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第十二章 そして新大陸へ!
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しおりを挟むナシェルは気を取り直し、咳払いした。
「エヘン……なるほどそうだな、もう過去を振り返るのはやめよう。で、この魔法陣、どうやって使用する?」
「地面に置いて名前を呼んだら1人だけ冥界から誰か召喚できるらしいぜ。……まあ当初は陛下を呼び出すことを前提に渡されていたわけで、だからこそ使う機会は来ねえって決め込んで頭陀袋の底に敷いちゃってたんだけど」
ナシェルとヴァニオンは地面に魔法陣の紙を敷いてみた。
「……で、誰を呼び出す?」
「そら、位が高くてカネ持ってそうな……」
二人は同時に背後を振り返った。木陰で冥王が「ん?」という顔をする。
「父上、ひとつ伺いますが、この魔法陣、往復は可能なのでしょうか」
「当たり前であろう。往復1回限りだがな。呼び出すことができて戻すことができなかったら一行の人数だけ増えて、馬もないのに困るだろう」
「(最後まさに現在の状況じゃねえかよ)……」
「オッケーです、妙案を思いつきました」
ナシェルはパチンと指を鳴らした。
「父上、こちらへどうぞ」
「なぜ余を魔法陣の上に? 余だけ冥界へ送り返すつもりか、あんまりだ! そなた父をなんだと思っ」
「まさかまさか。聞いてください。父上の部屋を思い浮かべて下さい。宝石箱はどこにありますか」
「宝石箱? 暖炉のそばの飾り棚の中に、確か小さいのが1つあるな」
「上出来です。いいですか? 今から父上を一瞬だけ部屋に戻しますから、それ持って、また魔法陣の上に立つのです……」
ヴァニオンが、ナシェルの意図に気づいて小声で突っ込む。
「陛下に宝石箱持たせて、またこっち側へ召喚しようってのか?」
父もさすがに気づき眉間にしわを寄せた。
「それではまるで使い走りではないか。なぜ余がそんな猿の芸事のような真似をせねばならんのだ」
「ダメですか…(まれに察しがいいんだな……)。仕方ない、別の第三者を呼び出すことにしよう」
「切り替えが早ぇな……」
ナシェルとヴァニオンは、冥界にいる金持ちと思われる者の名を挙げた。
「お前の親父殿、ジェニウスはどうだ? 冥界九公爵でも随一の金持ちだろう」
「うちのオヤジ!? やめてくれよマジで。こんなところで会いたくねえし、それにオヤジ自身は普段そんなに煌びやかな格好してないぜ?」
「そうか、そうだな。ゴテゴテと装飾品で着飾ってる者を呼び出さねば意味がないか。女……?」
「うちのおふくろもマジでやめてくれよ!?」
「当たり前だろう、貴婦人から身ぐるみを剥ぐわけにはいかん」
「貴婦人じゃなければいいのかよ。も、もう発想とか発言とかがいろいろ主人公としてどうなの?……」
そしてナシェルとヴァニオンはやがて召喚候補としてひとりの人物に狙いを定めるのであった。
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