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第一章 乳兄弟、旅の資金をスられ金策に走る
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しおりを挟むぶつかった瞬間ちらりとだけ視線が合った―顔は印象に残っている。浅黒い肌に、亜麻色のぼさぼさの短髪。瞳は猫のような金色をしていた。それなりに磨けば光りそうな容姿だったが……。
「うーん……でも参考になるのがそれだけじゃなあ。それにしても畜生、もとはといえばあのガキが……。見つけたら、ただじゃおかねえ」
ぶつぶつ云いながらも、ヴァニオンは繁華街へ出て街の人間にスリ被害が多い場所や、乞食の集まる場所はどこか聞いて歩き、真剣に自分の金を取り返そうと頑張った。
(自分の金といっても、資金の元になった貴金属の半分以上は冥王からヴァニオンが預かったものである。…ナシェルには無論、内緒だ。)
旅客や水夫らで賑わう通りを往復したり、脇道を覗いたりして子供の姿を探しているうちに、もう昼過ぎになっていた。
先ほど気づいたのだが、幸運にもズボンには数枚の銀貨が入っていた。べつにいま飯代をケチらずともしばらく飢え死にせず暮らせるぐらいの値打ちだ。
が、ヴァニオンは最悪これを王子に差しださねばならないだろうと考えていたので、昼飯もあきらめて目的の少年を探し続けた。
そうした彼の執念が結実する瞬間は、唐突に訪れた。
「……ん?」
脇道の向こう、暗い裏通りに赤い継ぎはぎのある茶色の帽子が横切っていくのが見えたのだ。
「……居た!!」
間違いない、あの継ぎのある帽子、亜麻色の髪……あの少年だ!
広い港町で目当ての人物を探し出せる幸運などそうそうあるはずがない。
俺にも運が向いてきたか?
ヴァニオンはとっさに裏通りに向かって駆け出した。捕まえて、町の兵士に突き出してやる!
――ところが。
路地に入りかけたところで、後ろから来た何者かに急にぐいっと背中の服を掴まれ、ヴァニオンはつんのめりかけて立ち止まった。
「やっと見つけたぞ、ヴァニオン・ヴェルキウス」
「?!」
振り返ると、大通りからヴァニオンを追うように路地に入ってきたのは、……当のナシェルだった。黒マント、黒眼鏡をかけている。
「何! ナシェル、許してくれるの!? ん? なんかちょっと背伸びた? てか今、あっちにガキ見つけたから! ちょっと離して……離し」
振りほどこうとして違和感を感じ、もう一度振り返ると、黒眼鏡の上の眉がぐっと顰められている。
「許す、とは何のことだ? また何かやらかしたのか」
……待てよ。怒り狂ってたはずのあのナシェルが、わざわざ自分を心配して追いかけてくるわけがない。
「ひッ…………!?」
背中の汗が、瞬時に凍りついた。
「ま…………まさか!?」
のけぞるヴァニオンの目の前で、指で黒眼鏡を額の位置まで持ち上げた彼は、その下から覗く紅玉の瞳を瞬かせて言った。
「しぃっ。大きな声を出すな、騒々しいやつだ。ところで……ナシェルはどこにいる? 早く会わせろ」
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