王子の船旅は多難につき

佐宗

文字の大きさ
上 下
22 / 52
第七章 ナシェル、墓穴を掘ろうとする

しおりを挟む





 ……うとうととした微睡の中。
 王の腕に巻きついて幸福な惰眠をむさぼるナシェルは、自分の身に起きている諸問題など完全に頭の片隅に押しやってしまっていた。

(ここ数日、なんだか乳兄弟とモメていた気がするが何だっけ……)

 まったく王のテクニックが最高すぎたのがいけない。
 ナシェルの脳内はお花畑と化し、むにゃむにゃと寝言を言いながら寝顔には思い出し笑いが浮かんでいる。
 交わし合った睦言を想い起し、王の腕を抱きしめた。
(なんだかんだ言っても、やっぱり、愛してる――我が君)
「むちゅっ!」
 ご機嫌で顔をうずめにいったところで、ハタと目が覚めた。
「!」

 王のたくましい腕だと思ってナシェルが巻きついていたのは巨大な抱き枕だったのだ。さすがに冥王はここまで腕は太くない。変わり身の術が上手すぎやしないか。
 抱き枕から離れて慌てて身を起こすが冥王の姿はない。
 寝室と扉を隔てて隣接しているVIP船室も確かめてみたが、どこにもいない。もぬけの殻だ。

「あれっ? 父上……」

 もしや、夢だった……?
 己の下半身を注視しながら考えてみる。いやいや絞りつくされたと言っても過言ではないこの状態、そして腰のだるさ。さすがにアレは夢ではない。たしかに昨日、父王がいきなり乗船してきて乳兄弟を追いだし……

「あっ、そうだヴァニオン……もいないのか。たしか3等船室に降りるとか言ってたな……」

 窓の外を見るとどうやら夕方のようである。
「父上は一体どこに消えた……冥界に帰ったのか? まさか船内を勝手に歩き回ってるんじゃ……」
 サーッと血の気が引いてくる。嫌な予感しかしない。






 ともかくも服を着て廊下へ顔を出したところ、となりのVIP船客であるアシールが歩いてきて鉢合わせとなった。

 アシールは昨日とは違う柄の、ゆったりした長衣を着て金属の飾り帯を締めており、頭には鳥の飾り羽のついた白布を巻いている。キラキラ輝く金髪を白布のすき間からはみ出させたアシールは、こちらに気づくと白い歯をのぞかせて微笑んでみせた。

「これはナシェルさん、今日もお美しい……」
 ナシェルは後ろ手に船室の扉を閉め、アシールと相対する。
「昨日はどうも、アシール殿。ところで……ウチの兄を見かけませんでしたか?」
「ああ、貴方のお兄さんなら、日中、船内の賭博室でずっとご一緒してましたよ」
「えっ?!」
「お兄さん、こう言ってはあれですが何だか俗世のことに疎いようにお見受けします……賭博をするのに金が必要なことをご存知なかったみたいで……」
 アシールはヒソヒソ声でナシェルに言った。

(父上、私にあれだけ懇々と説教しておきながら、自分もさっそく別の意味でやらかしているのか……これは回収を急がねば……)

「えっ何かおっしゃいましたか」
「あ、いえ独り言です。それであ、兄はどうなりましたか」
「それが……最初、僕のポケットマネーを幾らかお貸ししたらそれを元手にとんとん拍子に勝ち始めて。最後には胴元マスターさんが、分が悪いとかで無理やりお開きにしちゃったんですよ。そしたらその場にいた別の客たちが、お兄さんのあまりの大胆な賭けっぷりと気前の良さに感激して、酒でもどうですかって話になって、今はバーの方に移動してますね」
「で……では今は、バーで酒を奢られている……?」
「そういうことです」
「そうですか、ありがとう。兄を呼び戻して来ないといけないので……失礼」
 ナシェルはそそくさとその場を離れようとしたが、アシールにさっと袖を掴まれた。




しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

クラスメイトの美少女と無人島に流された件

桜井正宗
青春
 修学旅行で離島へ向かう最中――悪天候に見舞われ、台風が直撃。船が沈没した。  高校二年の早坂 啓(はやさか てつ)は、気づくと砂浜で寝ていた。周囲を見渡すとクラスメイトで美少女の天音 愛(あまね まな)が隣に倒れていた。  どうやら、漂流して流されていたようだった。  帰ろうにも島は『無人島』。  しばらくは島で生きていくしかなくなった。天音と共に無人島サバイバルをしていくのだが……クラスの女子が次々に見つかり、やがてハーレムに。  男一人と女子十五人で……取り合いに発展!?

BL団地妻-恥じらい新妻、絶頂淫具の罠-

おととななな
BL
タイトル通りです。 楽しんでいただけたら幸いです。

催眠アプリ(???)

あずき
BL
俺の性癖を詰め込んだバカみたいな小説です() 暖かい目で見てね☆(((殴殴殴

騙されて快楽地獄

てけてとん
BL
友人におすすめされたマッサージ店で快楽地獄に落とされる話です。長すぎたので2話に分けています。

45歳のおっさん、異世界召喚に巻き込まれる

よっしぃ
ファンタジー
2月26日から29日現在まで4日間、アルファポリスのファンタジー部門1位達成!感謝です! 小説家になろうでも10位獲得しました! そして、カクヨムでもランクイン中です! ●●●●●●●●●●●●●●●●●●●● スキルを強奪する為に異世界召喚を実行した欲望まみれの権力者から逃げるおっさん。 いつものように電車通勤をしていたわけだが、気が付けばまさかの異世界召喚に巻き込まれる。 欲望者から逃げ切って反撃をするか、隠れて地味に暮らすか・・・・ ●●●●●●●●●●●●●●● 小説家になろうで執筆中の作品です。 アルファポリス、、カクヨムでも公開中です。 現在見直し作業中です。 変換ミス、打ちミス等が多い作品です。申し訳ありません。

【連載再開】絶対支配×快楽耐性ゼロすぎる受けの短編集

あかさたな!
BL
※全話おとな向けな内容です。 こちらの短編集は 絶対支配な攻めが、 快楽耐性ゼロな受けと楽しい一晩を過ごす 1話完結のハッピーエンドなお話の詰め合わせです。 不定期更新ですが、 1話ごと読切なので、サクッと楽しめるように作っていくつもりです。 ーーーーーーーーーーーーーーーーーー 書きかけの長編が止まってますが、 短編集から久々に、肩慣らししていく予定です。 よろしくお願いします!

ウエディングベルは鳴らさない!

猫桜
BL
容姿端麗、頭脳明晰だか底抜けにお人好しな兄、ユリウス。容姿端麗、頭脳明晰だが人間不信で人一倍お金の管理にうるさくガメツイ弟、レナーテ。何とかユリウスを振り向かせたいユリウスの親友(?)クラウス。 誕生日の席でユリウスが見合い宣言をしたものだからさあ大変。財産をビタ一文他人は渡したくないレナーテはクラウスと組んでユリウスに舞い込む見合いを阻止し、クラウスとくっつけようとするが・・・ ドタバタコメディです。

できる執事はご主人様とヤれる執事でもある

ミクリ21 (新)
BL
執事×ご主人様。

処理中です...