デコボコな僕ら

天渡清華

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その4

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 いよいよ十一月十一日。待ちあわせたホテルに早く着きすぎた俺は、ドキドキそわそわしながらロビーを歩き回っていた。ゴージャスって言葉がぴったりの超デカいシャンデリアがある、すげえ広い吹き抜けのロビー。地下に下りる、ふかふかの立派なじゅうたんが敷かれた大階段。どこもピカピカに掃除されてる。その中をキビキビ動き回るスタッフ。なにやらイベントがあるらしく、人がたくさんいる。
 こんな立派なホテルに来るのは初めてだ。今日のためにわざわざ買った、黒のジャケットにパンツっていう、いつもTシャツとかパーカーにジーンズの俺にしてはちゃんとした格好をしてるせいか、落ち着かない。仕事じゃ毎日スーツなのにな。大げさだけど、自分が自分じゃねえような気さえしちまう。
「樹、もう来てたんだね」
「お、おう、お前も早いじゃん」
 いきなり背後からいつもの柔らかい声がして、振り返る。
「なんだよ、似たようなカッコだな」
 大沼を見て、俺は少しなごんだ。俺と同じような、黒のジャケットにパンツ。すぐ近所だからか、手ぶらだ。なんか着られてる感がする俺と違って、大沼はこなれた感じがする。すらっとしてるから、なんでも似合うんだよな。
「なんか、二人並ぶとミュージシャンぽくない?」
 少し首をかしげて、照れたような表情で言う大沼。
「いやいや、お笑いコンビだろ」
「身長差って意味じゃ、そうかもだけどさあ……」
 大沼がちょっと不満そうな顔をする。俺達の横を、高そうな着物を着た上品な中高年女性が何人も通り過ぎていく。いったいなんの集まりなんだろう。
「さて、少し早いけど行くか」
「あ、こっちだよ」
 一瞬キョロキョロした俺の袖を引き、慣れた感じでエレベーターに向かう大沼。近所だし、家族なんかと来たことがあるんだろう。
 ああ、手繋ぎてえな。ふかふかのじゅうたんの上を並んで歩きながら、思う。いろんな意味で無理だけど。大沼、誕生日のサプライズ喜んでくれたらいいな。
 二十階にあるレストランの入り口で名乗る。整然とテーブルが並び、光あふれるすがすがしくて、それでいてちょっとゴージャスな内装。こんなとこで気取ったメシなんか食ったことねえけど、大丈夫かな。一応ネット見てテーブルマナーの予習はしたものの、急に不安になってくる。
 予約してたからか、見晴らしのいい窓際の席に通された。白いテーブルクロスがまばゆい。さらにその上に、縦長の茶色の布が食事で使いそうなテーブルの真ん中あたりだけにかけられている。
 スタッフが椅子を引いてくれて、座る。別のスタッフがドリンクメニューをテーブルに二人分広げて置く。さすが高級ホテルのレストラン。こんなん、初めての経験だ。もう俺はなににドキドキしてるのかも分からなくなってくる。
「わ、すげえな」
 窓の外に広がる、東京の街。皇居、丸の内のオフィス街、少し遠くに東京タワー。道を流れていく車が、東京という街の血管を流れる血液みてえだ。
「きれいだよね」
 しばらく黙って、景色を眺めてるふりして大沼を見てた。瞳を細めて景色を見てる大沼の、鼻筋が通った横顔。穏やかで、きれいで。ああやっぱこいつのこと好きだなあ、とか思いながら。
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