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第三章 ナシェル、クサいナンパにあえて引っかかってみる
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しおりを挟む……そのころヴァニオンは出航時間ギリギリに桟橋をわたり、甲板デッキより下の、三等船室階にからくも駆け込んでいた。ヴァニオンが渡り終えると同時に桟橋が跳ね上げられ、船が港を離れた。
「ハー、ハー、ハー。ギリギリ間に合ったぜ……」
置いてけぼりになる事態はからくも免れたが、問題の解決には至っていない。
スリの少年は結局、日没まで探しても見つからずじまいだったのだ。
「あーもーナシェルの奴になんて言って顔あわせりゃいいんだよ……、軍資金取り戻せなかったって知ったら、絶対オレ縄でぐるぐるの簀巻きにされて海に蹴り出される気がする……。やっぱ船に乗っても意味なかったかな……」
ヴァニオンは三等船室の廊下に寝そべって、はあはあと呼吸を整えていたが、やがて思い出したようにガバッと身を起こした。
「とかボヤいてる場合じゃねえ。陛下を先に何とかしねーと」
だが三等船室エリアのどこを探しても冥王の姿が見当たらないのである。
「またかよ! どこほっつき歩いてんだ? 事前連絡もなしにナシェルと鉢合わせしてナシェルがまだ神剣抜いてたら大変なことになるって、さっき俺あのひとに言ったばっかだよな?」
ヴァニオンは汗を拭く暇もなく、冥王を探すべく慌ててVIP船室へ続く階段を駆けあがって行った。
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