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第八章 乳兄弟、ラッキースケベで絶叫す
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しおりを挟む王は形のよい顎を手のひらで撫でた。
「ふむ……話を整理しよう。ヴァニオンが盗まれた旅の軍資金含む、犯罪グループの金をまるごと持ち逃げしたのがこの男だと。
で、こやつは乗船の際に『宝石商』を詐称し、同じくVIP船客だったナシェルをどこぞの貴族か何かとみて、さらに金を巻き上げようと近づいた、というわけか――?」
「い、いえ、この上さらに金を騙し取ろうなどとは思ってませんでした! ナシェルさんに声をかけたのは単純にただのナンパ目的で――」
アシールが哀れっぽい声で言い訳する。
ヴァニオンはその太腿あたりを爪先で小突いた。
「ただのナンパであんな変な薬盛ったりするかよ普通。エッチ目的だったに決まってんだろ!」
「……助命の余地のないクズです。このまま甲板に運んで海に蹴り落としてしまいましょう」
ナシェルがドスの利いた声で父に、血も涙もない提案をした。
「そんなことしなくても、お前の精霊使って今すぐこいつの魂狩ればいいじゃん?」
「あとで死体の処理に困って結局海に投げ捨てることになる。一緒のことだ。ヴァニオンお前、遺体抱えて甲板まで運ぶのと、自分の足で歩かせて甲板まで行ってもらうのどちらが良い?」
「そりゃ歩いてもらう方がいい。最後にチョイと背中押すだけでいいもんな」
「そうだろう。……それに私が精霊を動かすと、天上界の奴らにこのあたりの神司の動きを気取られるからな」
「ああそうか……天敵対策でそもそも地上界で妙な動きはできないわけね……」
「念のためだ。言っておくが、べつに奴らに勝てないと思ってるわけではないぞ。こんな狭い船の上で遭遇戦になったらどうなるか分かるか? 何せこっちはこれだぞ」
ナシェルは組んだ肘の下でこっそり父王(という名の破壊神)を指差した。
「……決着つく前に船がぶっ壊れるわな」
「そういうことだ。さすがにこんな大海原で船が木っ端みじんになったら乗客全員は助けられない」
「……そなたら何の話をしておるのだ?」
話題に入りそこねた破壊神が口を挟んでくる。
「すみません。こいつの処刑方法を話し合ってましたが話が逸れました」
世継ぎが平然と応答しているが、ヴァニオンはこの船が『火のつきやすい爆弾』を載せて運んでいるような状態だと気づき改めて恐怖を覚えずにはいられない。とにかくこれ以上、陛下が怒りそうな騒ぎが起きませんようにっつかナシェルが問題起こしませんように―――。
処刑と聞いたアシールが、背筋を伸ばして命乞いしてくる。
「ま、待ってください!! あなたがたから盗んだものは全てお返しします。いえ、それだけじゃない、アジトから持ち出してきた貴金属類は全て差し上げますから! 命だけはお助けを――――!!!」
「当たり前だ。貴様何を寝ぼけたことを言ってる?」
ナシェルはいつの間にかいつもの調子を取り戻し、立ち上がって凛然と言い放った。
「安心しろ……今後、あの奥の部屋にあった貴金属類は全て私たちが管理してやろう。あの世ではカネなど必要ないから、もうこれからの貴様には無用の長物となるわけだ。私たちに有効活用してもらえてありがたいと思え」
もう、言っていることに主人公らしさのかけらもなければ正義のセの字もない。全財産ぶん取ったあげくに海に葬り去る気満々でいるのだから、まるきり悪徳ヤミ金業者の最終取り立てみたいな台詞になってしまっている。しかし発言主(被害者なのだが、)があまりにも堂々として容姿端麗であるせいで少々華麗に聞こえてくるから不思議だ。
冥王がなにやら考え込み黙ったままなので、ナシェルはこの件に関して主導的に動くことにした。変な薬入りの酒を飲んでしまった怒りで堪忍袋の緒がブチ切れているのだ。
「よし完全に日も暮れたようだし、ヴァニオン、こいつを連れて甲板に出るぞ。騒がれると困るから口に破いたシーツでも詰め込んでおけ」
「おう」
「おまっ、お待ちください―――!! それだけはどうかカンベンして!!
ちょっと話を聞いて下さい、私を追いかけてきたそのスリの少年は今どこですか? 会わせて下さい!」
「あのラミっていう子供のことか? 三等客室にまだいるけど……」
ヴァニオンは下の階の汚い船室で出会った少年を思い出した。
「そうです。彼もこの船に乗ったなら私が身元引受人にならなきゃいけません。でないと彼が新大陸で独りぼっちになってしまうでしょう!?」
「……だそうだけど、どうする? ナシェル」
ヴァニオンに判断を振られ、ナシェルは顎に手をあてた。ヴァニオンに情報をくれたスリ少年の存在をすっかり忘れていたのである。彼はこの一連の面倒事の発端ともいえるスリ犯なのだが、どうやら身寄りのない孤児であるという点や、あくまでもギャング団にこき使われていた下っ端盗犯であるという点は同情に値するだろう。それに話を聞いた限りでは、彼にも分け前を受け取る権利はありそうだ。
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