レイヤー少女の魔界謳歌

七海かおる

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 真夏の太陽が肌をじりじりと照りつける。
 周囲の視線も太陽に負けないほど、自分に集まっているのを感じる。体のラインに合わせて、全身を、なぞるように……。でも今日ばかりは、それも不快じゃない。むしろ高揚感が勝っている。

「すばらしい再現率ですね!」
「すみません、こっちも向いてもらえませんか?」

 滴る汗をものともせず、カメラを構えた人々が自分に注目している。シャッター音が絶えず鳴り響き、それに合わせるようにこちらも表情とポーズを変えた。妖艶な表情、際どいポーズもとってみせる。普段なら絶対しないポーズだってノリノリで披露する。
 ここはコスプレのフェス会場!

(そして私のコスのキャラクターはサキュバスだから……!)

 淫魔サキュバスというだけあって、露出度はかなり高い。しかしそれを補って余りあるかわいさにやられた。
 もとはとあるファンタジーなゲームのキャラクターで、たまたま友人のスマホに見えたそのキャラクターに一目惚れしたのがきっかけだ。そのままコスプレイヤーだった友人に引きずられ、本日を迎えることになった。

「おーい!お疲れー」
「お疲れー。そっちは終わり?」
「そ。休憩しよう」

 お昼もまわり、そろそろ疲れてきたなと思い始めた頃。手を降りながらこちらに近づいてきたのはくだんの友人だ。
 この界隈では、ちょっとした名の知れたレイヤーらしい彼女は人を集めるので、初心者の自分とは一時別行動をとっていたのだ。友人の本日の衣装は同じゲームのヒロインの一人で、人気の高いキャラクターらしい。

「相変わらずすごいね、それ。いつもとは別人」
「まあね、伊達に長くやってないし。まあそれで言うと私はあんたののめりこみに驚いたわ。今までは誘っても生返事ばっかりだったくせに」
「えへへ、私も驚いてる」
「あんたのやる気が引き出せて、私は満足ですよー」

 そう、私はこの日のためだけに、お金と時間を費やした。友人歴の長い彼女が驚くほどに。
 普段から執着心が薄い、淡白だなどと友人から評される私にしては今回は本当に珍しいことだった。
 やるからには安っぽい衣装なんて嫌で、詳しい友人やサークル仲間にも協力してもらった。もちろん無償ではなかったが、友人割でなんとか手を打ってもらった。
 それだけの苦労をかけたため、自分でも納得のいく出来映えになったと思う。

 胸囲だけを覆う上着は桃色に見える合皮素材を探し当て、ぱっくりと開いた胸元には谷間が見えづらいように革紐を交差させて編み上げにした。下着は無地の黒なので影になれば目立たない。
 太腿半ばまでしかないスカートはふんだんにフリルで彩られ、ガーターベルトを模したタイツは黒のレース模様。フリルのおかげで絶対領域がさりげなく主張されているのもポイントだ。
 露出が多い衣装でお腹まわりはどうしても丸出しになるので、引き締めるために鍛えもした。おかげで、シックスパックとはいかなくてもきゅっと絞れた。だらしのない体のままではキャラクターに申し訳なかったから頑張った。 

「小道具も全部自作でしょ?そんなに手先が器用だったなんて知らなかったわー」

 そうなのだ。サキュバスというファンタジーな生き物のキャラクターだけあって、人間にはないものがあったのだ。その再現が一番大変だった。
 頭部の両側から伸びる拳大の角は、素材としては紙粘土だ。塗装を重ねて艶をだし、カチューシャに取り付けている。
 腰から伸びた蝙蝠のような翼は得意なサークルの先輩に手伝っていただいた。ベルトに固定しているのだが、正直壊れやしないかと気が気ではない。妥協しない先輩だったので、友人割とはいえ材料費などお高かったのだ。 同じところに固定してあるスカートのフリルから覗くバイ菌のような尻尾は、既製品の鞭に少し手を加えただけなので簡単にできた。

 「あ、ちょっと私あそこのサークルにも挨拶してくる。悪いんだけど、休憩場所まで一人で行ける?」
「大丈夫、大丈夫。行ってらっしゃい」

 すれ違う人にもキャラクターになりきってにこやかに手を降る友人のサービス精神を見習って、私も微笑みを浮かべて手を降っていた中、友人と別れて休憩場所に向かう。広い会場だけど案内板もあるし、迷うことなんてないだろう。

 そう楽観的に会場から通路に一歩足を踏み出した途端、パリン、と薄いガラスが割れたような音が聞こえて空気が変わった、気がした。
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