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私のお腹の音のせいでなんともいえない空気が流れてしまった。
「ごめんなさい。今日は朝から何も食べてなくて」
これは本当だ。初めてのコスプレデビューに気が高ぶって朝は食欲がなかったのだ。本当なら休憩場所にあのまま友人と向かって今頃お弁当を食べているはずだった。
そういえば、さっきは給仕のお兄さんが飲み物を配っていた。周りの人たちにしか目が向かなかったけれど、会場内には食べ物もあるのではないだろうか。
「私、ちょっと中に戻って食べ物探してこようと思うんだけど、アルフはどうする?」
少しの心細さもあって、一緒に来てくれないかなという期待を込めながらアルフレートに聞いてみる。
途端、アルフレートの鼻筋に少し皺が寄って、むっとした顔になった。突然の不機嫌顔に戸惑う。
「腹が減ったなら、私から食べればいい」
「え?」
「……おまえの種族なら、私からも食事ができるのではないか?」
アルフレートから食事……?
なんのことだろう、と考え込むのに視線を下げると、腰に着けた翼が目に入ってハッとする。
(そうだった!私は今サキュバスなんだった……!)
ついさっきもサキュバスの食事に誘われたのを、アルフレートとの出会いの衝撃ですっかり忘れていた。
サキュバスの食事といえば、異性から精気を奪う……的なことなんだよね、やっぱり……!
「えっと、私偏食なの。アルフのことは気に入ったんだけど、今は食べ慣れたものが食べたいというか、まだ挑戦する勇気がないというか……」
必死にサキュバスの設定を思い起こしてそのまま口に出す。ちら、と上目でアルフレートを窺う。
「……わかった。それなら付き合おう」
不承不承という感じで、アルフレートは頷いてくれた。それに、一緒に付いてきてくれるらしい。やった!
アルフレートは「この姿のままでは入れんな」と呟いたかと思うと、私が瞬きした間に姿が変えていた。
「……アルフ?」
「なんだ?」
「どうした?」と何事もなかったかのようにこちらを見てきたアルフレートは二足歩行になっていた。
そのまま立ち上がっている訳ではなく、骨格が人間に近くなっているような感じだ。全体的に少しサイズダウンしているように見えるが、すらりと伸びた体躯にはしっかりと筋肉がついている。2m近くはあるんじゃないだろうか。ヒールを履いていても見上げると少し首が痛い。
そしてどこから出したのか、光沢のある黒いマントを金鎖で留めて羽織っていた。衣装はマントだけなのだが、アルフレートは全身が毛皮で覆われているので違和感はあまりない。
これが俗に言う"魔法"なのだろうか?それとも単にアルフの体質?
「……変か?」
あまりにも注視していたからか、アルフレートが瞳を揺らしながら聞いてきた。心なしか両耳がぺたりと折れている。
なんだか不安そうに見えたので、「えいっ」と突進してみた。そのままぎゅう、と抱きつけばアルフレートはぴしり、と固まった。
「こっちのアルフも格好いいなーって見とれてた!」
素直が一番、とアルフレートに満面の笑みを向けながら正直な気持ちを伝える。腰に回した腕がさっきまでと変わらないふかふかの毛並みに埋もれて気持ちいい。
しばらく呆然としていたアルフレートだが、ぶわわっと毛を膨らませたかと思うとふいと顔を背けた。獣顔で分かりづらいが、照れているように見える。
「……早く済ませるぞ」
顔を背けたまま、アルフレートは私の肩をがしっと抱き、そのまま会場に向かって歩き出した。
私はその肩の手に安心感を覚えながら、再び会場へと足を踏み入れた。
「ごめんなさい。今日は朝から何も食べてなくて」
これは本当だ。初めてのコスプレデビューに気が高ぶって朝は食欲がなかったのだ。本当なら休憩場所にあのまま友人と向かって今頃お弁当を食べているはずだった。
そういえば、さっきは給仕のお兄さんが飲み物を配っていた。周りの人たちにしか目が向かなかったけれど、会場内には食べ物もあるのではないだろうか。
「私、ちょっと中に戻って食べ物探してこようと思うんだけど、アルフはどうする?」
少しの心細さもあって、一緒に来てくれないかなという期待を込めながらアルフレートに聞いてみる。
途端、アルフレートの鼻筋に少し皺が寄って、むっとした顔になった。突然の不機嫌顔に戸惑う。
「腹が減ったなら、私から食べればいい」
「え?」
「……おまえの種族なら、私からも食事ができるのではないか?」
アルフレートから食事……?
なんのことだろう、と考え込むのに視線を下げると、腰に着けた翼が目に入ってハッとする。
(そうだった!私は今サキュバスなんだった……!)
ついさっきもサキュバスの食事に誘われたのを、アルフレートとの出会いの衝撃ですっかり忘れていた。
サキュバスの食事といえば、異性から精気を奪う……的なことなんだよね、やっぱり……!
「えっと、私偏食なの。アルフのことは気に入ったんだけど、今は食べ慣れたものが食べたいというか、まだ挑戦する勇気がないというか……」
必死にサキュバスの設定を思い起こしてそのまま口に出す。ちら、と上目でアルフレートを窺う。
「……わかった。それなら付き合おう」
不承不承という感じで、アルフレートは頷いてくれた。それに、一緒に付いてきてくれるらしい。やった!
アルフレートは「この姿のままでは入れんな」と呟いたかと思うと、私が瞬きした間に姿が変えていた。
「……アルフ?」
「なんだ?」
「どうした?」と何事もなかったかのようにこちらを見てきたアルフレートは二足歩行になっていた。
そのまま立ち上がっている訳ではなく、骨格が人間に近くなっているような感じだ。全体的に少しサイズダウンしているように見えるが、すらりと伸びた体躯にはしっかりと筋肉がついている。2m近くはあるんじゃないだろうか。ヒールを履いていても見上げると少し首が痛い。
そしてどこから出したのか、光沢のある黒いマントを金鎖で留めて羽織っていた。衣装はマントだけなのだが、アルフレートは全身が毛皮で覆われているので違和感はあまりない。
これが俗に言う"魔法"なのだろうか?それとも単にアルフの体質?
「……変か?」
あまりにも注視していたからか、アルフレートが瞳を揺らしながら聞いてきた。心なしか両耳がぺたりと折れている。
なんだか不安そうに見えたので、「えいっ」と突進してみた。そのままぎゅう、と抱きつけばアルフレートはぴしり、と固まった。
「こっちのアルフも格好いいなーって見とれてた!」
素直が一番、とアルフレートに満面の笑みを向けながら正直な気持ちを伝える。腰に回した腕がさっきまでと変わらないふかふかの毛並みに埋もれて気持ちいい。
しばらく呆然としていたアルフレートだが、ぶわわっと毛を膨らませたかと思うとふいと顔を背けた。獣顔で分かりづらいが、照れているように見える。
「……早く済ませるぞ」
顔を背けたまま、アルフレートは私の肩をがしっと抱き、そのまま会場に向かって歩き出した。
私はその肩の手に安心感を覚えながら、再び会場へと足を踏み入れた。
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