レイヤー少女の魔界謳歌

七海かおる

文字の大きさ
上 下
13 / 13

13

しおりを挟む
 フローリアーンが加わったこと以外は特に問題もなく、私たちは無事森を抜けることができた。
 最後まで私たちの周りを漂って付いてきていた精霊たちも、森を出るときに帰っていった。
 アルフレートが森を駆けている間もフローリアーンと一緒に賑々しく騒いでいたので、居なくなってしまうとなんだかちょっぴり寂しく思う。
 そんな思いで森の方を振り返っていたからか、フローリアーンが後ろからぎゅっと抱きついてきた。照れの混じる全面の笑顔が眩しい。
 笑い合って、私もアルフレートの首をぎゅっとする。ふかふかの毛に包まれてほっとした。



「おい、起きろ。飯の時間だ」
「……んー」

 重い瞼を開ける。すると、知らない天井が視界に広がっていた。

「……わっ!!私、寝てた!?」

 慌てて飛び起きて辺りを見渡す。
 どうやら私はベッドに寝かされていたようだった。アルフレートはベッドの側の椅子に腰かけており、フローリアーンはベッドの上に乗ってくつろいでいた。

「ああ、もう日が暮れたぞ。ここは街の宿だ」
「えっ、夜?───街!?」

  まさか、もう街に入ってしまっていたなんて……!というか、私は半日も寝てしまっていたのか。
 もふもふな獣人たちが街を闊歩しているのを見るのを少し楽しみにしていたのに見逃してしまった。
 後悔の念に思わず頭を抱え込む。と、下の方からざわざわとした喧騒が聞こえてきた。

「……下でなにかやってるの?」
「飯時だからな。おまえも食事、するんだろう?」
「……!する!!」

 そういえば、今日はまだ何も食べていない。
 アハト様オススメの獣人領の食事、すごく楽しみだ。

「早く!早く行こう!」
『はやく!はやく!』

 自分でも現金だと思うが、気分が急上昇だ。ベッドから素早く下りてアルフレートをせかす。私のテンションの高さにつられてか、フローリアーンも私の近くでるんるんと跳び跳ねている。
 そんな私を見てアルフレートは一瞬憂えるような表情を浮かべたが、すぐに顔を反らした。

「……わかった。食堂は下だ、降りるぞ」




「おーい、こっち酒樽追加ー!」
「はいよー!」

 前からワイワイと陽気に騒ぐ多くの声が聞こえてくる。1階に降りていくアルフレートを追う。ちなみにフローリアーンは精霊で、食事は必要ないらしい。びっくりした。一緒に来たがったので、今は初めに会った毛玉姿で私の肩にちょこんと乗っている。
 廊下を進んでいくと、食堂のようなところにでた。前を進むアルフレートの影から、ちらと様子を窺う。

(わ、わああああ……!すごい、もふもふ天国だ!)

 目の前には獣人がたくさんいて、賑わっていた。アルフレートのように全身獣姿の者もいれば、耳や尻尾の一部だけ獣姿の者もいる。なんといっても種類が豊富だ。
 がたいの良い猪さんや牛さんが酒盛りをしていたり、奥では翼が生えた人が静かに食事していたり、向こうでは猫耳の男の子が給仕をしていたりとさまざまだ。
 アルフレートがそのまま食堂に入ると、一瞬シン、とみんなが動きを止めてこちらを見た。しかし、アルフレートはそれに構うことなくカウンターの方へと歩を進めたので、私も続く。そうすると、背後の喧騒は次第に戻っていった。

(ううむ、やっぱりアルフってばちょっと有名人ぽい。でも、本人が言いたくないみたいだしなあ……)

 まあ、無理に詮索することでもないか、と思っていると、カウンターの中にいた、頭に小さな丸い耳をつけた、一際大柄でがっしりとした男性がこちらに気づいた。 

「よう銀狼、ご無沙汰だったな!」

 男性はアルフレートにとてもフレンドリーに話しかけてきた。焦げ茶の髪は短くカットされていて、深いグレーの瞳は人懐っこく細められている。
 アルフレートとは仲が良いのだろうか、気安い様子に少し驚く。
 それよりも、彼は、もしや───。

「さっき女将がどえらいもん見たって騒いでたんだが、何がどえらい、って……」
「はじめまして……!」

 アルフレートに向けられていた視線がだんだんと下がり 私と目が合ったのでドキドキしながら挨拶を返す。
 すると、男性は目を見開いて数秒固まったあと、ハッと我に返ってアルフレートに食いついた。

「おっまえ、こんな可愛い子どこで見つけてきたんだよ!てか、拐ってきたとかじゃないだろうな!?さすがに庇えねえぞ!」
「座れるか」
「うん」
「無視すんなよ!」

 アルフレートは騒ぐ男性に見向きもせず、私にカウンターに座るよう促してきた。幸い椅子は一人で座れる高さだったので、アルフレートの隣の椅子に座る。

「おい、嬢ちゃん、大丈夫か。ひどいことされたりしてないか」

 男性はアルフレートが無視を決め込むので、私に矛先を移したようだ。本当に心配そうな眼差しで見つめられるので、微笑んで返す。

「アルフは優しいですよ。私がアルフにお願いして、連れてきてもらったんです」
「嬢ちゃん、あんた……。天使か!!」

(!?!?!?……いや、どちらかというと悪魔のたぐいです……!)

 カウンターから身を乗り出すような男性の勢いに押される。

「ええと……」
「ああ!俺は熊獣人のフォルカーってんだ。この穴蔵亭で料理人やってる。よろしくな!」
「あ、私はラキアといいます。サキュバスです」

 やっぱり、熊さん!!彼の大きな体と頭の上の丸い耳を見てそうじゃないかと思っていたのだ。
 そうか、熊さんかあ!!
 熊は動物園でしか見れなかった動物なので近くにいるなんて不思議だ。というかアルフみたいに獣型、あるんだろうか。あるならば、ぜひもふもふしたいのだが。お腹にハグをしてみたいのだが……!

 ワクワクしながらフォルカーを見ていた私を、じとアルフレートが見ていたことを私は全く気がつかなかった。
 
 






しおりを挟む
感想 3

この作品の感想を投稿する

みんなの感想(3件)

2019.01.17 ユーザー名の登録がありません

退会済ユーザのコメントです

解除
なみなみ
2018.12.10 なみなみ

面白いです、この後が気になります┏○ペコッ

解除
冬桜
2018.09.25 冬桜

はじめまして!
とても面白いお話ですね!

これからの展開が楽しみです(*´∀`)

解除

あなたにおすすめの小説

お腹の子と一緒に逃げたところ、結局お腹の子の父親に捕まりました。

下菊みこと
恋愛
逃げたけど逃げ切れなかったお話。 またはチャラ男だと思ってたらヤンデレだったお話。 あるいは今度こそ幸せ家族になるお話。 ご都合主義の多分ハッピーエンド? 小説家になろう様でも投稿しています。

セレナの居場所 ~下賜された側妃~

緑谷めい
恋愛
 後宮が廃され、国王エドガルドの側妃だったセレナは、ルーベン・アルファーロ侯爵に下賜された。自らの新たな居場所を作ろうと努力するセレナだったが、夫ルーベンの幼馴染だという伯爵家令嬢クラーラが頻繁に屋敷を訪れることに違和感を覚える。

好きな人に『その気持ちが迷惑だ』と言われたので、姿を消します【完結済み】

皇 翼
恋愛
「正直、貴女のその気持ちは迷惑なのですよ……この場だから言いますが、既に想い人が居るんです。諦めて頂けませんか?」 「っ――――!!」 「賢い貴女の事だ。地位も身分も財力も何もかもが貴女にとっては高嶺の花だと元々分かっていたのでしょう?そんな感情を持っているだけ時間が無駄だと思いませんか?」 クロエの気持ちなどお構いなしに、言葉は続けられる。既に想い人がいる。気持ちが迷惑。諦めろ。時間の無駄。彼は止まらず話し続ける。彼が口を開く度に、まるで弾丸のように心を抉っていった。 ****** ・執筆時間空けてしまった間に途中過程が気に食わなくなったので、設定などを少し変えて改稿しています。

お嬢様はお亡くなりになりました。

豆狸
恋愛
「お嬢様は……十日前にお亡くなりになりました」 「な……なにを言っている?」

明日結婚式でした。しかし私は見てしまったのです――非常に残念な光景を。……ではさようなら、婚約は破棄です。

四季
恋愛
明日結婚式でした。しかし私は見てしまったのです――非常に残念な光景を。……ではさようなら、婚約は破棄です。

白い結婚をめぐる二年の攻防

藍田ひびき
恋愛
「白い結婚で離縁されたなど、貴族夫人にとってはこの上ない恥だろう。だから俺のいう事を聞け」 「分かりました。二年間閨事がなければ離縁ということですね」 「え、いやその」  父が遺した伯爵位を継いだシルヴィア。叔父の勧めで結婚した夫エグモントは彼女を貶めるばかりか、爵位を寄越さなければ閨事を拒否すると言う。  だがそれはシルヴィアにとってむしろ願っても無いことだった。    妻を思い通りにしようとする夫と、それを拒否する妻の攻防戦が幕を開ける。 ※ なろうにも投稿しています。

王子妃教育に疲れたので幼馴染の王子との婚約解消をしました

さこの
恋愛
新年のパーティーで婚約破棄?の話が出る。 王子妃教育にも疲れてきていたので、婚約の解消を望むミレイユ 頑張っていても落第令嬢と呼ばれるのにも疲れた。 ゆるい設定です

お飾り王妃の愛と献身

石河 翠
恋愛
エスターは、お飾りの王妃だ。初夜どころか結婚式もない、王国存続の生贄のような結婚は、父親である宰相によって調えられた。国王は身分の低い平民に溺れ、公務を放棄している。 けれどエスターは白い結婚を隠しもせずに、王の代わりに執務を続けている。彼女にとって大切なものは国であり、夫の愛情など必要としていなかったのだ。 ところがある日、暗愚だが無害だった国王の独断により、隣国への侵攻が始まる。それをきっかけに国内では革命が起き……。 国のために恋を捨て、人生を捧げてきたヒロインと、王妃を密かに愛し、彼女を手に入れるために国を変えることを決意した一途なヒーローの恋物語。 ハッピーエンドです。 この作品は他サイトにも投稿しております。 表紙絵は写真ACよりチョコラテさまの作品(写真ID:24963620)をお借りしております。

処理中です...
本作については削除予定があるため、新規のレンタルはできません。

このユーザをミュートしますか?

※ミュートすると該当ユーザの「小説・投稿漫画・感想・コメント」が非表示になります。ミュートしたことは相手にはわかりません。またいつでもミュート解除できます。
※一部ミュート対象外の箇所がございます。ミュートの対象範囲についての詳細はヘルプにてご確認ください。
※ミュートしてもお気に入りやしおりは解除されません。既にお気に入りやしおりを使用している場合はすべて解除してからミュートを行うようにしてください。