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第四章 冥王、王子をやっと見つける?
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しおりを挟む「ここにある宝石はどれも素晴らしいものばかりです。その重要な商談用というのは、相当に綺麗な石なのでしょうね」
「そうです。何しろ『暁の雫』という異名をもつほどの石ですから」
「『あかつきの、しずく』か……美しい名ですね。あかつきというからには、黄色や赤系の石なのですか?」
「ええ、そうです。正確にはオレンジ・サファイアに属します。でも、ただのオレンジではありません。イエローサファイアとオレンジサファイアの中間に位置する、発色の特によいものを、ゴールデンサファイアと呼ぶのですが、それはその中でも特に大きな結晶で、大人の手の平でやっと包み込めるほどの大きさがあるんですよ」
饒舌に語ってしまったあとで、アシールはナシェルの興味深そうな眼差しに苦笑した。
「ますます興味を持たせてしまったようですね。仕方ない、お見せしましょう……こちらの奥に保管してあります」
男に誘われるままに続き部屋(おそらく寝室)に入っていくナシェルは、貞操の用心などどこへやら、すっかり脳内は皮算用に勤しんでいるのであった。
***
「これは……凄い、」
『暁の雫』は大人の両掌でようやく包み込めるほどの大きさを持つ、稀少なゴールデンサファイアの結晶だった。
下手をすると小国の年間国家予算を軽々超えるぐらいの価値はあるかもしれない。
ガラスのケース越しに暁の雫を見つめるナシェルを、アシールは横から惚れ惚れと眺めている。
「身につけてみたいとは思われませんか?」
「私には似合いませんよ」
「付けてみなければ分からないでしょう。ケースからお出ししますよ。……狭くて申し訳ない、そこへ座って待っていて」
ナシェルをベッドに座らせると、アシールは手袋を嵌めた手で「暁の雫」を慎重に取り上げ、ナシェルの耳元に近付けた。
「ほら……貴方の美しい肌に、とてもよく似合います」
そうして胸元に落ちかかる黒髪を一筋つまんで、肩の後ろへさらりと流した。
無防備になった鎖骨のあたりに宝石をかざしてみせながら、アシールは情熱的な眼差しでナシェルを見つめた。
「屈折光が肌に映えますね。まるで、この石も貴方のものになりたがっているようです」
「御冗談を。これは商談用の品物でしょう? それとも、商談成立より先に、私に売りつけようとしておられる?」
「とんでもない。あまりに貴方にお似合いなので、思わず貢いでしまいそうになっただけですよ」
アシールは笑って「暁の雫」をケースの中へ仕舞い込んだ。
(ふむ……さすがに無条件で貢ぎはせぬか……)
どうにかして手に入れたいものだが……。
「貴重なものを見せていただき、楽しかった」
ナシェルは立ちあがった。
その瞬間、猛烈な『嫌な予感』に襲われ、立ちくらみを起こす。
ふらついたナシェルをアシールが手を伸ばして、支えた。
「大丈夫ですか? 船酔いを起こされたのなら、ここで休んでいくといい」
「いえ、大丈夫……」
さっきの気配は一体なんだろう、ものすごく心臓に悪い予感がする……と訝しみつつも、アシールの下心に満ちた好意を謝辞して、ひとまず彼のVIP船室を出――ようとした。
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