49 / 52
第十二章 そして新大陸へ!
6
しおりを挟む***
「じゃ、俺、ひとっ走りして前の大陸まで戻って闇嶺を連れて戻ってきますから、陛下と殿下はひとまずここでおとなしく待っててくださいよ!?」
町はずれの街道脇の木陰に、冥王とナシェルと幻嶺が仲良く座っている。
「絶対ここ動かないでくださいよ!?」
炎醒の鞍と鐙を締め直して確かめながら、ヴァニオンは振り返り念を押した。
ナシェルが「あ、」と手を打ち、立ち上がる。
「ヴァニオン。前の寄港地に戻るならついでに質屋で私の指輪を取り返してこい」
「あ、そだね。じゃあお金ちょーだい」
「…お前、そういうことをサラッと言うが根本的に何か間違っているとは思わんのか? 質入れした私の指輪を取り戻すのになぜ私がさらに金を積まねばならん? 私は質入れで一銭も手にしていないのにおかしいだろう」
「蒸し返すな蒸し返すなー、最初のケンカまたここで繰り返す気かよ?」
「貴様が下手な博打で取り返そうとするからこんなことになったんだろうが! 冥界に戻ったら耳揃えて返してもらうからな。……父上、すみませんが幾らかヴァニオンに渡してくださいませんか」
「余は持っておらぬよ。あの客船にすべて寄付したと言ったであろう」
「……。えッまさかアシールから取り上げた金銀財宝、全部寄付したの!?」
「我々の旅の資金もこれっぽちも手元に残さずに!?」
冥王は菩薩のように優しく微笑んだ。
「「えええええ~~ッ?」」
「『取り分ける』とか『加減する』って言葉を知らないのかよ……」
「詐欺師から取り返したのに結局また無一文……」
へなへなと頽れるヴァニオンとナシェル。
仕方なく二人はそれぞれ馬に縛り付けてある荷袋をほどき、何か売れそうなものはないかと中身を漁った。しかし質屋からナシェルの指輪を取り戻せるほど価値のありそうなものは何もない。
荷袋をゴソゴソやっていたヴァニオンが底に敷いてあった紙を発見し「おっ…?」と声を上げた。
「こんなモンが出てきた」
広げると、座布団ぐらいの大きさの紙に魔法陣のようなものが描いてある。
「何だこれは?」
「今思い出したわ。旅に出る前に陛下がくれたんだ。緊急連絡用の魔法陣。つまり、重大なアクシデントが起こって旅の続行が困難になったときとか、どうしても急ぎで陛下と連絡が取りたいときにこいつを使えって言われてたんだった。前の街で、使おうかどうか判断する前に陛下が直接目の前に現れちゃったからすっかり忘れてたわ、ナハハ。そもそもこの袋、馬にくくりつけっぱなしだったし」
ナシェルはしばしの沈黙ののち背後に聞こえぬよう声を低めた。
「……ちょっと待て。お前が最初から父上に買収されていたことが今の発言で明らかになったが、その件はひとまず置いておこう。……それはさておくとしても、お前が財布をスられたときにさっさと魔法陣を使って父上を呼び出し金を無心していれば、あとのゴタゴタした揉め事は全て防げたのではないのか……?」
「……そんな簡単に言いますけどねナシェル君。よく考えてみて。あの冒頭の状況で俺がもしキミの父上をサッサと召喚したりしてたら、そっちのがよっぽど重大アクシデントでしょうが……?」
立ち尽くす二人と、重大アクシデント約一名の間を、午後のおだやかな微風が吹き抜けていった。
0
お気に入りに追加
65
あなたにおすすめの小説
愛して、許して、一緒に堕ちて・オメガバース【完結】
華周夏
BL
Ωの身体を持ち、αの力も持っている『奏』生まれた時から研究所が彼の世界。ある『特殊な』能力を持つ。
そんな彼は何より賢く、美しかった。
財閥の御曹司とは名ばかりで、その特異な身体のため『ドクター』の庇護のもと、実験体のように扱われていた。
ある『仕事』のために寮つきの高校に編入する奏を待ち受けるものは?
生贄として捧げられたら人外にぐちゃぐちゃにされた
キルキ
BL
生贄になった主人公が、正体不明の何かにめちゃくちゃにされ挙げ句、いっぱい愛してもらう話。こんなタイトルですがハピエンです。
人外✕人間
♡喘ぎな分、いつもより過激です。
以下注意
♡喘ぎ/淫語/直腸責め/快楽墜ち/輪姦/異種姦/複数プレイ/フェラ/二輪挿し/無理矢理要素あり
2024/01/31追記
本作品はキルキのオリジナル小説です。
ある宅配便のお兄さんの話
てんつぶ
BL
宅配便のお兄さん(モブ)×淫乱平凡DKのNTR。
ひたすらえっちなことだけしているお話です。
諸々タグ御確認の上、お好きな方どうぞ~。
※こちらを原作としたシチュエーション&BLドラマボイスを公開しています。
釣った魚、逃した魚
円玉
BL
瘴気や魔獣の発生に対応するため定期的に行われる召喚の儀で、浄化と治癒の力を持つ神子として召喚された三倉貴史。
王の寵愛を受け後宮に迎え入れられたかに見えたが、後宮入りした後は「釣った魚」状態。
王には放置され、妃達には嫌がらせを受け、使用人達にも蔑ろにされる中、何とか穏便に後宮を去ろうとするが放置していながら縛り付けようとする王。
護衛騎士マクミランと共に逃亡計画を練る。
騎士×神子 攻目線
一見、神子が腹黒そうにみえるかもだけど、実際には全く悪くないです。
どうしても文字数が多くなってしまう癖が有るので『一話2500文字以下!』を目標にした練習作として書いてきたもの。
ムーンライト様でもアップしています。
公爵家の五男坊はあきらめない
三矢由巳
BL
ローテンエルデ王国のレームブルック公爵の妾腹の五男グスタフは公爵領で領民と交流し、気ままに日々を過ごしていた。
生母と生き別れ、父に放任されて育った彼は誰にも期待なんかしない、将来のことはあきらめていると乳兄弟のエルンストに語っていた。
冬至の祭の夜に暴漢に襲われ二人の運命は急変する。
負傷し意識のないエルンストの枕元でグスタフは叫ぶ。
「俺はおまえなしでは生きていけないんだ」
都では次の王位をめぐる政争が繰り広げられていた。
知らぬ間に巻き込まれていたことを知るグスタフ。
生き延びるため、グスタフはエルンストとともに都へ向かう。
あきらめたら待つのは死のみ。
獣のような男が入浴しているところに落っこちた結果
ひづき
BL
異界に落ちたら、獣のような男が入浴しているところだった。
そのまま美味しく頂かれて、流されるまま愛でられる。
2023/04/06 後日談追加
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる