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第二章 冥王、愛しの王子を追いかけてくる
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「ぅわぁぁぁぁッ!」
ヴァニオンは悲鳴を上げて飛び退った。
恋人の姿を探してきょろきょろと通りを見回している冥王の肩を、掴んで路地に引き戻す。
「ちょ……こ……こんなとこで、一体、何してるんスか……!陛下!?」
「……見れば分かるであろ、お忍びだ。ナシェルの神気を頼りに追いかけてきたはいいが……昼間はやはり明るすぎていかんな。気配が全く掴めなくなってしまった。一体あれは何処にいるのだ?」
そういうと冥王は、再びすちゃっと黒眼鏡を装着して日光を遮断する。
「え……つか、陛下まで冥界を留守にしたらヤバくないんですか!?」
「堅苦しいことを云うな、天王かそなたは。……そう長居するつもりはないから大丈夫だ。これというのも、」
云いながら冥王はびしっとヴァニオンの胸元に指を突き付けてくる。
「そもそもだ。そなたが定時連絡を怠るから悪い。軍資金を提供してやるかわりに、こまめに王子の居場所だけは報告しろという至上命令を、忘れたとはいわさぬぞ」
「しばらく船に乗るから連絡できないって、前に言ったじゃないですか!」
「しばらくとはどれぐらいのことだ? それにいま、そなたは船に乗っておらんではないか」
「船に乗っておるんですよ! ほとんど追い出されかけてるけど!……はッ。しまった! こんなことしてる場合じゃねえ! 陛下、ちょっとこのまま、じっとしてて下さい!」
ヴァニオンは路地を走って裏通りに出るも、閑散とした通りに少年の姿はすでにない。
「やばい、居ないし!」
しばらく辺りを走り回って捜索するも、どうやら完全に見失ってしまったようだ。
最悪だ。
「あーもーくそっ、誰かさんさえ出てこなけりゃ余裕で追いついたっつーのに!……畜生、どうする俺? このままだとマジでナシェルに殺されるか置いて行かれるかの二択だよ!
ハッ……そうか置いて行かれる方がマシだわ……」
頭を抱えとぼとぼと引き返しかけて、ふと冷静になる。
スられた金は再びどこか遠くへ行ってしまったが、その代わりに『冥王様』というほぼ無限に等しい金ヅルが、舞い込んできたのではないか?!
「お!? そうか! 軍資金はまた陛下にもらえばいいんだ! やっぱ俺、強運の持ち主なのかも!?」
王に金を無心するとは情けない話だが、やむを得ない。時間がない。
だが大通りへと抜ける路地へ戻ると、冥王の姿がない。
「げ!こっちも居なくなってる!?」
片手で顔を押さえながら大通りに出て見回すと、流しの客引きに捕まってピンク色の看板の得体の知れない店に連れ込まれそうになっている王を発見する。客引きの持つプラカードには「お色気ムンムン大サービス中1時間○○」……
「わ、こら、そこ、ちょっと待ったー!」
ヴァニオンが突進すると、その剣幕に驚いたのか、客引きは冥王の腕を離し慌てて去っていった。
「はぁはぁ、ちょっと! じっとしてて下さいって俺言ったでしょうが」
「じっとしていたらああなったのだ。性的サービスを提供する店かあそこは? 地上界にもああいう店があるのだな」
「感心してないで、分かってんなら、ああいう輩は振りほどけばいいんですよ!」
「人間の扱い方がよく分からぬゆえ、手加減の具合が難しくてな。それよりさっきから何を泡食っておる? さっさとナシェルに会わせろというのに」
「殿下と会うには金が要るんです。……ちょいと事情がありまして」
ヴァニオンは神妙な顔で冥王に迫った。
「……か……金目のもの、持ってません? 通貨に換金できそうな」
ヴァニオンは悲鳴を上げて飛び退った。
恋人の姿を探してきょろきょろと通りを見回している冥王の肩を、掴んで路地に引き戻す。
「ちょ……こ……こんなとこで、一体、何してるんスか……!陛下!?」
「……見れば分かるであろ、お忍びだ。ナシェルの神気を頼りに追いかけてきたはいいが……昼間はやはり明るすぎていかんな。気配が全く掴めなくなってしまった。一体あれは何処にいるのだ?」
そういうと冥王は、再びすちゃっと黒眼鏡を装着して日光を遮断する。
「え……つか、陛下まで冥界を留守にしたらヤバくないんですか!?」
「堅苦しいことを云うな、天王かそなたは。……そう長居するつもりはないから大丈夫だ。これというのも、」
云いながら冥王はびしっとヴァニオンの胸元に指を突き付けてくる。
「そもそもだ。そなたが定時連絡を怠るから悪い。軍資金を提供してやるかわりに、こまめに王子の居場所だけは報告しろという至上命令を、忘れたとはいわさぬぞ」
「しばらく船に乗るから連絡できないって、前に言ったじゃないですか!」
「しばらくとはどれぐらいのことだ? それにいま、そなたは船に乗っておらんではないか」
「船に乗っておるんですよ! ほとんど追い出されかけてるけど!……はッ。しまった! こんなことしてる場合じゃねえ! 陛下、ちょっとこのまま、じっとしてて下さい!」
ヴァニオンは路地を走って裏通りに出るも、閑散とした通りに少年の姿はすでにない。
「やばい、居ないし!」
しばらく辺りを走り回って捜索するも、どうやら完全に見失ってしまったようだ。
最悪だ。
「あーもーくそっ、誰かさんさえ出てこなけりゃ余裕で追いついたっつーのに!……畜生、どうする俺? このままだとマジでナシェルに殺されるか置いて行かれるかの二択だよ!
ハッ……そうか置いて行かれる方がマシだわ……」
頭を抱えとぼとぼと引き返しかけて、ふと冷静になる。
スられた金は再びどこか遠くへ行ってしまったが、その代わりに『冥王様』というほぼ無限に等しい金ヅルが、舞い込んできたのではないか?!
「お!? そうか! 軍資金はまた陛下にもらえばいいんだ! やっぱ俺、強運の持ち主なのかも!?」
王に金を無心するとは情けない話だが、やむを得ない。時間がない。
だが大通りへと抜ける路地へ戻ると、冥王の姿がない。
「げ!こっちも居なくなってる!?」
片手で顔を押さえながら大通りに出て見回すと、流しの客引きに捕まってピンク色の看板の得体の知れない店に連れ込まれそうになっている王を発見する。客引きの持つプラカードには「お色気ムンムン大サービス中1時間○○」……
「わ、こら、そこ、ちょっと待ったー!」
ヴァニオンが突進すると、その剣幕に驚いたのか、客引きは冥王の腕を離し慌てて去っていった。
「はぁはぁ、ちょっと! じっとしてて下さいって俺言ったでしょうが」
「じっとしていたらああなったのだ。性的サービスを提供する店かあそこは? 地上界にもああいう店があるのだな」
「感心してないで、分かってんなら、ああいう輩は振りほどけばいいんですよ!」
「人間の扱い方がよく分からぬゆえ、手加減の具合が難しくてな。それよりさっきから何を泡食っておる? さっさとナシェルに会わせろというのに」
「殿下と会うには金が要るんです。……ちょいと事情がありまして」
ヴァニオンは神妙な顔で冥王に迫った。
「……か……金目のもの、持ってません? 通貨に換金できそうな」
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