泉界のアリア

佐宗

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第三部 天 獄

40抵抗と服従の狭間②※

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 腕の中でナシェルは、めくるめく快楽に溺れ、胸を波打たせている。
「こっちももうこんなに勃ってるぞ」
 不意にレストルは唇を離し、ナシェルの躯の中心に視線を向けた。ナシェルのそれはいつしか膨張し、腹に付くほどにそそり立っていた。
「乳首を弄ってやっただけでこれか? 淫らな躯だな……」

 羞恥に顔を背けるナシェルを、突如寝台に仰向けに突き飛ばしたレストルは、美しいかたちをしたそれを観察するように、上からじっとりと視線を絡めた。
 ……頬が紅潮する。だが逃れようにも躯の下で両腕が戒められているために腰が浮き上がるような形になり、隠すどころかその部分を突き出すような格好にされていた。
 せめて足を組もうと膝を浮かせると、すかさず手で払いのけられ、太腿を掴んだ彼に下肢を押しひろげられ、開脚させられてしまう。
 
 聳りたつ花芯、そしてそのさらに奥にある、双丘のあいだに埋もれた器官――。
 足を広げて横たわる、秘部を露わにしたその扇情的な姿勢に、レストルの心はより嗜虐的に掻き立てられる。

(美しい……。まるで綻び始めた花のようだ……。
 だが、虚しいことにこいつは俺に全く心を開こうとは考えていない……。どうする、どうすればこいつを、俺のものにできる……?)

 彼は導かれるように、そっと手を躯の中心に運んだ。根茎に這わされた指の、とろけるような感触に、ナシェルの躯が、怯えたように再びびくんと浮き上がる。

「アァ……ん……ッ」
 唇から洩れる切ない溜息。だがそれも、ゆっくりと律動を開始したレストルの指の動きによって、徐々に嬌声へと変わってしまう。
「ん……あ……は……あぁ……」
「いい声だ……ちゃんと啼けるじゃないか」
 絡めた指でやわやわと花芯を揉み解していきながら、レストルが嘲笑する。


 ナシェルは躯の下で交差した肘を両手で握りしめ、迫りくる悦楽に抗おうともがく。尖端からは徐々に先走りの透明な蜜が滴りはじめ、レストルの指を濡らしてゆく。

「淫乱だな……。いったい誰に、こんな躯にされた?」
 耳を嬲るように、そう訊かれた。ナシェルは答えず、眼前の男を睨み付ける。

「……また反抗的な目つきだな。もう一度訊いてやる……、誰がお前を、こんな躯にしたんだ? あの魔族の男か? まさかお前は神でありながら、あんな下等な種族と交わり、こんな猥らな躯にされたのか?」
「……違……ッぁあ……く、ぅ……」
 蜜を滴らせる芯を掌に締め上げられ、ナシェルの顔が苦悶に歪む。首を振るたびに、黒髪が乱れてシーツの上に紋様のように広がった。

「じゃあ……誰だ? お前を、こんなにも感じやすい、淫売な躯にしたのは?」
 レストルは茎に絡めた手を殊更に激しく揺り動かしてみせた。尖端の割れ目からはもう、とろとろと先走りの露があふれだしている。

「ああっ!……はぁ……」
 躯で敏感に応じながらも、ナシェルは必死に歯を食いしばり答えなかった。己を開発したのが父であるなどとは、教えるわけにいかない。

 レストルは苛立ちをぶつけるように、ナシェルの牡を悪戯に弄んだ。もっと蜜をあふれさせてみせろとばかりに、完全に成長しきった芯を、追い立ててゆく。

 広げた下肢の間に男が腰を下ろしているので、ナシェルは足を閉じることもできない。どんどん高められていく中心は、いまや張り裂けそうな熱を帯びていて、峠に、達したい、この昂ぶりを、はやく解き放ちたいと、そのことばかりが脳裏を占め始める。

 「ああ……んああ……ッあ……」
 ナシェルの開かれた足が、我慢の限界を表すように、びくびくと跳ねはじめた。
「そろそろ、イきたくなってきただろう?」
「あ、あ……っ―――あ……あッ」
「だが、俺の質問にも答えられないような反抗的な虜囚を、そのままイかせると思うか?」
 レストルは片方の手でナシェルの濡れそぼった根茎を愛撫しながら、もう片方の手で己の服を寛げはじめた。

 彼が上着の胸元に編み込まれた革紐を解き、服を脱ぎ捨てると、鍛え上げられた上半身が露わになる。
 ナシェルは吐息を喘がせながら、不覚にもその体躯に視線を吸いよせられてしまう。
 服を脱いだ男が、花芯への愛撫をやめてそのまま覆い被さってくるのかと一瞬思ったが、そうではなかった。

 レストルは脱いだ服の胸元の革紐を外すと、横たえたナシェルの顔の上にそれをちらつかせる。
 茶色の革紐だった。細いが頑丈そうな……。

「ちゃんと俺の質問に答えられないなら……これでお前のモノを縛りつけてやる」
「……!」
「じっとしていろよ」
「や、や……め……ッ」

 ナシェルは首を振って拒絶するが、左右の足の付け根を男の両膝でしっかりと踏まれており、抵抗といっても僅かに下肢を振る程度ことしかできない。猥らな動作となって、レストルに更に嗜虐的な笑みを零させただけだ。

「お前はな、これからは俺の許可なしには射精することもできないんだ」

 云うや否や、男はナシェルの花芯にそれをきつく絡ませはじめた。ナシェルの唇から、悲痛な声が漏れる。

「い、い……た……ッい……! や……、ぁ」

 根元から先端近くの窪みまで、螺旋を描くようにぐるぐると結いあげられてしまう。それでも革紐はまだ随分残っている。レストルはさらに二重に、先端から根元まで反対周りにぐるぐると螺旋を作り、根元の部分で端を解けないようにしっかりと結わえた。

「うぅ……はぁぁ……!」

 戒められた昂ぶりに、熱が集中していた。放出の直前までいきかけたところを妨げられ、出口を失った狂瀾に、ナシェルの躯が激しく身悶える。
 ぎちぎちに結わえられた花芯が、なおも昂ぶりを解き放ちたくて白い腹の上でうねる。

「どうだ、キツイか」
 巻かれた革紐の隙間から覗く、充血し、激しい色に変じた茎を、レストルは眺めて笑うのだった。
「イきたくてたまらなくなったら、俺に頼むんだ。『射精させてください、ご主人様、お願いします』とな。それができなければずっとこのままだ」
「はぁ……は……誰、が……そんなこと……云……」
「おや、まだそんな口が叩ける余裕があるのか?」

 革紐で雁字搦めにした根茎に、再び指を絡められた。
「ひぅ……く……ッ」
 あまりの辛さに、ナシェルの頬が紅潮してゆく。薔薇に染まった頬に、レストルのもう片方の指がそっと触れてきた。優しく顔を撫でられ、ナシェルは一瞬だが落ち着きを取り戻す。

「射精させてください、レストル様、だ。分かったな?」
「……ッ……」
 加虐的な行為の最中であるというのに、なぜか自分を見つめる男の眼差しの中には、思わず胸を突かれるほどの熱情が、込められているように見えた。






 そのとき寝室の扉が開き、出ていくときと同様鼻歌交じりに、弟神が戻ってきた。アドリスは、昂ぶりを皮紐で結わえられて横たわるナシェルを視界に入れるや、例の半開きの瞼を少し見開いた。

「わお、えっろぉ。兄貴どう、そいつスゴいっしょ?」
「まだまだこれからだ」
「俺も混ざっていいんだよねえ?」
「仕方ないな、来いよ」

 アドリスは天蓋の外でいそいそと上半身だけ脱ぎ、楽しげに寝台に上がって来る。
「ナシェル……今からふたりでたっぷり虐めて、可愛がってあげるからね」

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