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第十二章 そして新大陸へ!
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しおりを挟むその後、一行はナシェルのVIPルームに集まり、東大陸へ到着する前の最後の夜をともに過ごした。厳密にいえば三等の乗船切符を持つヴァニオンとラミは下階の船室へ戻らねばならないが、『敵がまた襲ってくる可能性があるから』とかなんとか船員に事情を説明してVIPルームにいることを許してもらったのだ。ヴァニオンによると『三等客室は全体的に非衛生的で臭い』らしく、たった一晩だろうともう戻りたくないとかで本気で感謝された。
「なぜそんなに臭うんだ? 何の臭いだ」
「分かんねえよ……獣くさいというかまあ、あらゆる有機物臭がすんだよ。気になるなら探検してくる?」
「うーん。見るだけ見てこようかな……嗅ぐだけ嗅ぐ?というか」
「あーやっぱナシェルはやめた方がいいわ。あんだけ臭ぇのに原因分かんなかったら多分イライラして船体のあちこちブチ抜きたくなってくるだろうから……三等には窓がないからよ」
「あのな。私はそこまで凶暴でも見境無くもない」
ナシェルは頬に空気を入れて部屋を横切り、今度は冥王のそばに座った。
冥王は長椅子を占領し片脚を投げ出して座っており、ナシェルを股の間に抱き寄せて黒髪を指で梳く。ナシェルも人前であるのに珍しく王の肩口に手をかけて頬を寄せ、双りの顔の距離が近い。
周囲そっちのけでイチャイチャが始まらないかと、ヴァニオンは窓辺に立って海を眺めながら内心気が気ではなかった。
ルームサービスで飲み物を頼み、彼らはラミの新たな門出のために乾杯した。
「良かったよかった、ラミにまともな職が見つかって。頑張ればきっと一人前の海の男になれますね。これで私も安心して、大陸に着いたらさっさと自分探しの旅の続きを――」
と、言いかけた詐欺師アシールをヴァニオンが止める。
「はぁ? 待てオマエ、いつから旅の目的が『自分探し』になったんだよ。盗賊団の金ネコババしてこの船で逃げてるだけだろが!」
「うっ」
冥王に髪を梳かれながら、ナシェルが薄く微笑んで言葉を継ぐ。
「次の港についたらすぐに引き返すための乗船券を手配してやる。安心して帰路に就くがいい」
「そ、そんな! 助命したけどやっぱ死ねって言ってるのと一緒です~っ」
「頭の回転は早いのだから何か他のまっとうな職に就けばそれはそれで成功できそうだったのに……惜しい奴を亡くしたな……」
「過去形にするのが早いです~! まだワタシ生きてます~!」
などとアシールをねちねちイジっていると冥王が仲裁した。
「……まぁまぁ、そのぐらいにしておいてやるがよい。この男もまた孤児の生まれで、ラミと同じように生きてきたのだ。裏稼業に浸かりきり、他の生き方を知らぬまま大人になってしまったという点では、こやつも不遇な身の上であったといえよう。
アシールとやら。じつは船長に、そなたの処遇についても頼んであるのだ」
「えっ……」
アシールの褐色の顔が引き笑いのまま攣った。
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