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第十二話 猛き冠、森林の蹄
賄賂……っぽいプレゼント
しおりを挟むギィィィィッ……パタン……。
中に入り、扉を閉めて振り返る。するとそこは、とても明るくゴージャスな部屋だった。
テーブルは明らかに上質なもので、黒く塗られた中に金の装飾が埋め込まれたデザイン。ソファーはフカフカそうだし、本棚には高そうな本がいっぱい並んでいるし、天井には金持ちの象徴であるシャンデリアがぶら下がっている。
「バカみたいにキョロキョロしてんじゃねえよ、田舎女」
辛辣な物言いに振り向くと……そこにはあのトリゼア、ナスタシア、そしてトレメインの三人がいた。青髪のトリゼラはソファーにどっかり腰を下ろし、何やら手帳のような物をパラパラ巡っている。クールな吊り目も、今はどんよりと曇っていた。
ピンク髪のナスタシアは壁に持たれて、太い葉巻を吸っては煙を吐いていた。……あのゆる~い癒し系のアイドルが、まさかまさかの喫煙者!
そしてナガレへ冷たい目を向けているのは……あのベージュ髪のポニテアイドル、トレメイン。まるでゴミを見るような目でこっちを見つめている。
「何? ここに来るって事は、大した用事でしょうね。アタシらは日々の疲れを癒してんの。新人如きが邪魔していいような時間じゃないんだよ。分かってんの?」
遠慮もクソもない、陰湿な性格が滲み出た言葉である。ナガレは会ってすぐなのに、もうこの人たちのことを嫌いになったような気分になった。
しかしそんな心情は全く出さず、作り笑顔を浮かべる。
「ワタシ、レガーナっていいます。トレメインさんに憧れて、このラストハーレムズに入りました! ワタシもトレメインさんみたいな、とびっきりの美少女になりたいです! これからよろしくお願いします!」
「そう、興味ないわ」
相変わらず冷たい返事だが、ちょっと態度が軟化した気がする。腕組みを解き、ナガレへ向き直ってくれた。
だがまだパンチ不足……ナガレはバッグを開き、そこから何かの箱を取り出した。小さな木箱が入っている。
「何かご挨拶と思ったんですが、ワタシは皆さんみたいなすごい人とは違って田舎者なよで……こんな物しかご用意できませんが、どうか受け取ってください」
「は? いらないんですけど」
トレメインはそう言ったが、トリゼラがメモ帳を閉じてナガレに近寄る。そして木箱をぶんだぐり、カパッと蓋を取って中身を確認した。
(へっ、それを見てもまだ、いらないと言えるかな?)
内心でほくそ笑むナガレ。じろじろ確認するトリゼラの目が、どんどん大きく見開かれていく……。
「ちょ、り、リーダー! これ……」
「何よトリゼラ、どうせこんなやつが持ってくる物なんて……」
ナスタシアも葉巻の火を消し立ち上がった。そしてトリゼラから木箱を奪って……
「え、えぇーっ⁉︎」
彼女もまた、驚きの声を漏らす。
「え、なんなの?」
お供二人の驚きように、トレメインも興味を惹かれたようだ。すっと二人の背中越しに中身を覗き見て……。
「う……ウッソ! これって……」
木箱の中にあるのは……しっかり冷凍されバラされた、見ていてよだれが落ちそうなたくさんの牛肉だった。それもタダの牛肉ではない。
「あ、この紙! 中に入ってましたけど、こ、これって……」
「はい! 高級レストランでも使われる、一流食材のウエストサイド・ブルのシャトーブリアンです!」
「「「えぇーーっ!」」」
あんだけ悪い面してたアイドル三人が、そろって驚きの大声を出した。
(へっへっへ、どうだい! 田舎者だからこそ準備できたプレゼントだ!)
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