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第四章 明けぬ夜の寝物語
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しおりを挟む「これまで――特に幼い頃――父上の傍らにあるとき、私は時おり生まれてきてよかったと思うこともありました。それは父が、私の存在ゆえに幾許かは堕神としての孤独から救われ、慰められているように見えていたからです。
しかし成神となった私がいま問題にしているのは、私のそうした面での存在価値そのものです。
私はただ単に、孤独だった父上の御心を安んじるためだけに、貴女によってこの世に産み出されたのではないかとさえ思うようになった。
神族としてどうこうではなく、ひとりの命ある存在として――私は自分の存在意義を見つけ出したい。
どうやったら自分の存在意義を自分に納得させることができますか? ……それとも本当に、私は父上の代用品もしくは玩具としてのみ生きていけばいい?」
八つ当たりだという認識は充分あるが、肖像画の母へ向けてさえ辛辣な台詞を吐いてしまう。
……いや、やはり、もう止めておこう。ティアーナは厳密には人間のように死んだのではなく、三界のさらに上にあるという創世界に転位したのだ。
わが子の暗澹たる愚痴を上界で聞いているとするならば、彼女が心を痛めていないはずはない。
「……甲斐症のない息子をお許しください。誰にも話せない内容なので、つい貴女に零してしまいました。本当はここに来るまでは、下らない愚痴で御耳を汚すつもりはなかったのです」
胸に手を遣り、肖像画の母へ敬意を込め一礼した、その時だった。
闇の精と死の精たちが鋭い威嚇の声を発し、部屋の扉へと殺到していった。
ナシェルも何者かの気配を覚って素早く振り返った。
さきほど閉めてきた部屋の扉は、やはり開いてはおらず、何の変哲もないように見える。
しかし何らかの違和感を感じたナシェルはつかつかと静かに扉に歩み寄り、それを引き開けた。
「!」
勢いよく開いた扉につられるように、部屋に転び込んで来た者がある。
上背の高いナシェルは、床に突っ伏したそれを塵芥でも見るかの如く高みから睥睨し――、
そしておのれの目を疑った。
肖像画の母が――金髪の乙女が、そこに居たからである。
(作者より
※第四章後半部をお送りしております。
主人公の心情を語る上で避けられず、また本編への布石となるシーンとなるためこのまま描写を進めますが、今一度あらすじの注意書きをお読みくださった上で先へお進み頂きますよう、お願い申し上げます。)
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