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第九話 月に泣く凶牙

割と奇跡の再開

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~☆~☆~☆~☆~☆~

 そしてタイガスの街へやって来たナガレだが、今日はいつもと様子が違った。
 道行く冒険者の誰もが、ナガレのことを振り返るのだ。やはりサラマンダーを倒した活躍が知れ渡っているらしい。
「ね、ねえアンタ!」
 突然呼びかけられて振り向くと、そこには十人を超える人だかりが!
「この前のサラマンダーを倒したのはお前ららしいな。田舎者だと思ってたが、見直したぜ!」
「こんなすごい人が勧誘しているなんて、これぞ渡りに船です」
「私も仲間に入れて! お願い!」
「オレも!」「アタシも!」「オラも!」「おい押すな!」「仲間にしてくれ!」

「そ、そんなに押し掛けるなって! へへっ、心配すんなよ全員仲間にしてやるから! へへへ、うっへへへへ……」

「お客さん! お客さんったら!」
「まあまあ押すなって! ……って、お客さんだって?」



「お客さん! 起きてくださいよ!」
「ふぇ?」
 ……そんなうまい話があるわけがなく、夢オチであった。ナガレが目を覚ましたのは、タイガスの街の小さなカフェ。サラマンダーを倒したのはナガレたちなのだが、討伐報告をしたのは応援の冒険者なので、街の人々はバッファローの冒険者が活躍したことを知らないのだろう。
 そうしていつも通り、けんもほろろにスルーされてしまった。その後一人寂しくカフェで一息ついていたところだ。
 声をかけてくれたのは、エプロンを着た従業員の女子。
「お客さん、アイスカフェオレ飲んだら急に寝ちゃったんです。すごく疲れてたんですね」
「え、は、い、いやー恥ずかしいな……飲むもん飲んだし、もう帰るよ」
「そうですか。またのお越しをお待ちしております」
 そんなことを言う店員の子だが、その目は「早く帰れ!」とでも言いたげである。

 カランカラーン……。
 半ば逃げ出すようにカフェから出てきたナガレ。
「ちぇっ、アイスカフェオレ一杯ぽっちで五ダラーも取るのかよ。資本主義の犬め……」
 思想が赤く染まりそうになっているナガレ。すると……。


「あれっ? あなた、もしかして……」
 突然、後ろから声をかけられた。透き通った女性の声だ。振り返るとそこにいたのは、あの金髪糸目でまな板の女性。仲間集めの最中に、レストランで話した人だ。
「あ! アンタのこと見おぼえあるぞ! 名前は確か……」
 ナガレはポンと手を打った。
「フラージェンス!」
「……私そんな某モンスターみたいな名前じゃないんですけど。フローレンスです、覚えてませんか?」
「ああそうだっけそうだっけ……」
 頭を掻きながら笑うナガレ。フローレンスは少し不満げな表情をしたが、すぐにその様子を隠してにこりと笑った。
「こんにちは、ナガレさん。今日も仲間集めの最中ですか?」
「ま、そんなトコ。オレの名前覚えててくれたんだ」
「私って他人から見れば、大柄で筋肉質だし気味が悪いらしいんです。胸も貧相ですし、メンバーからも『お前は魅力がない』って言われっぱなしで……。だからこんな私に物怖じせず話しかけてくれたナガレさんは、私からすれば珍しい人なんですよ」
「そ、そうなのか……」
 そう言われてナガレはふと考える。確かに言われてみれば、白装束の隅々からのぞく肌はかなり筋肉が浮き出ている。身長だって、ナガレどころか巨漢のタネツすら越しそうな長身だ。
 だが……別に珍しくもない気がする。なにせバッファローの街の人間はどいつもこいつもクセモノぞろいだ。
 褐色白髪のキュートでプリチーな冒険者(♂)ナガレ、スキンヘッドのぽっちゃり巨漢タネツ、色気振りまくあらあらうふふ系人妻(未婚)ヒズマ、のじゃロリババアのマスター、ノリ軽イケメン呑兵衛のアルクル、謎のお嬢様サキミ、イロモノのスキル鑑定コンビ、異常なまでに丁寧紳士のドクターマディソン……上げだしたらキリがない。きっとフローレンスがその中に入っても全く浮いて見えないはずだ。
「どうしたんですかナガレさん? 突然そんな深刻そうな顔して」
「いや、なんでもない、なんでも……えっと、フローレンスは散歩でもしてんの?」
「いえ……実はあなたに会いに来たんです」
「はぇ? ……とすると、まさかオレたちの仲間になってくれるのか!?」
 パッと表情が明るくなったナガレ。しかしフローレンスは首を振った。
「申し訳ないのですが、そういう訳ではないんです。実は……ちょっと折り入って相談したいことがありまして……」
「相談だって?」
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