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第四部 至高の奥園
5 半身③
しおりを挟む「なるほど、あの子はもう手遅れなほどお前に支配されつくしているというわけだね」
天王は指で額を押さえ嘆息する。
冥王は隣室のほうへ向けていた視線を、兄に戻した。
「……そもそも選択肢など必要ない。余とあれは魂の底で結びついている。
貴様こそ秩序やら平等やらに囚われるあまり、一人の者を、命を差し出してでも守りたいと思うほど、魂の奥まで愛したことなどないのであろう。そんな貴様に我ら二柱の深い結びつきなど理解できるか。父と子だからなんだというのだ」
「……開き直るな。どうやら我々の考えは平行線のようだね」
傲然と顎を上げるセダルとは対照的に、レオンの表情には呆れの色が漂う。
「そんなに宿命的な愛を押しつけていると、さぞかしナシェルも窮屈だろうな」
「何が言いたい。はっきりと言え」
「頭の狂った親に育てられて、あの子が可哀想だって言ってるんだよ……」
「残念だがナシェルはそうは思っておらぬ。余を愛し、尊敬している。自ら求めている」
「ああ……」
レオンは絶望的に噛み合わない、と言わんばかりに天井を仰いだ。
「やはりお前の育て方はどう考えても間違っていたとしか言えないよ。お前の存在はあの子にとって重圧以外の何物でもない。あの子は、お前といる限り自由な思考はできない。あの子がお前の神司の呪縛から解き放たれ、正常な意思で何かを選ぶことができるようになるまで、やはりもうしばらくここで預かったままの方がいいのかもしれない。お前はあの子を支配しすぎなんだよ!」
「何を、馬鹿な!」
冥王はついに、怒気を露わに吐き捨てた。
「貴様いったい何を聞いていた? そんなことをしても無駄だ! 余とあの子は『突然変異種』なのだぞ!?
余以外の誰かが、あれに何かを与えてやることができるか!?
――貴様は? この世界は!? あれに何を与えてやれる?
ナシェルがこの天上界で得られるものといえば、異端への蔑視か、それともあの通りの衰弱か。二つにひとつしかないではないか!
あれに神司を注ぎあれを生かしてやれるのは余だけだと言っているのに、まだ呪縛がどうとか自由がどうとか常識論ばかりほざくのか、この分からず屋が」
「ナシェルはもう成神だよ!? これ以上淫らな行為で神格を上げてやる必要なんかないじゃないか。ナシェルをもうこれ以上、異常な愛情とかお前の神司で縛りつけるなと言っているんだ」
「だからそれはほんの切欠に過ぎなかったと言っておる。父子で番うことが問題なら貴様が異端神としてあの世界にたった独り堕ちてみるがいい! 余とナシェルには互いしかおらぬのだと何度云ったら分かる、この馬……」
一触即発となったその場に突如、鈴のような声が響き渡った。
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