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Tシャツの上からさわると、ぴくん、と村田の身体が反応した。それだけで、なんだかうれしくなる。
「あ、あっ……」
胸を集中的に責めると、押し殺した声。村田をベッドに押し倒して、ひたすら快感を与えることに集中した。
額に浮かんだ汗が、わずかな光に鈍く光る。ひそめられた眉、固く閉じた瞳、うっすら開いてかすかにあえぐ唇。Tシャツもジーンズも中途半端に脱がされている姿がひどくみだらで、興奮に満たされて俺は幸せだった。
もう泣いたことも遠い昔のようで、受け入れたくない現実もかすんでくる。刹那の幸せの後になにがやってくるか、それは考えちゃいけない。今を、堪能しよう。
「え、日置、やめっ……!」
ジーンズを脱がせ、俺が足元にうずくまると、なにをされるか察して村田はあわてた。気持ちよくさせるのに、セックスじゃ当然の行為。嫌がるほどに楽しくなって、俺はわざと大きな音をたてた。
「俺の口ん中、出しちまえよ」
村田は泣きそうな顔で、なんで、と苦しそうに言った。なんでこんなことするんだ、ってことだったら、お前だからだよ。他のヤツにこんなことできねえよ、お前だから飲んだっていいと思うんだ。
初めてだった。こんなふうに誰かを強烈に欲しいと思ったのは。だけどなかなか、手を出せなかったのも。なのに、凌太と……。
ダメだ、今は考えないって決めたろうが。全部、忘れろ。今だけじゃなくてずっと、コイツは俺のもんだったって、そう思え。
「あっ、やだっ、やだって……」
俺の頭を押してくる手をがっちりつかむ。いいからイケって、と口に含んだままもごもご言ったのが刺激になったのか、次の瞬間村田は放った。強く吸い上げる。とんでもなくまずい。苦い。
「うっ……」
飲めなかった。よりによって村田の腹の上で吐いた。俺の吐き出したものが、村田だけじゃなくシーツまで汚してしまう。
「ごめん、ごめん!」
焦って、そばにあったティッシュで村田の腹やシーツを拭く。
なんてダメなヤツなんだ、俺は……。残念にもほどがある。こんなにも好きなんだって、証明してみせたかったのに。
「バカだね」
怒るかと思いきや、村田は穏やかに笑う。やさしい声が、俺のこころをふわんとせつなく包む。
「日置らしいわ」
ベッドの足元の方にぐちゃっと置いてあった部屋着に着替えると、村田はまた俺の隣に横になった。
これは取引でもあるけど、それだけじゃないのかも知れない。そう気づいて、俺はたまらなくなる。また、涙がぶり返しそうになる。
でもこれで終わりだという宣告には、変わりがないんだろう。村田はそういうヤツだし、現実はたいてい、人に優しくない。
ぎゅっと村田を抱きしめて、ベッドに寝転がる。生々しい体液の匂い。苦さが残る口の中。エアコンがきいてきて、一枚冷たい膜が貼りついたような村田の肌。もっとしっかり抱きしめる。ことんことんと生命をつむぐ、鼓動が重なりあう。
「休憩だ」
「あ、あっ……」
胸を集中的に責めると、押し殺した声。村田をベッドに押し倒して、ひたすら快感を与えることに集中した。
額に浮かんだ汗が、わずかな光に鈍く光る。ひそめられた眉、固く閉じた瞳、うっすら開いてかすかにあえぐ唇。Tシャツもジーンズも中途半端に脱がされている姿がひどくみだらで、興奮に満たされて俺は幸せだった。
もう泣いたことも遠い昔のようで、受け入れたくない現実もかすんでくる。刹那の幸せの後になにがやってくるか、それは考えちゃいけない。今を、堪能しよう。
「え、日置、やめっ……!」
ジーンズを脱がせ、俺が足元にうずくまると、なにをされるか察して村田はあわてた。気持ちよくさせるのに、セックスじゃ当然の行為。嫌がるほどに楽しくなって、俺はわざと大きな音をたてた。
「俺の口ん中、出しちまえよ」
村田は泣きそうな顔で、なんで、と苦しそうに言った。なんでこんなことするんだ、ってことだったら、お前だからだよ。他のヤツにこんなことできねえよ、お前だから飲んだっていいと思うんだ。
初めてだった。こんなふうに誰かを強烈に欲しいと思ったのは。だけどなかなか、手を出せなかったのも。なのに、凌太と……。
ダメだ、今は考えないって決めたろうが。全部、忘れろ。今だけじゃなくてずっと、コイツは俺のもんだったって、そう思え。
「あっ、やだっ、やだって……」
俺の頭を押してくる手をがっちりつかむ。いいからイケって、と口に含んだままもごもご言ったのが刺激になったのか、次の瞬間村田は放った。強く吸い上げる。とんでもなくまずい。苦い。
「うっ……」
飲めなかった。よりによって村田の腹の上で吐いた。俺の吐き出したものが、村田だけじゃなくシーツまで汚してしまう。
「ごめん、ごめん!」
焦って、そばにあったティッシュで村田の腹やシーツを拭く。
なんてダメなヤツなんだ、俺は……。残念にもほどがある。こんなにも好きなんだって、証明してみせたかったのに。
「バカだね」
怒るかと思いきや、村田は穏やかに笑う。やさしい声が、俺のこころをふわんとせつなく包む。
「日置らしいわ」
ベッドの足元の方にぐちゃっと置いてあった部屋着に着替えると、村田はまた俺の隣に横になった。
これは取引でもあるけど、それだけじゃないのかも知れない。そう気づいて、俺はたまらなくなる。また、涙がぶり返しそうになる。
でもこれで終わりだという宣告には、変わりがないんだろう。村田はそういうヤツだし、現実はたいてい、人に優しくない。
ぎゅっと村田を抱きしめて、ベッドに寝転がる。生々しい体液の匂い。苦さが残る口の中。エアコンがきいてきて、一枚冷たい膜が貼りついたような村田の肌。もっとしっかり抱きしめる。ことんことんと生命をつむぐ、鼓動が重なりあう。
「休憩だ」
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