199 / 497
第十話 闇を抱える爆音波
禍の噂
しおりを挟む~☆~☆~☆~☆~☆~
そして日が暮れたため、今日の作業が終了した。みんな作業を終えて、あちこちで食事を取っている。
ナガレ達冒険者組も固まってパンとシチューにありついていた。
ガツガツガツガツ……。
「んくんく……ぷはっ! あったかくて味も濃くてうめえや、このシチュー!」
「……スラガン地方の夜は冷えるな。まだ九月だと言うのに肌寒いぞ」
「もぐもぐ……ここは谷が多い分風が強いからなぁ。あたり一面荒野だから遮るものもねえんだ」
そんなことを話していると、現場監督のヤングさんが近寄って来た。ヘルメットを外していて、可愛い小さなお団子ヘアーがギャップを感じる。
「よう、冒険者ども! なかなかやるじゃないか。実際アンタらのおかげで、作業効率も上がってたんよ? 冒険者ってのはぁ不思議なもんだ」
そう言ってナガレを指差すヤング。
「こんな細身の女の子でも、二人がかりとはいえ重い角材を持てるんだから! いやあ弱小とはいえさすが冒険者!」
「オレは男と言ってんだろ! あと弱小は余計だ!」
「ヤングさん。我々がここに滞在できるのは一ヶ月です。ギルドマスターからそう指示されておりまして……」
サニーが聞くと、ヤングは「ああ、そりゃ大丈夫!」と言ってケラケラ笑った。
「ここにいんのはタイガスの街でもかなりのベテランやプロが集まってんだ。こんだけ良い人材がいりゃあ後二週間で終わる!」
「そうなの~⁉︎ 小さい村とはいえ、かなり早いわ~! すご~い!」
「ま、その代わりアンタらはちゃーんと村とあたしらを守ってくれよ! モンスターにも負けない家を作ってやるけど、あたしらがやられちまえば復興はずっと先になるかんな」
ヤングさんは「ふふん!」と得意げに笑う。それを見たケンガは顔を顰めた。
「うげ……そうか、俺様たちは復興を手伝うだけじゃなくて、防衛もしなくちゃいけねえのか。ああ……作業でヘトヘトのところ襲われたら、スカルウルフ一体でもやられてしまうぞ」
「だったら頑張って手伝って、襲われる前に仕事を終わらせないとな。でも……その、なんだっけ。マンゲツゴーストとやらがまた来ちゃうかもしれないぞ?」
「ナガレ君、マガツゴーストだ」
いつもの言い間違いをタネツが指摘してくれた。
「あ~、そりゃ大丈夫! ホレ、あの焚き火を見てみろよ」
「あのヤグラみたいなのね~。アレはなんなの~?」
ヤングが指差した先には、メラメラと燃え上がる白い炎の篝火があった。キャンプファイアーのように木材を組み合わせているが、ナガレたちと同じくらい大きい。ただの明かりにしては派手すぎるように見える。
「……ほう、聖なる炎か」
ボソッと呟いたのはジョーだ。
「え、なんだそりゃ?」
「……アレはゴーストが嫌がって近寄らない効果があるんだ。炎が白いのは、周囲に特殊な呪文をかけているからさ。櫓の下の地面を見てみろ」
言われた通りよく見ると、地面に何やら模様が書かれている。その周囲には鉄の杭とロープで柵が作られており、侵入を禁止しているのがよく分かる。
「……あの魔法陣で炎に魔力を送っている。あの効果は凄まじく、どんなゴーストも寄りつかない。それは危険度S級のマガツゴーストすら例外ではない」
「なんだ、そんなスゲエ効果だったんだねぇ! あたしゃ知らなかったよ」
「……は?」
キョトンとするジョー。ヤングは「あっはっは!」と気さくに笑った。
「いーや、あたしらはあの木材櫓を組んだだけ。その後王都から来たとか言う辛気臭いツラしたおっさんたちが来て、あの魔法陣書いて火をつけてくれたんだよ。ちょっとやそっとじゃ魔法陣は消えないけど、一応立ち入りは禁止しといてくれってさ」
そこまで言って、ヤングは考え込むように唇に指を当てた。
「ところでそんなにスゴいモンをよくつけてくれたねえ。マガツゴーストとか言うのは、そんなに強いのかい? あたしらも一応『マガツゴーストには気をつけろ。もしなんかの事故で村に来たら、復興はいいからとにかく逃げて生還してくれ』って本部も言ってたねぇ」
「そんなに恐ろしい相手なのかぁ……」
「……マガツゴーストは危険度S級の、極めて危険なモンスターだ。目撃情報が少なく被害もあまり聞かないが、一度暴れ出したらAランク冒険者パーティだって簡単に返り討ちだ。……しかし、ゴーストもこの村に固執している訳ではないだろう。この炎を絶やさず燃やし続ければ、いずれ諦めてどこかへ言ってしまうはずだ。そもそもゴースト自体が人を嫌うからな……」
なんだか難しい話になって来た。ナガレは肩をすくめて炎をじっと見つめる。白く燃える炎はなんだか神々しく、とても美しかった。
「ま、いいさ。あたしゃこれから明日の構想段階練ってくんよ。アンタらも夜更かしせず早いとこ休むんだよ~」
そう言ってヤングは立ち上がり、他の仲間たちのところへ歩いていった。
「んじゃ、かなり早いけど俺たちも休むか。俺はまだ動けるがな! 普段の特訓に比べたらずっと楽だぜ」
「そうかも! あははははっ……」
タネツの言葉にナガレも笑ったところで、ふとサニーに違和感を感じた。
「サニー? どうしたんだ」
「………………」
何やらサニーが考え込むような表情をしている。ナガレが声をかけても、ほとんど耳に入っていないようだ。
「……サニー? なんだよ、腹でも痛いのか?」
肩をポンと叩くと、ようやくこちらに気がついたようで一瞬ビクッとした。
「な、ナガレさん。ええ、大丈夫です。何もないですよ」
「……? なら良いけど」
0
お気に入りに追加
4
あなたにおすすめの小説
校長室のソファの染みを知っていますか?
フルーツパフェ
大衆娯楽
校長室ならば必ず置かれている黒いソファ。
しかしそれが何のために置かれているのか、考えたことはあるだろうか。
座面にこびりついた幾つもの染みが、その真実を物語る
小学生最後の夏休みに近所に住む2つ上のお姉さんとお風呂に入った話
矢木羽研
青春
「……もしよかったら先輩もご一緒に、どうですか?」
「あら、いいのかしら」
夕食を作りに来てくれた近所のお姉さんを冗談のつもりでお風呂に誘ったら……?
微笑ましくも甘酸っぱい、ひと夏の思い出。
※性的なシーンはありませんが裸体描写があるのでR15にしています。
※小説家になろうでも同内容で投稿しています。
※2022年8月の「第5回ほっこり・じんわり大賞」にエントリーしていました。
冤罪だと誰も信じてくれず追い詰められた僕、濡れ衣が明るみになったけど今更仲直りなんてできない
一本橋
恋愛
女子の体操着を盗んだという身に覚えのない罪を着せられ、僕は皆の信頼を失った。
クラスメイトからは日常的に罵倒を浴びせられ、向けられるのは蔑みの目。
さらに、信じていた初恋だった女友達でさえ僕を見限った。
両親からは拒絶され、姉からもいないものと扱われる日々。
……だが、転機は訪れる。冤罪だった事が明かになったのだ。
それを機に、今まで僕を蔑ろに扱った人達から次々と謝罪の声が。
皆は僕と関係を戻したいみたいだけど、今更仲直りなんてできない。
※小説家になろう、カクヨムと同時に投稿しています。
無能なので辞めさせていただきます!
サカキ カリイ
ファンタジー
ブラック商業ギルドにて、休みなく働き詰めだった自分。
マウントとる新人が入って来て、馬鹿にされだした。
えっ上司まで新人に同調してこちらに辞めろだって?
残業は無能の証拠、職務に時間が長くかかる分、
無駄に残業代払わせてるからお前を辞めさせたいって?
はいはいわかりました。
辞めますよ。
退職後、困ったんですかね?さあ、知りませんねえ。
自分無能なんで、なんにもわかりませんから。
カクヨム、なろうにも同内容のものを時差投稿しております。
【完結】私だけが知らない
綾雅(りょうが)祝!コミカライズ
ファンタジー
目が覚めたら何も覚えていなかった。父と兄を名乗る二人は泣きながら謝る。痩せ細った体、痣が残る肌、誰もが過保護に私を気遣う。けれど、誰もが何が起きたのかを語らなかった。
優しい家族、ぬるま湯のような生活、穏やかに過ぎていく日常……その陰で、人々は己の犯した罪を隠しつつ微笑む。私を守るため、そう言いながら真実から遠ざけた。
やがて、すべてを知った私は――ひとつの決断をする。
記憶喪失から始まる物語。冤罪で殺されかけた私は蘇り、陥れようとした者は断罪される。優しい嘘に隠された真実が徐々に明らかになっていく。
【同時掲載】 小説家になろう、アルファポリス、カクヨム、エブリスタ
2023/12/20……小説家になろう 日間、ファンタジー 27位
2023/12/19……番外編完結
2023/12/11……本編完結(番外編、12/12)
2023/08/27……エブリスタ ファンタジートレンド 1位
2023/08/26……カテゴリー変更「恋愛」⇒「ファンタジー」
2023/08/25……アルファポリス HOT女性向け 13位
2023/08/22……小説家になろう 異世界恋愛、日間 22位
2023/08/21……カクヨム 恋愛週間 17位
2023/08/16……カクヨム 恋愛日間 12位
2023/08/14……連載開始
婚約破棄を目撃したら国家運営が破綻しました
ダイスケ
ファンタジー
「もう遅い」テンプレが流行っているので書いてみました。
王子の婚約破棄と醜聞を目撃した魔術師ビギナは王国から追放されてしまいます。
しかし王国首脳陣も本人も自覚はなかったのですが、彼女は王国の国家運営を左右する存在であったのです。
45歳のおっさん、異世界召喚に巻き込まれる
よっしぃ
ファンタジー
2月26日から29日現在まで4日間、アルファポリスのファンタジー部門1位達成!感謝です!
小説家になろうでも10位獲得しました!
そして、カクヨムでもランクイン中です!
●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●
スキルを強奪する為に異世界召喚を実行した欲望まみれの権力者から逃げるおっさん。
いつものように電車通勤をしていたわけだが、気が付けばまさかの異世界召喚に巻き込まれる。
欲望者から逃げ切って反撃をするか、隠れて地味に暮らすか・・・・
●●●●●●●●●●●●●●●
小説家になろうで執筆中の作品です。
アルファポリス、、カクヨムでも公開中です。
現在見直し作業中です。
変換ミス、打ちミス等が多い作品です。申し訳ありません。
最弱の魔法戦闘師、最強に至る
捌素人
ファンタジー
最高峰の魔術学院、カムイ。始祖の魔行師にして最強の男の名がカムイだったことから学院にはそのような名前がつけられた。この学院は表向きには平等と公表しているが、実際には度の越えた実力主義学院なのだ。弱者は人としてすら見られることのない、卑劣な環境。先生ですら対応が実力で異なる。そんな環境の中、一人の最弱が立ち上がろうとしていた。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる