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この国ができたころのこと
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さて……天上界でただひとり、闇の神さまの肩を持った女神がいた、という話をしましたね。
彼女はティアーナという、心優しい金髪の女神でした。
彼女は闇の神さまがからかわれているときは彼を助け、彼が地底に降りてからは、ずっと彼のことを案じていました。
仲間の誰にも言えませんでしたが、じつは月のない夜に天王宮の庭で初めて出会って言葉を交わして以来、彼女は闇の神さまのことが気になっていました。神々の誰もが『あいつはみにくい』と言いますが女神さまは彼のことを、一目見てすてきな殿方だと思いました。理知的なまなざしだけれどももの憂げで、交流を拒んでいるように見えるのに、口調には深い優しさがあり、そして何よりも、とても寂しがりやで救ってほしそうに見えたのです。なによりも彼は周りから『精霊も持たず、できそこないの神』だと思われていたのに、女神さまには彼の真の姿はこれではないと感じ取れたのです。女神さまは、かれの心の奥の本質を見つめていたからです。
女神さまは、それ以来、闇の神さまのことが気がかりで、彼のことばかり考えるようになっていました。
闇の神さまは、地底へおりてからも天の同族たちにまだ悪口を言われていました。
「ちっとも冥界の争いごとが収まりゃしない。あいつは何をやっているんだ?」などと。
ティアーナ女神さまはそれを聞き、闇の神さまとお別れしたときのことを思い出しました。闇の神さまは天上界を追い出されるとき、表情に出さずとも、とても悲しそうな眼をしていました。そして女神さまは兄妹たちに混じって遠巻きに見ているよりほかなかったそのときのことを、ずっと悔やんでいました。
彼のことが心配でたまらなくなった女神さまは、ある日とうとう天上から身を投げ出して、地底世界に自ら降りていったのです。
女神さまは何も見えないにひとしい暗黒の地底を手さぐりで探検しました。地底に降りてから女神さまの持つ命の精霊はほとんどいなくなり、闇の精霊と死の精霊たちは女神さまをよそ者と見なして冷たく追い払おうとしました。それでも女神さまはかれらの意識の向く方角へ歩き続け、苦労して闇の神さまを探し出し、再会なさいました。
そのころには、闇の神さまは神らしく生きることをも放棄して、洞穴のすみで何やらブツブツとひとりごとを言うばかりでした。ティアーナさまに見つけ出されたかれは、「そなたと再会してうれしい」と久方ぶりに意味のある言葉を発しました。
服もボロボロになって、臭くて、ひげもぼうぼうで、洞窟の奥でうずくまっていた彼を、女神さまは優しく献身的に慰めました。女神さまもずいぶんと地底をさまよったので手足は傷だらけでしたが、闇の神さまの傷は、目に見えないもっと深いところにあるのです。
「あなたはもうひとりぼっちではないの。私がそばにいます」
女神さまはかれを抱きしめキスをして、洞窟の外にいる魔族たちのお願いを聞いてあげるように勧めました。
おそらくそれが、神さまらしさを取り戻すために大事なことだというのが、ふたりにはおのずとわかっていました。
闇の神さまは女神さまの手を借りて体を清め、魔族たちから献上されたきれいな衣に袖を通しました。そしてようやくほら穴から出て魔族たちの挨拶を受け、彼らの主君になることを了承したのでした。
闇の神さまが天上より降臨なさってからここまで、数百年とも、千年近くかかったとも言われています。
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