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第十二章 そして新大陸へ!
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こうして客船アヴェイロニア号は無事に一週間に及ぶ航海を終え、東大陸の玄関口といわれる港に到着した。
「やっと着いた~~!!」
下船許可がおりると、真っ先に雄叫びを上げたのはヴァニオンである。実を言えば彼はナシェル以上に、移動の制限のある窮屈な場所が性に合わなかったのだ。やはり旅といえば黒天馬で翔けるのが一番で、船旅というのはこうも調子が狂うものなのかと、身に沁みて感じた日々であった。それと父子の世話で疲弊したのもある。(ナシェルの世話だけならまだ慣れているがさすがに冥王も一緒となるときつかった)
そんな風だから下船が待ちきれず、ヴァニオンはかついだ荷物を桟橋から地面に放り出した。ほとんど跳ぶようにして東大陸への第一歩を踏み出す。
ばんばん、と長靴の裏を鳴らして久々の地面にはしゃぐ様はまるで子供だ。
「うおお~! 当たり前だけど足元が揺れない! やっぱ大地は愛おしいぜ!(?)」
「地面と抱き合いたくば遠慮なく言え、いつでも地に這わせてやるから」
「やだナシェルちゃん物騒ね♡、オレ別に地面と真剣交際したいって言ってるわけじゃないのよぉ~……てか何、オレなんか悪いことしたっけ?」
「忘れたのか。お前、私の指輪を向こうの大陸で質屋に入れてそのままだろうが」
「ぶぉッ……!?」(瞠目)
などとやりとりしていると、背後から「おーい」と声をかけられた。
「ナシェルさーん!!」
桟橋を渡り上陸してから振り向くと、声の主はアシールとラミだった。
二人とも、上甲板からちぎれそうに手を振っている。
「皆さんさよーなら~!! お元気で~!!」
「またいつかお会いしましょう~!」
ナシェルは彼らに軽く片手を上げて応じ、ヴァニオンが大きく手を振り返しながら声を張り上げた。
「多分もう会うことねーと思うけど、お前ら頑張って足洗えよ!!もう盗っ人に戻んじゃねえぞ~~!」
真っ昼間だから仕方ないにしても、やけに今日は父が静かだな、とナシェルは王を振り返った。
冥王はナシェルに続いて下船しながら、なにやら考え込む様子で顎に手を当てている。
「父上? どうなさいました」
「ああいや、うーむ……やはりまだ何か引っかかっておってな……」
「忘れ物ですか? ていうか父上、乗船するときほぼ手ぶらでしたよね」
船内で王はナシェルの服をしれっと着回していたのだが、まぁそれはいい。
ちょうどそのとき船後方の貨物積み下ろし口から、貨物係の船員に誘導されて立派な黒馬が二頭、ポクポクと歩いて下船してきた。幻嶺と炎醒だ。黒天馬だが今は翼を隠しただの黒馬のふりをしている。アヴェイロニア号の貨物室の一角で世話されていたのだ。二頭は狭くて天井の低い貨物室での一週間が不満だったと見え、すこぶる機嫌が悪そうに見える。
「幻嶺」
ぶるんぶるん、と息を巻く愛馬に声をかけながらナシェルが近づこうとしたところ、冥王が背後で突然声を上げた。
「あああぁ!!」
びくっとして振り返ると、冥王は珍しく顔面蒼白となってナシェルを見つめている。
「ど、どうなさいました?」
「大事なことを今思い出した……」
炎醒の手綱を手に、ヴァニオンも近づいてきた。
「何、どうしたんすか急に大声出して」
「忘れてきた……向こうの港町の預かり所に……」
「な、何を忘……ま、まさか」
「闇嶺を向こうの厩舎に預けたままだ」
「ぅええええ~~~!?」
「はぁぁぁあ~~~!?」
「『街の中は馬で歩くの禁止』といわれて、町の外にある馬場つきの厩舎に預けたのだ。そのあと港町でそなたの気配を探しておったらヴァニオンと遭遇して……」
「そのまま三等の切符買って船に乗っちゃったってことですか!? 抜けてるにもほどがあるでしょうが!!」
「『町営の厩舎に馬繋いである』ってなんで俺に言わなかったんスか!!」
ナシェルとヴァニオンに口々に言われ、冥王はむしろ開き直ろうとする。
「それ言ったような気もする」
「いえ絶対おれ聞いてません!」
「じゃあ逆に問うが黒天馬以外の手段で人間界に来れるとでも思うか? 余がこの世界に来た以上、馬とセットなのは基本中の基本情報であろうが」
「――いや後半部分、まるごとこっちの台詞ですって!」
「馬と自分、セットなら忘れて来ますか普通!?」
へたり込みながらも再確認したが、厩舎では草も水も与えてくれているそうなので、とりあえず命の心配はなさそうだ。ただ、繋がれたままにされた闇嶺が怒って厩舎を脱走し、主なしでサッサと冥界に帰っていないとは限らないけれども……。
ナシェルは呆れてジト目で父を睨んだ。
「父上、少々浮かれすぎだったのでは?」
「馬鹿を申せ、断じて浮かれてなどおらぬ。むしろ、ナシェルそなたを心配しすぎるあまり周りが見えなくなっておったのだ。それもこれもヴァニオン、そなたが定時連絡を怠ったのがそもそもの原因だ」
冥王がヴァニオンに責任を押し付けはじめ、ナシェルは聞きとがめる。
「定時連絡? 何のことです……」
「と、とりあえず忘れてきたモンは仕方ないですし、これからどうするか考えましょう!」
乳兄弟が急に馬鹿でかい声で建設的なことを言いはじめた。
「おいヴァニオン、定時連絡とは何のことだ…?」
「ヴァニオン、悪いがそなたの黒天馬で一駆けして前の港に戻り、闇嶺を連れてきてくれぬか……」
と父子の台詞が被る。
「――はぁっ~!? しょ…承知…しました…ッ…(何だったのこの一週間…!?)」
「おいヴァニオン私を無視するな。泣いてないで説明しろ。定時連絡とは何のことだ?」
「余の馬めちゃくちゃ怒っておるであろうな……蹴られる予感しかない……」
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