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その二
♪♪♪
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空港の到着ゲートには、現地でのいっさいの世話をするイベンターさんが迎えに来ているという。到着ゲートを出るなり、大石さんの顔がこわばる。
「もう、なんだってあんなに大勢で……」
つぶやき、駆け出す大石さん。
ぎょっとした。太った中年男のそばに、スーツ姿の若い男が十人近く、固まって立っている。中年男がイベンターさんで、他は大学生のバイトだろう。カバンも持たないその集団は、やたらと目立つ。
俺は大石さんが厳しい顔でその集団に近づいていくのを、ぼんやり見ていた。そこにいきなりの歓声。とっさに身構える。
そして気づく。もしなにかあった時、晴輝に利き手の右腕をつかまれてたら、対応が遅れかねない。うかつだった、これしきの事にも思い至らないなんて。
ファンらしき女の子達が晴輝を呼ぶ声が重なりあう。近づいてくるいくつもの足音と、ふわりと漂ってくるコロンかなにかの甘い匂い。晴輝は明るい笑顔でそれに応じた。
「晴輝、これプレゼント!」
「握手して下さい!」
晴輝のそばにいるのが俺一人だと分かったからか、急に勢いづいて殺到してこようとする女の子達。若い女の子ばかりなだけに、乱暴に押しとどめるわけにもいかない。
俺はとまどい、汗をかきながらぎこちなくファンをさばいた。イベンターさんに率いられたスーツの集団が、すごい勢いでこっちに向かってくる。
「離れて下さい!」
突然ロビーに響く声。晴輝に群がっていた女の子達は、さあっと波が引くように、夢見心地の顔のまま道をあける。
「やはり、北海道にいる間の移動は、厳重な警備のもとに行った方が安全だと思うんですが。関係者出入り口を使わせてもらってもよかったでしょうに」
歩きながら、固い表情で言うイベンターさん。晴輝は自分を取り囲むスーツ集団の気配に、おどおどと首をめぐらせる。俺の腕をつかむ指に、痛いぐらいに力がこもる。
「そうは言っても、こんなんじゃ逆に目立っちゃうじゃない、大げさなのはやめてって言ったでしょう」
大石さんの言うとおり、まとまった足音が俺達を囲んでいるせいで飛んでくる、遠慮のない視線が痛い。
「でも、事故が起こってからじゃ遅いでしょう? 大石さん、お願いしますよ」
「晴輝は目が不自由なだけなのよ、何度言ったら分かってもらえるの? そのために手引きしてくれる人もつけてるんだから、こんなに人は要らないのよ」
大石さんはかなり怒ってる。俺にはその理由がよく分からない。
「いいんじゃない、別に目立っちゃっても」
唐突に晴輝は顔を上げ、冗談ぽく言った。
「ここで言うこと聞かないでなんかあっても、うちの事務所にそれを埋められるような金ないでしょ?」
「まあ、晴輝がそう言うなら……」
大石さんは険しい表情で、それっきり黙った。悔しさを拭いきれない、って感じだ。
晴輝も黙ってしまい、気まずい空気を変えようとイベンターさんは俺に話しかけてくる。それに仕方なく答えながら、俺は内心ため息をかみ殺した。
「もう、なんだってあんなに大勢で……」
つぶやき、駆け出す大石さん。
ぎょっとした。太った中年男のそばに、スーツ姿の若い男が十人近く、固まって立っている。中年男がイベンターさんで、他は大学生のバイトだろう。カバンも持たないその集団は、やたらと目立つ。
俺は大石さんが厳しい顔でその集団に近づいていくのを、ぼんやり見ていた。そこにいきなりの歓声。とっさに身構える。
そして気づく。もしなにかあった時、晴輝に利き手の右腕をつかまれてたら、対応が遅れかねない。うかつだった、これしきの事にも思い至らないなんて。
ファンらしき女の子達が晴輝を呼ぶ声が重なりあう。近づいてくるいくつもの足音と、ふわりと漂ってくるコロンかなにかの甘い匂い。晴輝は明るい笑顔でそれに応じた。
「晴輝、これプレゼント!」
「握手して下さい!」
晴輝のそばにいるのが俺一人だと分かったからか、急に勢いづいて殺到してこようとする女の子達。若い女の子ばかりなだけに、乱暴に押しとどめるわけにもいかない。
俺はとまどい、汗をかきながらぎこちなくファンをさばいた。イベンターさんに率いられたスーツの集団が、すごい勢いでこっちに向かってくる。
「離れて下さい!」
突然ロビーに響く声。晴輝に群がっていた女の子達は、さあっと波が引くように、夢見心地の顔のまま道をあける。
「やはり、北海道にいる間の移動は、厳重な警備のもとに行った方が安全だと思うんですが。関係者出入り口を使わせてもらってもよかったでしょうに」
歩きながら、固い表情で言うイベンターさん。晴輝は自分を取り囲むスーツ集団の気配に、おどおどと首をめぐらせる。俺の腕をつかむ指に、痛いぐらいに力がこもる。
「そうは言っても、こんなんじゃ逆に目立っちゃうじゃない、大げさなのはやめてって言ったでしょう」
大石さんの言うとおり、まとまった足音が俺達を囲んでいるせいで飛んでくる、遠慮のない視線が痛い。
「でも、事故が起こってからじゃ遅いでしょう? 大石さん、お願いしますよ」
「晴輝は目が不自由なだけなのよ、何度言ったら分かってもらえるの? そのために手引きしてくれる人もつけてるんだから、こんなに人は要らないのよ」
大石さんはかなり怒ってる。俺にはその理由がよく分からない。
「いいんじゃない、別に目立っちゃっても」
唐突に晴輝は顔を上げ、冗談ぽく言った。
「ここで言うこと聞かないでなんかあっても、うちの事務所にそれを埋められるような金ないでしょ?」
「まあ、晴輝がそう言うなら……」
大石さんは険しい表情で、それっきり黙った。悔しさを拭いきれない、って感じだ。
晴輝も黙ってしまい、気まずい空気を変えようとイベンターさんは俺に話しかけてくる。それに仕方なく答えながら、俺は内心ため息をかみ殺した。
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