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番外編
かけがえのない日々⑰※
しおりを挟むナシェルは潤んだ蒼眸で背後の王に訴えかける。
「――余も、そなたに酷いことをしたいわけではないのだよ。だがそなたが、余以外の者にあんな表情を見せていたと知ってしまった以上はね……そなたにも、こうして嫉妬に狂う余の心情を伝えておかねば気が収まらぬ。……移り気なそなたが、この体の隅々まですべて余のものだと繰り返し誓ったことも忘れて、この先も隠れて魔族の男どもに体を許したりはせぬかと心配になるのだ。何度誓われようと、そなたが余の半身で、たったひとりの世継ぎであるかぎり永遠に心配は尽きぬ」
「父上……」
絵を見た瞬間の王の絶望を想い、申し訳なさで涙があふれてくる。同時に「嫉妬に狂っている」と直に告げられて、これほどに相思相愛であっても別々の個体である限り永久的に王を安心させるには至らないのかと思うと、ナシェルのほうもやや途方に暮れてしまう気持ちも湧いてきた。
「ごめんなさい……もう絶対あんなことはしませんから……」
「本当に? そなたの得意の、口先だけの誓いではない?」
言葉とともに乳蕾を強く引っ張られた。血の溜まった先端は、もう快楽を得すぎてジクジクと痺れのような感覚へと変わっている。
「ぁあっ……!!」
「ナシェル……どうなのかな」
「ち――違うから……本当に誓いますから……もう二度と貴方を不安にさせるようなことはしません」
長い期間の教育で淫らな性器に変えられた乳首がつらくて、今は気持ちよくて。
父の指の絶妙な加減が切なく、もっと欲しくてたまらない。
「貴方を愛してます、ずっとずっとそうだった。これからもそう――」
息をあげながら繰り返し誓い、涙をこぼす。
「父上、ごめんなさい……許して、もう……」
王は、呼吸を荒げ涙をこぼし朦朧とした様子のナシェルを思い遣ったか、責める手を少し休めて背後から体をそっと密着させてきた。
「――反省が足りぬなら悪い子のそなたの体に、余のものである証の宝石を取り付けてやろうと思って飾りを仕立てさせて持ってきたが……そんなに可愛らしく一途に誓われたのなら、もうこれ以上泣かせる気が起きなくなってしまうよ。どうしようね」
「飾り……?」
ナシェルは濡れた睫毛をふるわせ冥王を仰ぎ見る。
急に愛撫を止められたので心細くなり、無意識に、後ろに膝立つ王に悩ましく体を擦りつけてしまう。すると王のものも既に硬く屹り立っているのが衣服越しに尻に感じられた。早く欲しくて切なくなり、きゅうと下肢が疼く。
「どんなものか見たいか?」
「はい……見たいです」
肯いて興味を示すと、王はどこからともなく闇の精たちに特注品らしき宝石箱を運んで来させた。――箱そのものは初めて見るが、蓋に施された細微な意匠には見覚えがある。矮人族の拵えによるものだということは、すぐに分かった。
少年神の頃からナシェルを躾けるとき、王は時おり、そうした装飾に溢れた宝石箱からナシェルの成長に合わせた性具を取り出して使用した。今でも冥王宮のナシェルの少年時代の部屋には両手で一抱えもある宝石箱が置かれていて、中には手枷や大小の張型、連珠などの猥らな小道具が整然と収められている。箱も中身もすべて、矮人族に精を込めて作らせた特注の品物であると教えられた。だからナシェルにはその中身が、そうした特殊な道具であると予測がつく。
……中から出てきたのは、掌ほどの長さの金鎖の先に、台座に嵌った藍色石のついた装身具だった。耳朶につけるためか、鎖の先端には輪になった留め具と、穿孔用の針も見える。
「綺麗だろう。これほど深い藍青色の石は珍しい……そなたに似合うと思って造らせたのだよ」
手首を吊られたままでそれ以上視線を落とせないナシェルのために、王は装飾を手に取り、優しくナシェルの目先へと近づけた。
美しい金の輪。自分のために。……父の手でそれを……着けてほしい、と思った。
「石の台座は余の指輪と揃いで造らせたよ。一度身に着けたら容易に外れぬように、この針を刺してから輪を通して固定せねばならぬ。そなたの体に針を入れることが躊躇われて今までこうしたものは着けさせなかったが……」
「いえ、賜りたく存じます」
顔を上げたナシェルの眸を見て、王は暫しのあいだ考えるように黙した。ナシェルの藍青色の瞳の奥には淫靡な期待と、愛する者への信頼が浮かんでいる。半身の向けてくる傾慕と忠誠を汲んだ王は、吐息がかかるすれすれの距離で彼と、装身具を挟んで見つめあった。
「……本当に欲しいのか? 無理強いはせぬよ」
「はい……着けていただきとう存じます。一目見て、そのように」
魅惑的な容をした、類いまれな手仕事の装身具を目にした瞬間から、ナシェルには拒絶の意はなかった。
体の疼きに囚われる彼は、早く王の手で施しを与えられたくて唇を震わせて乞う。
「それが欲しいです、どうか貴方の加護を込めて。いつでも貴方の神司をお側に感じられるように」
「……良かろう。身に着けておればいつでもこの石の重みと闇の加護が、余の愛をそなたに伝えてくれるであろう」
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