泉界のアリア

佐宗

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第二部 虚構の楽園

24密約の代償④※

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 どろりとした冷たい感触が、火傷の跡を掻き回す。先程とはうってかわった心地よい痺れにナシェルは思わず呻いた。

「……は、あぅ、……んっ」
「可愛らしいお声ですね……陛下に抱かれる時は、そのようなお声で沢山おねだりをされるのでしょうね、妬けちゃうな……。じゃ、ここはどうです?」

 背後から抱きしめるようにして、ファルクの手がみぞおちから胸部あたりを弄った。
 火傷の引き攣れるような痛みが、軟膏によって和らげられていく。そしてぬめぬめとした快感が、肌中を広がっていく。

「よ、止せ……あッ……」
「ふふ、正直になればいいのに……。ここは固くなって膨れてるけど、火傷じゃありませんよね? なんでかな?」

 べったりと濡れた指先が、乳輪の円周を弄った。ファルクは度重なる加虐によって理性を失った王子の躯が敏感に反応を示すのを確認しながら、乳頭部分をぐりぐりと揉みしだく。
 同時に、熱い舌を背筋に沿って這わせ始めた。

「……ん……っ」
「殿下……、凄く感じちゃってますね。乳首こんなにぷっくり尖らせて……、あんなに強がってた割には、本当いやらしい躯だなぁ……。でも分かりますよ、陛下のしつけが行き届いてる証拠ですね……」
「だ……、黙れ……っ」

 胸への愛撫を拒絶し、猫のように背を丸める王子の背骨の節々をファルクは、偏執的な舌使いでひとつひとつ舐め上げる。

 指と舌での前後からの愛撫に、言葉によっても辱められ、どんどん蕩かされていく。
 鞭のあとは飴……と、巧みに使い分けられた責め立て方で、もはや転がり墜ちながら掴まる場所もなく、ずるずると篭絡されていくのだった。

 ファルクは王子がやがて抵抗を諦め、感じはじめたと悟ると、再び身を起こして軟膏の瓶を取り、ナシェルの背中に流し落とした。

「せっかくですからこれ全部使っちゃいましょうね……ぬるぬるして気持ちいいですよ」

 瓶を空にしてしまうと、彼も服を脱ぎふたたび背後から覆いかぶさって自分の胸や腹を使ってそれを広げはじめた。
 熱い肌と肌が、塗り広げられた軟膏によってぴったりと吸いつく。

「あ……はぁ、」

 身悶え、シーツに顔を押し付けて善がっていると、再び躯の前に廻されたファルクの指が腹を滑り降り、陰茎を握ってきた。

「ア!……」

 ねばつく指に、包み込まれる。
 先端からは既に先走りの蜜が滲み、伝い落ちている。

「ふふ……こんなにも硬く張りつめて……ちょっと胸いじっただけで下からこんなにヨダレ垂らして、本当に淫らな躯してるんですね」
「っふ、ぁ、…あ……っや、め…」
「やめてほしい? 本当に? ここでやめていいんですか」
「っ……、」
「本当はどうして欲しいか、ちゃんと云ってごらんなさい、殿下……」
「ば……、誰が……あぅ!」
「恥ずかしいんですか? やめちゃいますよ? こんなに勃ってるのに……」

と、ファルクはナシェルの花芯を掌中で弄びながら嗤った。他方の指ではまだ乳首をくりくりと揉んでいる。

「それよりも、もう私も我慢できなくなっちゃいましたので、失礼してそろそろお邪魔してもよろしいですかねぇ」
 ファルクはのらりくらりと云い放ち、乳首を揉んでいた右手を後ろへ廻して尻を撫で、その奥にある蕾に触れた。
 躯がびくんと跳ねる。

 軟膏でたっぷり潤された指で、その周辺と内部なかが、ぐいぐいと圧し開かれてゆく。
 拒絶する心とは裏腹に、そこは難なく公爵の指を二本三本と呑みこみ、すぐにやわらかく熟れて、ひくついた。
 己の淫猥さに体が震える。


「待て……っ、待て、」
 上ずった呼吸の合間にかろうじて言葉を吐き出した。

「いっておくが、中にだけは、出すなよ……っ」
「はいはい、いつも聞いてるから分かっておりますよ、殿下」

 公爵は二つ返事だ。
 ナシェルは枕に額を押し付け、荒くなる呼吸を枕に吸わせる。
 そして閉じた瞼の裏に張り付く、王の凍りつくような紅玉の双眸から逃れようと頭を振った。
 だが愛する者の狂おしく嫉妬深い視線を心に感じれば感じるほど、それは更にナシェルを燃えたたせる。

 ファルクはそんな王子の想いなどお見通しであるかのように、片方ではナシェルの中心を扱き、片方では後孔の中に入れた三本の指をくねらせる。背後から囁いてきた。

「……陛下のことを考えて逃避されるおつもりではないでしょうね? 間違えないで……、今から貴方様を貫くのは、陛下じゃなくて臣下の、この私ですよ。
 さて、どうやって苛めてあげましょうねぇ。貴方が後背位がお好きなのは知ってるんですが、今日は顔を見ながらする方がいいかな……、仰向けでお願いしますよ、殿下」

 力任せに仰向かされると、ファルクの、愉悦に烟った暗紅色の瞳と目が合った。

 膝立ちになり、丸眼鏡を指の腹でぐいと押し上げた公爵は、ゆっくりと一呼吸おいてから、ナシェルの膝裏を両手で抱え上げ、自分の太腿の上にナシェルの尻を引き寄せる。手の自由を奪った状態で両脚を抱えて屈脚させ、強姦的な体位で王子の尊厳を踏み躙るのだ。

「目を逸らさずによく見て下さい、今から貴方を貫くのが誰であるのか……」
 言葉によっても責め立てたのち、屹立した男性器をナシェルの蕾の内にずぶりと埋め込んだ。

「ひ、ああぁ……!」
 ナシェルは圧迫感と内部を駆け抜ける快感に仰け反り戦慄く。視界が一気にぼやけた。
「目を逸らさないでと云ったでしょう。私を見なさい、ナシェル様」
「あ、あ……はぁ……は……」

 息つく間もなく下半身が打ち付けられ始め、思考など一気に吹き飛んだ。

 己を見つめてくる男の、貴公子然とした冷徹な眼差しと、絶え間なく耳に注がれる嗜虐的な言葉と、内部の一点を集中的に突いてくる精緻な抽挿。視覚、聴覚、触覚のそれぞれが同時に苛まれ、犯される。

「凄いですね、貴方の内部なかは……。動くたびに、嵌め込んだモノを確実に達かせるために効果的に締め付けてくる……こんな風に締められたら、そんなに長くは、持ちませんよ……。無意識にそうなるように、もう躯がちゃんと訓練されているんですね……陛下に」

 ことさらに王のことを持ち出され、頬が紅潮する。
 内部に感じる硬いものが、忽ち熱を増してゆく。

「家臣に姦られる気分は、どうです……? 普段は涼しい顔をしてるくせに、ド淫乱だからな貴方は。すごく悦んでるように見えますよ……肌が色づいて……」
「あっあ、あぁっ……んぅ……あぅ」

 ナシェルの昂ぶった陰茎が、解放を求めて下腹の上で蜜を滴らせる。

 内部のあまりの締め付けに、ファルクも途中からは言葉を失い、無言でひたすら突き上げ貪ってきた。丸眼鏡の奥の瞳は淫欲に翳っていた。

 尻に腰を打ちつける乾いた音と、ナシェルの切ない喘ぎ声だけが部屋中に響き渡る。
 最奥にある快楽の壺を、しつこいほど丹念に責め立てられ、とうとうナシェルは達した。

「ああ、ァ…………ぁああぁ……ッ!」

 密着した二人の腹の間を、白い滴が伝い落ちる。

 ナシェルが自分の突き上げで射精するところを観察し、ファルクは満足気に一呼吸した。
 自身も頬を上気させ、射精へと駆け昇る。

「イきますよ、殿下……、すみません、今日はやっぱりナカに、出させて頂きます……!!」

 達したばかりで忘我の淵にあったナシェルはそれを聞いて瞬時に身を竦めたが、もう遅かった。

 身の内でファルクの牡が爆ぜる。
 どくん、どくんと、まるで音が聞こえるかのようにリズミカルに、体内に打ち付けられる飛沫を感じた。

「……ッ!」

 一瞬混濁した意識は、すぐに鮮明になった。

 体内が冥王の神の精ではなく魔族の精液で穢されたことに思い至って、ナシェルは誇りの失墜と良心の呵責に声を殺して呻いた。


 異種の精、それは異邦にひとり捨て置かれたかのような違和感を心と肉体にもたらした。闇神の子とはいえ紛れもない神族である自分と、魔族との、絶望的なまでの相違。
 何度味わってもただ、この瞬間ばかりは異種に対する嫌悪感に苛まれる。


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