泉界のアリア

佐宗

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番外編

かけがえのない日々⑯※

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◇◇◇



「あぁ……っ、父上、やぁ、やめ……やめて」
「どうして? ここも、下も、勃ちあがって悦んでいるではないか」

 背後から伸ばされた手に、硬く尖った両の乳首をぎゅぅと摘ままれて、ナシェルは小さな悲鳴を漏らした。
「ひ……っぁ、痛っ……、」

 仕置きだと言わんばかりの、少々手荒な愛撫を受ける。王の長い指が乳輪の周りを辿り、突起を撫でて酷くつまむ。ナシェルが蒼眸のふちに涙を浮かべれば、なだめるように頬を撫でられ、しずくを指で掬われて、……濡れた指がまた胸へと戻り、赤らんだ乳頭をしつこく捏ねられた。

 ナシェルは両手の肘から先を絹帯で拘束されて、膝立ちで天蓋の梁から吊るされていた。絹帯に結ばれた縄はちょうど尻が浮く程度に調節され、梁に通されたあと天蓋の柱に括りつけられている。
 着ていた夜着は、帯をそのように拘束に使われたせいではだけてしまっている。ナシェルは半裸で肢体をくねらせた。身じろぎのたびに頭上の梁が軋む。

「――気持ちいい、の間違いであろ。素描画を描かれたときのそなたもこうして縛られて乳首ここを、あの男にいじられ尽くしたのであろう? ツンと勃ったここをあの男に晒して――下もめいっぱい嬲られて、嬉しそうな表情かおを描かれていたね。公爵の趣味を知っておったゆえ余は裸体ヌード画を描かれているぐらいは覚悟していたが、正直あれを見て絶句したよ……。そなたが縛られるのも好きなのは無論知っておるが、誰も彼もがそなたを縛って良いわけはないよね?」
「ぅう……はい……」

 王は背後から寄り添うように膝立って、ナシェルの耳元に口を近づけ吐息を吹きかけるようにして懇々と説教する。――そうして愛しい王子をひたひたと追い込みながら、腋の下から前に手を伸ばし、可愛い色をした乳蕾つぼみを手荒く揉みしだくのだった。

「そなたをこういう風に可愛がっていいのはこの世にひとりしかいないね? 誰だろう」
「……貴方だけです、我がきみ……」

 その答えに王は満足と不興の入り混じった溜息をつき、ナシェルの顎をついととらえて振り向けた。
 紅玉の瞳に鋭く見つめられて、ナシェルは戦慄ふるえる。期待で、腰がくだけそうになる。

「では、今はどう? その愛しい余に縛られて嬉しくはないのか?」
「はい、嬉しいです……嬉しい。父上、もっと、して……苛めて」
「そうであろう。――だが、まぁそう急くな。むろん余もどうせ責めるならそなたを気持ちよくさせてやりたいのは山々だが……それ自体が今日の目的ではない。分かるよね? イくことばかり考えていないでちゃんと話を聞きなさい……」
「う、ぅ……」

 すぐにはげられないと知り、ナシェルは暗鬱な気持ちで父王を見返した。眼差しを交わすだけで、いじられてもいない下半身にこんなにも熱が溜まってしまうのに、王は少々不機嫌で、愛し合うこと自体が今日の目的ではないという――。王がナシェルを叱りに来たのは明らかで、交わるのは、咎めをきちんと受けてからにしようね…、ということのようだ。

 ああ…でも、今の自分なら言葉で強く叱責されながら尻を叩かれるだけで案外簡単にイけるかもしれないぞ、と、ナシェルは倒錯的な期待にあやうく胸を膨らませかけ、王の無表情な眼差しに気づいて畏縮する。恐々しつつも体が疼いて仕方がない。

「……あのねナシェル、」
 父はそんなナシェルの瞳の奥の爛々とした光から心境の変遷をも感じ取っているのか、少々醒めた声色で、しみじみと話を続けた。

「……百歩譲って、取引のために仕方なく体を許した、とかいうことも分かっておるし、その辺の委細ももう咎めるつもりはないのだよ。余が問題にしているのは素描画の中のあの恥ずかしい姿勢ポーズもだが、特にそなたの表情だ……無表情な画もあるが、大体どのも……そなたが嫌がっているようには見えぬ」
「………」
「少々、そなたもノッていたのだね?」

 王の瞳が、咎めるようにすぅ……と細まる。

「……いえ、あの……」
 ナシェルはしどろもどろに申し開きの言葉を考える。しかしそうしている間にも王の手が腰を滑り降り、尻をつねる。
「あぅ、……っん!」
 痛みと、触られる嬉しさで、思考が麻痺してしまう。

「……そなた、反省しておるのか?」
「反省してます……、してますけどあの……、正直あまり覚えていないというか思い出したくなくてその辺、記憶があやふ」
「とても反省の態度には見えぬな、ナシェル……きちんと反省ができるようになるまで、だめなことはだめだと繰り返し、この体に教えてあげなければいけないね……」

 王は愁眉し、慄えるナシェルの背を撫でた。あらわな腋の下に指を這わせ、また手荒く乳首を蹂躙する。
 そこはとうの昔に開発を終えているため、今や父の指で少しいじられただけですぐにぷっくりと勃起ふくらんでしまう。中腰で手首を梁に吊られる、という背徳的な体位で、そこばかりを執拗に弄ばれる。ナシェルは水に溺れる者のように呼吸を乱し、王の胸に縋ることも許されずにいて赦しを乞う。
 片手で尻たぶを揉まれながら乳首に少々爪を立てられ、ちりりと灼熱がはしった。

「ひっ……あぁ……ん!」
「気持ちよいのか? 達してしまいそうか。どこが良いのだ?」
「ぁふ……乳首です、乳首きもちぃ父上……イきそう、イっちゃいそう」
「達することはまだ許さぬ。そなたは、こうして少々懲らしめても悦ぶばかりで反省の色を見せぬ悪い子だからね。この体に分からせるまでは……」


 王はそういうと、今度は充血した乳蕾を二本の指できゅうきゅうと捩じり寄せて引っ張る。
 爪を立てるようにして勢いよく引っ張られぷつんと弾かれる都度、肥大したそこはプルルと瑞々しく揺れ、ナシェルはあまりの刺激に上半身をビクンビクンと波打たせた。体の内側までもが熱く火照り、峠が近づいてくるのが分かる。眩暈と動悸がし、脳裏にちかちかと火花が散る。

「…あっ、あぁっん、きもちぃ、も、らめぇ……!」

 ナシェルは頭上で縛られた両手を握りしめ喉を反らせて喘ぎ喚くが、王は手を休めない。胸の尖りをねちねちと虐めるその指加減は絶妙で、まるでナシェルがどれぐらいの強さの愛撫で絶頂するのかをわきまえているようだ。強く引っ張ったあとは軽く撫でられて、色と形を言葉に出されて、ナシェルの精神は鞭と飴に翻弄されるが如く、千々にかき乱される。

「あん、はぁ……っはぁ、ぅあ……」

 次々に押し寄せる快楽に頭が火照り、ほとんど我を失いかけていた。絶頂したい気持ちが押し寄せて気が焦るが“達してはならぬ”という命令を思い出して必死で我慢する。歯を食いしばろうとしても息苦しくて無理で、空気を求め口が開いてしまう。

 振り乱した黒髪が、汗で白い背にじっとりと張りつく。だがその不快感も胸に感じる強烈な快感の前に打ち消されていた。半勃ちだった下も完全に勃ちあがり、透明な液をこぼし始めている。

「はぁっ……もうっ……ゆるして……」
「ナシェル」

 何も出ない乳頭を、まるで乳絞りするように指で挟んで扱きながら、王が背後から囁く。

「自分のしたことをきちんと反省できるね?」
「あっ、あ…反省してます、ごめんなさい、反省するから、おねがい、もう……父上っ……」

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