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第九話 月に泣く凶牙
思わぬ怪我の巧妙
しおりを挟む「ガァァァーーッ!」
ナガレが何か思いついた途端、ココリョナカイマンはケンガに襲いかかる。
バシィッ!
「グワーッ!」
背後からのタックルにケンガは対応できず、無様にズテーン! と転がった。
だがその瞬間を狙いナガレが動く!
「これだぁっ! 当たれ、ヨビカリジェルーーッ!」
パシュッ!
打ち出したのはクレイボムでもなく、まさかのヨビカリジェル! 当たったかどうか確認すら出来ないまま、ココリョナカイマンはまた姿を眩ましてしまった。
「ああっ、また逃げられた……」
悔しげに歯を食いしばるフローレンス。
だが……変化が起こったのは、次の瞬間だった。体勢を立て直したケンガは、あることに気がつく。
「お、おいアレを見てみろ! なんだかあそこだけ、色の雰囲気が違うぞ?」
空中に漂う粉塵は、相変わらずキラキラ眩しく光っているのだが……。
「……あ! ホントです! あそこだけ色がちょっと違います!」
そう、キラキラした粉塵の合間に、ぼんやりと光る影が一つ! それは左右にふよふよ浮遊している。
「しめた! ヨビカリジェルをぶつければ、光で目立ってよく見えるぞ!」
鼻血をだらだら垂らしながら、ナガレはニッと笑った。正直ギン爺に紹介された時は「頼んで無いんですけど⁉︎」と思ったのだが、まさかこんな形で役立つとは!
「ガァァァーーッ!」
咆哮と共に近づいてくるのは、ぼんやりとした光球だ。すぐ近くまで来ると、キラキラした粉塵の中からココリョナカイマンの姿が!
「来たな! 何度もくらってたまるかってんだ!」
素早くナガレが前に進み出て、マルチスタッフを構える。しかしココリョナカイマンは大顎を開けて突っ込んでくる!
「ガァァッ!」
「はぁぁぁぁっ!」
カキィン……!
「ググッ⁉︎」
ココリョナカイマンが噛んだのは……ナガレのマルチスタッフだ! まるで闘牛士のように長棒へ気を取らせ、ナガレ自身はすっと横に避けたのだ。
「グルル……」
「逃すかっ!」
そのまま飛び去ろうとしたココリョナカイマンだが、そうは問屋が卸さない。ナガレは咄嗟にジャンプして、その大きな羽にしがみつく!
「たぁーっ!」
「ガァッ⁉︎」
片方の羽に大穴が空いているのに、重い人間をぶら下げて飛べるハズがない。ココリョナカイマンは高く飛び上がれず、フラフラと低空飛行を続ける……。
「ナイスですナガレさん! はぁぁぁぁぁぁっ!」
それを見たフローレンスも奮起して、投石のように鉄球をブンブン振り回す!
ブンブンブンブンブンブン……!
「……見えた! さっきのお返しですっ! チェーンバインド!」
そのまま鉄球を打ち出すと、唸りを上げて吹っ飛んでいく。そしてナガレに気を取られたココリョナカイマンにぶつかる……と思いきや、横へ逸れて通り過ぎていった。
「な……お、おい外れてるぞ⁉︎」
焦ったケンガが突っ込むも、フローレンスはニヤリと笑う。
「いや、ここですっ!」
そう言うと同時に、伸びっぱなしの鎖をグッと引いた。すると突然軌道が変わり鉄球が戻ってくる。そして伸びた鎖がココリョナカイマンの胴体に巻き付いた!
「グェッ⁉︎ グェェーーッ!」
ザッパーン……!
ココリョナカイマン、本日三度目の墜落! 背中にベッタリとヨビカリジェルをつけたまま地面に突っ伏してしまう。
「グェェーーッ!」
なんとか飛びあがろうともがいているが、フローレンスの鎖は硬く縛られて解けない。
「チャンスだ! 頑張れフローレンス、攻撃はオレたちに任せろ!」
「おうっ! 行くぞナガレ!」
落下前に飛び降りたナガレと待機していたケンガは一斉に飛び出した。
「はぁぁぁぁぁっ!」
バシィッ!
「グェッ!」
一発でココリョナカイマンが怯む。墜落でだいぶ体力を削れたようで、かなり弱っている。
「食らえ、アイスエッジ!」
シャキーン!
「グェェェッ!」
ケンガが氷の刃で傷つけても、ココリョナカイマンは逃げられない!
「でりゃあっ!」
「はぁぁぁぁっ!」
「おらぁーーっ!」
「ゴラァ!」
バシドカバキボコ……!
「グェッ! グェッ! グェェーーッ! …………………」
その後しばらくして、フローレンスはようやく力を抜いた。鎖を手繰り寄せながら、動かなくなったココリョナカイマンに近づく。
「はぁっ、はぁっ、はぁっ……」
「くそ……この……ゼェゼェ……」
ナガレとケンガはまだ攻撃をやめない。滅多撃ちにしている彼らの両方に、フローレンスはポンと手を置いた。
「そろそろ良いですよナガレさん……もう終わりました」
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