花っていうの? あのしゃべる花」
「ああそうだ。おいらの家の上は半分が魔獣界、半分が腐樹界あたりにあるんだ。腐樹界の木や花はあんな怪物ばかりさ。毒を持っているか、俺たちのような生き物を捕らえて食べるか。両方同時にやるヤツもいるよ」
 アルヴィスは表情も変えず、自分の家の天井部を指さしました。この上に咲いている花たちが危険な生物であることは、常識のようです。
「普通の剣では斬れないっていったよね」
「うん、おいらたちのじゃ全く歯が立たない。だからおいらたちは食人花の森には入らないようにしているんだ」
「そうなんだ……」

 王子さまはおかしいな、と感じました。
 だって、さっき森で食人花に囲まれたとき、王子さまの短剣は確かに花たちの蔦や葉っぱを切り裂いたからです。食人花たちは「ぎゃ!」叫び声を上げていませんでしたか?
 アルヴィスは続けます。
「だからお前の短剣を見つけてもたぶん意味ないぜ。お前のお父からもらった大事なものだっていうから、探しには行ってやるけどさ」
「うん。でも一体、どんな剣なら食人花に効くの?」
「…これはここだけの話なんだけどさ、」
 アルヴィスは神妙な顔になりました。
「実は冥王とか、神族の剣なら効くんじゃないかって言われてる」
「……それって、普通の剣とどこが違うの?」
「冥王は神力をつかって自分の剣に呪いをかけているらしいんだ」

 王子さまは自分の持っていた短剣が、ただの短剣ではなかったかもしれない、とやっと気づきました。普段気にしていなかったのですが、きっと何らかの神力の込められたものだったのでしょう。絡まった紐ぐらいしか切ったことのなかった短剣は、まさに使うべきときにきちんと威力を発揮していたのです。なのに早々に、落とし穴におちた拍子に無くすなんて……。
 情けなくて、王子さまはこっそりため息をつきました。


 二人は王子さまが落ちてきた穴にたどり着きました。土砂とともに、アルヴィスの仕掛けた穴ウサギ用のわながあたりに破れて散らばっていて、周囲に短剣は見当たりません。そこで穴の上を探そうということになりました。アルヴィスが土砂の上に馬のように四つ足になり、王子さまを背中に乗せました。王子さまは手を伸ばして崩れた穴の上に体を出そうとしました。
 穴のまわりに伸びている雑草に手が届き、それをつかんでぐっと穴の外に出ようとしたとき、背後から声が響きました。
「何をやってる!?」
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