泉界のアリア【昔語り】~御子は冥王に淫らに愛される~

佐宗

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第二章 幻獣の野にて

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「殿下もじきに立派な領主となられる。お前たち二人、いつも仲良くつるんでふわふわ遊んでいるようだが、ヴァニオン。…今一度襟を正して行動に責任と誇りを持ち、殿下に対しても臣下の礼をわきまえるように」
「わ、分かったよ……。分かりました」

 臣下の礼をわきまえないどころか毎夜毎夜、殿下に対し破廉恥な行いに及んでいるヴァニオンの胸に、この説教は突き刺さった。

「なら良し。さっさと寝ろ、数刻後には陣を畳んで移動だ」

 ジェニウスは云い放つが早いか、簡易寝台に上がり寝具にくるまって寝てしまった。
 ヴァニオンはどっと疲れて、卓の上に突っ伏す。

(はあ、びっくりした。よもや親父にナシェルとのこと、ばれているのかと思ったぜ)




 ヴァニオンが長靴ブーツ胴着チュニックを脱ぎ、寝る準備を整え、寝袋に潜り込もうとしたときだった。
 天幕の中に闇の精が一匹するりと入ってきて、殿下のお召しであるとひそひそ声で告げた。

(え。今から?……なんつう間の悪い……まあいいか)

 普段ナシェルが従えている死の精たちは使役に不向きなので、代わりに闇の精を飛ばしてきたようだ。
 さっきは『そんな気分ではない』などと拒んだくせに、やっぱり一人寝が恋しくなったのだろうか?

 父親に説教されたそばからコソコソと忍んでいくのも気が引けたが、王子からのお召しとなれば致し方ない。

(仕方ねえな、ナシェルのやつ……気まぐれなトコも可愛いけど!)

  父親が眠りについていることを確認し、ヴァニオンは適当に服を羽織って抜き足差し足、天幕を出た。



***



 数名の歩哨が陣の中を時おり巡回しているほかは、人影もない。
 ヴァニオンは歩哨たちに見つからないように注意しながら、王子の天幕に向かった。


 ナシェルの使う天幕の向こうには、ひときわ大きな冥王の天幕が見える。
 テントとはいえ厚手の皮を何重にも巡らしたものなので防音は万全といえるが、それでも声を抑えないと、外に漏れ聞こえてしまわないとは限らない。
 王の天幕が近くにあることで、さらに緊張感が増す。

 どきどきしながら、天幕に近づいた。
 辺りからはすでに人払いがされており、衛士の姿はない。

 ヴァニオンは期待に胸膨らませてにやにやしながら、ナシェルの天幕に忍び入った。

 ―――途端、違和感を感じる。
 咄嗟に、帯びている剣の柄に手をかけた。

(誰か……、誰か居る……!)

 違和感は、それだけではなかった。
 衝立ついたてに遮られた向こう側。
 王子の寝台の上で、押し殺した……しかし官能に満ちた、喘ぎ声がする。

「ん……あぁ……はぁっ、はぁっ……やぁ……っ!!」

 ――ナシェルだ。

 体が、カッと熱くなった。
 燭台の心許ない灯かりに照らされて、重なり蠢く二つの影が、天幕の向こう側の壁に大きく映し出されている。

 誰かが、ナシェルを……組み敷いている。犯しているのだ。

(誰だ!!)

 体中を怒りが駆け巡った。

(殺してやる!!)

 怒りに任せて衝立ごとなぎ倒し、乱入するはずだった。
 だが踏み出しかけた足は……半歩めで凍りつく。
 押し殺したナシェルの喘ぎ声に混じり、耳に飛び込んできた、残酷な声を聞いて。

「おお……そなたの乳兄弟が来たようだぞ…。そなたのこの淫らな姿を見せてやろうか。
 何と云うだろうな?」

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