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第七章 ナシェル、墓穴を掘ろうとする
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しおりを挟む……うとうととした微睡の中。
王の腕に巻きついて幸福な惰眠をむさぼるナシェルは、自分の身に起きている諸問題など完全に頭の片隅に押しやってしまっていた。
(ここ数日、なんだか乳兄弟とモメていた気がするが何だっけ……)
まったく王のテクニックが最高すぎたのがいけない。
ナシェルの脳内はお花畑と化し、むにゃむにゃと寝言を言いながら寝顔には思い出し笑いが浮かんでいる。
交わし合った睦言を想い起し、王の腕を抱きしめた。
(なんだかんだ言っても、やっぱり、愛してる――我が君)
「むちゅっ!」
ご機嫌で顔をうずめにいったところで、ハタと目が覚めた。
「!」
王のたくましい腕だと思ってナシェルが巻きついていたのは巨大な抱き枕だったのだ。さすがに冥王はここまで腕は太くない。変わり身の術が上手すぎやしないか。
抱き枕から離れて慌てて身を起こすが冥王の姿はない。
寝室と扉を隔てて隣接しているVIP船室も確かめてみたが、どこにもいない。もぬけの殻だ。
「あれっ? 父上……」
もしや、夢だった……?
己の下半身を注視しながら考えてみる。いやいや絞りつくされたと言っても過言ではないこの状態、そして腰のだるさ。さすがにアレは夢ではない。たしかに昨日、父王がいきなり乗船してきて乳兄弟を追いだし……
「あっ、そうだヴァニオン……もいないのか。たしか3等船室に降りるとか言ってたな……」
窓の外を見るとどうやら夕方のようである。
「父上は一体どこに消えた……冥界に帰ったのか? まさか船内を勝手に歩き回ってるんじゃ……」
サーッと血の気が引いてくる。嫌な予感しかしない。
ともかくも服を着て廊下へ顔を出したところ、となりのVIP船客であるアシールが歩いてきて鉢合わせとなった。
アシールは昨日とは違う柄の、ゆったりした長衣を着て金属の飾り帯を締めており、頭には鳥の飾り羽のついた白布を巻いている。キラキラ輝く金髪を白布のすき間からはみ出させたアシールは、こちらに気づくと白い歯をのぞかせて微笑んでみせた。
「これはナシェルさん、今日もお美しい……」
ナシェルは後ろ手に船室の扉を閉め、アシールと相対する。
「昨日はどうも、アシール殿。ところで……ウチの兄を見かけませんでしたか?」
「ああ、貴方のお兄さんなら、日中、船内の賭博室でずっとご一緒してましたよ」
「えっ?!」
「お兄さん、こう言ってはあれですが何だか俗世のことに疎いようにお見受けします……賭博をするのに金が必要なことをご存知なかったみたいで……」
アシールはヒソヒソ声でナシェルに言った。
(父上、私にあれだけ懇々と説教しておきながら、自分もさっそく別の意味でやらかしているのか……これは回収を急がねば……)
「えっ何かおっしゃいましたか」
「あ、いえ独り言です。それであ、兄はどうなりましたか」
「それが……最初、僕のポケットマネーを幾らかお貸ししたらそれを元手にとんとん拍子に勝ち始めて。最後には胴元さんが、分が悪いとかで無理やりお開きにしちゃったんですよ。そしたらその場にいた別の客たちが、お兄さんのあまりの大胆な賭けっぷりと気前の良さに感激して、酒でもどうですかって話になって、今はバーの方に移動してますね」
「で……では今は、バーで酒を奢られている……?」
「そういうことです」
「そうですか、ありがとう。兄を呼び戻して来ないといけないので……失礼」
ナシェルはそそくさとその場を離れようとしたが、アシールにさっと袖を掴まれた。
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