小さな王子さまのお話

佐宗

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あちらの国の王子さま

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 小さな王子さまのお生まれについて話しましょう。
 小さな王子さまには、お父さまがいます。
 家族はお父さまだけです。

 お母さまはいません。お母さまは、王子さまが生まれるとすぐ、具合を悪くしてこの世を去ってしまわれたからです。

 お父さまは、冥王さまと呼ばれています。世界がまだ生まれたてだったころ、人間界の上にある『天上界』にいた神さまだったそうです。

 お父さまは、闇と死と混沌を司る神さまでした。ですから天上界の兄弟神たちからは|《うと》疎まれていて、昔にひとりぽっちでこの地底の死者の国に降りてきたそうです。
 天上界の神さまたちって、生命力にあふれていて、キラキラと光り輝くものが好きですからね。お父さまの『闇』そして『死』という神力をみ嫌い、すばらしい絹の黒髪までもを気味悪がって、のけものにしていたそうです。

 でも王子さまは、そんなことはよく分かりません。王子さまはお父さまが大好きです。お父さまがどれだけ思慮深い、よい神さまか、わかっています。
 冥王さまはたいへん背が高く、背すじがしゃんとして、美しく、厳しく、気高く、優しくて、おまけにとても強い、ご立派な神さまです。

 小さな王子さまが世間のものごとを、時には失敗しながら少しずつ学んでいくように、お父さまもまた、どう子どもを導けばいいか考え、回り道を繰り返しながら、王子さまと一緒に日々成長しているのです。さすがにもう背は伸びませんけど、親としてね。


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 お父さまである冥王さまは、小さな王子さまを心からいつくしみ、将来のあとつぎとして立派に育てようと、常に心をくだいておられました。

 ただお忙しいですから、いつも一緒にいるというわけにはいきません。冥王さまが魔獣退治や、遠くの領地へお出かけになるときなどは、魔族の乳母夫妻が、王子さまを何日かお預かりすることもありました。

 この『魔族』というのは、この地底の国に昔から住んでいた先住種族です。
 姿かたちは人間にも、天の神さまにも似ています。人間よりは寿命がうんと長いです。でも神さまほどではありません。魔族はそのむかし、地底のあちこちに集落をつくって暮らしていましたが、冥王さまが天を追われこの地に降りてきたあとに、冥王さまの元へ集まってきて忠誠を誓ったといわれています。

 魔族の乳母夫婦にはひとり息子がいて、この息子が物心つく前から王子さまの遊び相手になっていました。これまた、大変に活発でやんちゃで始末に負えない魔族の少年なのですが、王子さまとは赤ちゃんの時分からケンカしたり仲直りしたりしながら、一緒にすくすくと成長しました。一日会わないとその日はつまらないと思うほど、ふたりはいつも一緒に遊びました。


 乳兄弟は冥王さまの子どもであることなどお構いなしにイタズラをしかけてくるので、王子さまも本気でやり返して、時にはとっくみあいのけんかもしました。乳兄弟の良いところは、性格がほがらかで後に引きずらないところです。けんか別れをしても次の日にはすっかり忘れて、あっけらかんと王子さまを誘いに来るのです。かれに比べると王子さまは少々、前の日の名残りでふさいだ気分のときもありましたが、かれと遊び始めると次第に忘れて笑顔になるのでした。乳兄弟は幼い時分からすでに、王子さまの気分を明るくさせる名人でした。
 王子さまはといえば、すこし気まぐれなところがありましたが、乳兄弟はたいていその気まぐれに振り回されることを楽しんでいました。はしゃぎすぎてどちらかが怒られるときも、いつも一緒にいました。
 そんなわけで、ふたりは大の親友でした。



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