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第十二章 そして新大陸へ!
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「じゃ、俺、ひとっ走りして前の大陸まで戻って闇嶺を連れて戻ってきますから、陛下と殿下はひとまずここでおとなしく待っててくださいよ!?」
町はずれの街道脇の木陰に、冥王とナシェルと幻嶺が仲良く座っている。
「絶対ここ動かないでくださいよ!?」
炎醒の鞍と鐙を締め直して確かめながら、ヴァニオンは振り返り念を押した。
ナシェルが「あ、」と手を打ち、立ち上がる。
「ヴァニオン。前の寄港地に戻るならついでに質屋で私の指輪を取り返してこい」
「あ、そだね。じゃあお金ちょーだい」
「…お前、そういうことをサラッと言うが根本的に何か間違っているとは思わんのか? 質入れした私の指輪を取り戻すのになぜ私がさらに金を積まねばならん? 私は質入れで一銭も手にしていないのにおかしいだろう」
「蒸し返すな蒸し返すなー、最初のケンカまたここで繰り返す気かよ?」
「貴様が下手な博打で取り返そうとするからこんなことになったんだろうが! 冥界に戻ったら耳揃えて返してもらうからな。……父上、すみませんが幾らかヴァニオンに渡してくださいませんか」
「余は持っておらぬよ。あの客船にすべて寄付したと言ったであろう」
「……。えッまさかアシールから取り上げた金銀財宝、全部寄付したの!?」
「我々の旅の資金もこれっぽちも手元に残さずに!?」
冥王は菩薩のように優しく微笑んだ。
「「えええええ~~ッ?」」
「『取り分ける』とか『加減する』って言葉を知らないのかよ……」
「詐欺師から取り返したのに結局また無一文……」
へなへなと頽れるヴァニオンとナシェル。
仕方なく二人はそれぞれ馬に縛り付けてある荷袋をほどき、何か売れそうなものはないかと中身を漁った。しかし質屋からナシェルの指輪を取り戻せるほど価値のありそうなものは何もない。
荷袋をゴソゴソやっていたヴァニオンが底に敷いてあった紙を発見し「おっ…?」と声を上げた。
「こんなモンが出てきた」
広げると、座布団ぐらいの大きさの紙に魔法陣のようなものが描いてある。
「何だこれは?」
「今思い出したわ。旅に出る前に陛下がくれたんだ。緊急連絡用の魔法陣。つまり、重大なアクシデントが起こって旅の続行が困難になったときとか、どうしても急ぎで陛下と連絡が取りたいときにこいつを使えって言われてたんだった。前の街で、使おうかどうか判断する前に陛下が直接目の前に現れちゃったからすっかり忘れてたわ、ナハハ。そもそもこの袋、馬にくくりつけっぱなしだったし」
ナシェルはしばしの沈黙ののち背後に聞こえぬよう声を低めた。
「……ちょっと待て。お前が最初から父上に買収されていたことが今の発言で明らかになったが、その件はひとまず置いておこう。……それはさておくとしても、お前が財布をスられたときにさっさと魔法陣を使って父上を呼び出し金を無心していれば、あとのゴタゴタした揉め事は全て防げたのではないのか……?」
「……そんな簡単に言いますけどねナシェル君。よく考えてみて。あの冒頭の状況で俺がもしキミの父上をサッサと召喚したりしてたら、そっちのがよっぽど重大アクシデントでしょうが……?」
立ち尽くす二人と、重大アクシデント約一名の間を、午後のおだやかな微風が吹き抜けていった。
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