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第五章 ナシェル、冥王と鉢合わせややこしくなる
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しおりを挟む「……おお! 我が愛しのナシェルよ!」
「な、何で貴方がこんな所に居るんです!?」
「ちょ、おま、その後ろの男、一体何モンだよ!?」
「同じ顔が、ふたり……?!」
鉢合わせた4人の声が完全に被ってしまったため、一瞬沈黙が漂う。
冥王がアシールを見て、みるみる肩からどす黒いオーラを発しはじめた。
紅の瞳から何やら致死的な光線が出そうになっている。
ナシェルは慌てて咳払いした。
「あっ!……え……と、紹介します。こちら宝石商のアルファーヴ殿。VIPルームが隣だったので、今さっき偶然知り合った所で……ええと、」
取り繕おうとするが、その説明では、初対面の男と船室で二人きりでいた理由になっていない。
まさか「金もっていそうだからナンパにわざと引っ掛かってみました。まだヤッてはいませんのでご安心を……」みたいな弁明を父にこの場でするわけにもいかず、ナシェルはさりげなく冥王とアシールの対角線上に体を移動させてみた。これで父王のヤバい致死光線も幾許かは防げるだろう。
「で、こちらが……その」
あたふたと肩越しに冥王を指し示し、年齢不詳のそのきらびやかな黒い物体をアシールになんと紹介するかで一瞬詰まった挙句、ナシェルの口をついて出たのは、
「あ、兄です、双子の……」
という、お約束のような嘘っぱちなのであった。嘘にしてももう少しひねれなかったものかと、口にしたナシェル自身もがっくり肩を落とす。
「双子で乗船していらしたのですか!?」
アシールは長髪美麗な双子という奇跡に目を輝かせ、冥王のほうへ進み出る。
「初めまして、私はアシール・サウル・アルファーヴといいます。驚きました。お兄さんも負けず劣らずのお美しさですね……!」
「そなたにお兄さん呼ばわりされる筋合いはないわ。余はな……」
「よはな……?」
いくら嘘をついて取り繕ったところで、冥王に相手をさせたらすぐにボロが出るのは明らかだ。ナシェルは高速で突進するや冥王の口をすかさず塞ぎ、話題を変えようと、ヴァニオンを指差す。
「あ。あとこれは、一応うちの付き人です、あまりそれらしくありませんが」
「それらしくないって何だよ」
「あなたのお兄さん、」
アシールは、ヴァニオンを紹介されてもやっぱり冥王から視線をはずせない様子だ。
「顔は貴方とそっくりなのに、なんだか体から滲み出る雰囲気が全然違うんですね……! やけに男性的というか……。不思議だな、キレイなのに。なにがそう感じさせるんだろう……?」
アシールは、冥王とナシェルを見比べしげしげと首を傾げている。
「喩えるなら、肉食と草食ぐらい違うんですよ。お二人の雰囲気が…」
(こいつ……スゲえな、無意識にオーラで何となく凸凹(攻受)を見分けてやがるのか?ただモンじゃねえ気がする……)
内心で舌を巻くヴァニオンの横で、ナシェルは父とアシールを引き剥がそうと必死だ。
「早くしないとホラ、もう外が暗くなってきましたよ。夜です。ちち……兄上、いったん部屋に戻りましょう。アルファーヴ殿、済まないが今夜はこれで失礼させていただくっ」
もっと話したそうなアシールを振り切るように、ナシェルは冥王を無理やり自室へ押し込んだ。
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