レイヤー少女の魔界謳歌

七海かおる

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 蝶の仮面を手にしたことで、ここの領主でこの夜会の主催者のアハトのところへ転送された、らしい。

「奇妙な魔力が突然現れたからな。とりあえず、ここに呼ぶよう配下の者に言っておいたのだ。驚かせたな」
「いえ!食事させていただいたので助かりました!」

 今まで年上の超絶美人なお兄さんの認識だった人が、実はここ一帯の領主だと知って内心テンパっている。 失礼なことはしてなかったよね……!?

「それで、もう一度聞くが、そなたは一体何者だ?」
「う、それは……」

 ここで自分の正体を言ってもいいものか悩んで、続く言葉が浮かばない。
 答えない私をどう思ったのか、アハトは今までの態度と変わらず、気怠そうに言葉を続けた。

「そなたを悪いようにするつもりはないよ。長く刺激もなく退屈していたところに、おかしな魔力をしたそなたが突然ここに現れたのを感じて、少し興味が湧いただけだ」

 この人からは敵意だとか、私を害そうとする気配が全く感じられない。そんな自分の直感を信じようと、口を開く。私は彼にここに来た経緯を全て話すことにした。


「ほう!……なるほど、そなたはこことは違う世界の人間で、その姿は衣装だとな!」
「はい、こういう格好をみんなでして楽しむイベントが私の世界にはありまして」
「そうだな、確かにこの世界の人間ならば我らを模した格好をして楽しむなどということはするまいよ。 奴らは我らを敵対視しているからな」

「そうなんですね」と相槌を打つ。思ったよりも好意的に受け止められているようだ。というより、面白いものを見つけたというふうにお兄さんのテンションが高い。青紫の瞳が爛々としている。

「アハト様は他に異世界から来た人とか知りませんか?できたら元の世界に戻りたいんです」
「異なる世界からの来訪者、か。この魔界ではわざわざ人を喚び出したりしないからな……。悪いが、私に心当たりはないな」
「そうですか……」

 この地の権力者であるアハトなら何か知っているかもと思い聞いてみたが、彼に心当たりはないらしい。

「しかし、そなたが人だというのはやはり少し信じがたいな。そなたからは我らに似た魔力を感じる」
「魔力のことはよく分からないんです。私がいた世界には魔力だとか魔法だとかはお話の中だけだったので」
「そうか。まあそれはそのうち分かるであろう」

 魔力があるということは、魔法なんかもそのうち使えたりするのだろうか。それは、ちょっとわくわくする。

「しかし、そうか、衣装ということは、その角や翼なども作り物か?」
「あ、はい、そうです。見ますか?」

 そう言って私が角をつけたカチューシャをとると、「お、おい!大丈夫か!!」とアハトはひどく慌ててこちらに身を乗り出した。彼らにとっては体の一部だ。それを外したので驚かれたのだろう。

「大丈夫ですよ。よく見てください、力作なんです」

 アハトにカチューシャを手渡す。「おお……」とまだアハトは戸惑っているようだったが、作り物であるということは確認出来たらしい。こちらに返してきたので再び頭に着ける。

「だがしかし、そのままではこちらで生きていく上で不便であろうな。ふぅむ、よし、こちらにおいで」

 手招きされるままに彼が寝転ぶソファーに近づく。アハトに対しての警戒心はもうなかった。
 額にアハトの指先が触れる。触れたところから光が溢れ、あたたかい何かが体中を巡っていくのを感じる。

「───そなたは我が同胞にして、我が眷属なり。そなたに我が加護を与えよう」

 光が弾けて消えて、アハトの手が私から離れた。
 しかし、自分の全身を見てみても何か変化があったようには見えない。

「何をしたんですか?」
「そなたを我が保護下に置いたのだ。何か困ったことがあれば我が力がそなたを守るだろう」
「……ありがとうございます」
「ああ、それと」
「?」

「もう一度角を外してごらん」と促されて、カチューシャを外そうとする。が、カチューシャがどんなに探っても触れない。角があるだろう場所に手を当ててみて驚愕する。

(角がそのまま頭からは、生えてる……!?)

「ええ!?」
「角だけではないぞ」

 そう言われて、まさか、と思いながらも腰に手を当ててみる。翼の根本を辿っていくと、ベルトではなく腰に手がついた。体をひねって腰を見てみると、腰から翼がそのまま生え、スカートの中からは尻尾がのぞいていた。

「ふふ、これでそなたは、正真正銘我が同胞だ」

 にこにことアハトは相好を崩し、満足そうに宣った。

「え、えええええ!?」
 衝撃が強すぎて、思わず大声が出る。混乱に合わせて翼もばさばさと動くし、尻尾も左右に揺れていた。

「……すごいですね、魔法って。こんなこともできるんですか……」

 なんだか凄すぎて力が抜ける。それに合わせてだらりと下がった翼と尻尾を横目に見る。自慢の出来だったが、まさか体の一部になってしまうなんて思ってもみなかった。

「我ら夢魔や吸血鬼などは他人から食事をするからな。体を操作する魔法が得意なのだ」
「!?……も、しかして私のこれからの食事もあなたたちと同じになったんですか!?困ります!そんな……」

 思わず顔が赤くなった。お腹が空くたびに他所様とあんあんしないとだめなんて私の精神がもたない!

「いや、体の造りまではいじっておらぬ。体につけただけだ。さすがに種族そのものを変えるならこんなに簡単にはできぬ」
「これも十分すごいですけどね……」

 ひとまずは安心して、笑みが浮かんだ。
 と、そのとき、

 ドオオオオーーーン────

 地面が激しく揺れた。



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