854 / 966
第二十六話 荒野に叫ぶロックスター
文句
しおりを挟むその後、ナガレの水筒を(間接キスなんて全く気にせずに)丸々ラッパ飲みして、ようやくシャットは落ち着いた。
「ふぃーっ、ありがとーパイセン。いやー全部飲んじゃった」
キュートな吊り目をにーっと細めて笑顔になるシャット。あざとかわいい女の子というより、ペットの小型犬が甘えるみたいな可愛さである。
「アタイ、こんなムチムチの悩殺ボディだけどさぁ」
(自分で言うなよ)
「結構足腰には自信あったんだよね。小鬼族ってのは、結構足も早いしスタミナもあるからさ。でもこの階段は急すぎてつらかったわー……」
「……それが本当なら、崖を登ってきた方が良かったんじゃないか」
「ハハハ、ジョーが冗談言うなんて珍しいなぁ……あれ?」
ナガレが笑いながらジョーの顔を見ると、彼は本気の表情である。シャットまで「あ、それ良いね! あはは、さすがジョーパイセン」と肯定してしまった。
「次からは崖を登ってこよっと!」
「え、マジで言ってんの⁉︎」
その後、(シャットにとって)因縁の階段に、三人並んで腰を下ろす。
「そんで、何か用があってきたんだろ?」
「そーだよ! 階段がキツすぎて忘れてた。ああもう、あんな階段作った奴を恨んでやるー!」
「まぁまぁよせよ。人間だって、あれはキツイから」
普通に登るならもう慣れたが、これを駆け上がるのは今でも辛い。冒険者のみんなはそれに全力で取り組むことで『持久』『食いしばり』と言った踏ん張るスキルを手に入れている。
「そんでさぁ。アタイ、もう単刀直入に言うね」
「お、おう」
急にシャットの声量が落ちた。姿勢を正すナガレ。
「パイセン! アタイら後輩をクエストに連れてってよ! 約束したでしょー!」
「えっ? そ、そんなのしたっけ?」
ド忘れしていたナガレに、シャットは指を突きつけ詰めかけた。
「したぁ! したしたしたしたぁ! あの時スカルクリーチャーがどうのこうのって、全く取り合ってくれなかったじゃんっ!」
「……そうなのか、ナガレ?」
「え、や、ちょっと待った! あー、そう言えば、してたかも……」
「ほらー!」
約束してます。冒険者ギルドに立ち寄ったナガレは、後から来たサニーとシャットに『後輩たちと一緒にクエストへ行く』とバッチリ約束している。
「……そうか。なら、約束を破るのは良くないな。オレの知っているナガレ・ウエストは、絶対に約束を破らない存在だ」
彼は約束のためにガラガラマムシへ立ち向かい持ち堪えた冒険者だ。それをその目で見てきたジョーが言うと説得力が違う。
0
お気に入りに追加
19
あなたにおすすめの小説



貧弱の英雄
カタナヅキ
ファンタジー
この世界では誰もが生まれた時から「異能」と「レベル」呼ばれる能力を身に付けており、人々はレベルを上げて自分の能力を磨き、それに適した職業に就くのが当たり前だった。しかし、山奥で捨てられていたところを狩人に拾われ、後に「ナイ」と名付けられた少年は「貧弱」という異能の中でも異質な能力を身に付けていた。
貧弱の能力の効果は日付が変更される度に強制的にレベルがリセットされてしまい、生まれた時からナイは「レベル1」だった。どれだけ努力してレベルを上げようと日付変わる度にレベル1に戻ってしまい、レベルで上がった分の能力が低下してしまう。
自分の貧弱の技能に悲観する彼だったが、ある時にレベルを上昇させるときに身に付ける「SP」の存在を知る。これを使用すれば「技能」と呼ばれる様々な技術を身に付ける事を知り、レベルが毎日のようにリセットされる事を逆に利用して彼はSPを溜めて数々の技能を身に付け、落ちこぼれと呼んだ者達を見返すため、底辺から成り上がる――
※修正要請のコメントは対処後に削除します。

ここは貴方の国ではありませんよ
水姫
ファンタジー
傲慢な王子は自分の置かれている状況も理解出来ませんでした。
厄介ごとが多いですね。
裏を司る一族は見極めてから調整に働くようです。…まぁ、手遅れでしたけど。
※過去に投稿したモノを手直し後再度投稿しています。

無能なので辞めさせていただきます!
サカキ カリイ
ファンタジー
ブラック商業ギルドにて、休みなく働き詰めだった自分。
マウントとる新人が入って来て、馬鹿にされだした。
えっ上司まで新人に同調してこちらに辞めろだって?
残業は無能の証拠、職務に時間が長くかかる分、
無駄に残業代払わせてるからお前を辞めさせたいって?
はいはいわかりました。
辞めますよ。
退職後、困ったんですかね?さあ、知りませんねえ。
自分無能なんで、なんにもわかりませんから。
カクヨム、なろうにも同内容のものを時差投稿しております。

もしかして寝てる間にざまぁしました?
ぴぴみ
ファンタジー
令嬢アリアは気が弱く、何をされても言い返せない。
内気な性格が邪魔をして本来の能力を活かせていなかった。
しかし、ある時から状況は一変する。彼女を馬鹿にし嘲笑っていた人間が怯えたように見てくるのだ。
私、寝てる間に何かしました?

婚約破棄されて勝利宣言する令嬢の話
Ryo-k
ファンタジー
「セレスティーナ・ルーベンブルク! 貴様との婚約を破棄する!!」
「よっしゃー!! ありがとうございます!!」
婚約破棄されたセレスティーナは国王との賭けに勝利した。
果たして国王との賭けの内容とは――

要石の巫女と不屈と呼ばれた凡人
イチ力ハチ力
ファンタジー
女神が姿を消し、瘴気による侵食が進む『詰んでいる世界』に、五人の高校生が召喚された。
そして五人の中で唯一勝手に付いてきた富東 矢那(フトウ ヤナ)は、他の四人と異なり“勇者”では無かった。
『魔王』を倒すべく喚ばれ、魔力量も桁外れ、伝説級のスキルを既に取得している他の四人の『召喚されし勇者』達に対し、矢那の召還時の魔力量は凡人並。スキルも“言語/文字理解”を除いてはただ一つ、『不撓不屈』のみ。
『召喚を要求した者』は、数奇な運命と自身の持つ宿命に導かれながら、世界の命運を賭けた戦いに、身を投じていくことになる。
絶望の色に染まる『巫女』と、絶望が大嫌いな『凡人』が出会う時、神に挑みし『不屈』の物語が幕を開ける。
脳筋や変態扱いされても、姫がポンコツになっても、ヒロイン達が野獣と化したとしても! この男は決して倒れる事は無い! 顔で嗤って心で泣いて、世界を救う真の英雄譚が始まる!
熱い魂の王道ファンタジーここに誕生!
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる