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第十二章 そして新大陸へ!
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しおりを挟む「きっと大丈夫ですよ。ラミがそんな素晴らしい話を断る理由はないと思います。
ラミはきっとあの港街でたくましく生き延びながら、自分の本当の居場所を探していたのでしょう。だからこの船に飛び乗った。
……過去の罪は水に流して、ラミには『自分がここにいてもいいんだ』と思える居場所を提供してあげれば、きっと彼は持ち前の器用さと賢さで自分の道を切り開いていけると思います。……マストのてっぺんまで逃げたことがまさかこんなことに繋がるとは、まだ夢にも思っていないでしょうけど」
言い終えたナシェルは冷たい海風を胸いっぱいに入れた。なんて素敵な夜だろう……冥界ではこうはいかない。地上界には昼があるから、夜の闇がとりわけ貴重なものに感じる。
それとも、思いがけず貴方とこうして過ごしているからか。
「そうだねナシェル。ラミ少年が意を決してこの船に乗り込んできたことは彼にとって幸運だったと言える。ヴァニオンから奪った金がラミを決断させた。人生の針路を変えるきっかけになったといっても過言ではない」
「有り金をスられた我々は一瞬、文無しになって慌てましたけどね」
「なに、あれしき、はした金だよ」
王は首をひとふりし、頬にかかる黒髪を後ろへはねのけた。
「……あれしき、はした金とおっしゃいますが、はじめヴァニオンにかなりの旅費を預けていたんですよ。父上は額なんてご存じないでしょう」
「む? ああ、そうかそうだったね、はは……」
冥王は夜空に笑いを響かせ、ナシェルは小首を傾げた。
「変なの」
ふと思いついて戯れに、帆を支える帆策に添えていた片手を離してみせた。海風をまともに受けた体は飛ばされそうになりながらも冥王の片腕に抱かれて辛うじて、船首の出っぱりに留まる。
少し危ういところに立つのが、スリリングで好きなのだ。
王に全身を預けるようにして、ぴたりと寄り添った。
体の凹凸すらももどかしく思えるほど。
王の腕が力強くナシェルを抱き寄せ、支える。
海風はふたりの髪をもつれさせ、後方へとはためかせる。
王の肩に頬を預けて、ナシェルは瞼を閉じる。
こんな素敵な夜が連日訪れるなら、ずっとこのまま航海が続けばいいのにな。
ずっとこうしていたいなと、小さく声に出して呟いてみる。
夜風に紛れて消えたはずの呟きを、王は耳聡く拾ったようだ。
「余もだよナシェル。ずっと一緒にいたいね……」
二人はいつまでもそうして寄り添い、波の音を聞いていた。
***
ナシェルの予想通り、見習い船員になれることを伝えるとラミ少年は大喜びで快諾した。
彼に聞けば、マストから落ちたとき、屈強な船員たちに受け止められて感謝の念が沸いたのと、その後の彼らのきびきびした避難誘導にあこがれを抱いていたのだそうだ。
「でも……オイラみたいなロクに字も読めない孤児でも、船乗りになれるかなあ……?」
喜びつつも少し不安を覗かせるラミを、ナシェルは柄にもなく励ましたりしてみる。
「字など船に乗りながらでも少しずつ勉強すればよい。学がないなどと自分を卑下してはいけない。これまでは機会に恵まれなかっただけだよ。そうだ、陸に着いたら勉強するための本を買ってあげよう」
「え、勉学所に行かなくても字が読めるようになる?」
「大丈夫。最初は少し誰かから教えてもらえるよう、船長に頼んでおいてやろう。私も学校へは行ったことがないが、ほぼ独学で200ぐらいの言語を操れるようになったよ」
「え!? 世の中には200種類も言葉があるの!? それ全部覚えてるの!? ナシェルさんって、本当にすごい人なんだなぁ……」
横で聞いていたヴァニオンが補足する。
「たとえば海豚とか鯨にも言葉があるだろ? ナシェルの言ってるのにはそういう動物語も入っちゃってるし、喋れるっつってもほとんど200種類の妖魔言葉でひでぇ悪口とか聞くに堪えない悪態つけるってだけだから……」
「うるさい。妖魔たちの言葉は基本的に悪態ばかりなんだから仕方ないだろう。だいたいなんでお前が謙遜するんだ」
ナシェルは乳兄弟を睨み、ラミの視線に合わせて少し膝を折った。
「ラミ、大丈夫。そなたは多分、同年代の子と比べても賢く、勘もいい方だ。それに運動神経も大したものだ。きっと立派な船乗りになれるだろう。最初は甲板掃除ばかりかもしれぬが、腐らずに一生懸命励めば、徐々に周りが認めて仕事を任せてくれるようになる。一人前の船乗りとして自立できるよう頑張りなさい」
「はい……ありがとうございます!」
ラミはきらきらと目を輝かせ、頭を下げる。ヴァニオンが横でにやにやしているのに気づき、ナシェルは軽く肘鉄を食わせた。
「今度は何を笑ってる」
「いやぁ。お前のそういう話し方、マジで陛下にそっくr……アイタッ」
「別に真似してはおらぬ」
「ホラもうそれも……痛ッ」
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