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第八話 炎の化身

ジョーの予感

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~☆~☆~☆~☆~☆~

 その日の夜。ナガレたちは、残念ながら勝利のどんちゃん騒ぎとは行かなかった。
「馬鹿者! そんな大ケガ負って酒場なんて行ってみろ! もれなく全員食欲無くすわ! そなたらが訴えられてしまうのじゃ!」
「……と、言うわけで病院へ来てもらいましょうか。ミスター・アンド・ミセス冒険者諸君」
 一行はレンにガミガミ説教され、そのままマディソンに連行される。大した傷もなかったジョーとケンガ以外、バッファロー現地冒険者トリオは入院となった。
「ターショ君はしばらくオレの家に止めとくよ。お兄さんがいろんな飲みもん飲ませてやるからな」
「うん……ありがとう、ございます……」
「アルクル! 分かっておろうが酒は飲まずでないぞ!」
「へいへい、分かってますよ」



 それから数時間後……時刻は夜の十時を迎え、暗い町は寝静まっていた。
 アオォーーーーン……。
 どこか遠くで、狼の遠吠えがこだましている。それが本物のスラガンコヨーテなのか、はたまた骨だけのスカルウルフなのか、知る由はない。

 そんな中『アルカナショップ』の二階にある一部屋。元は倉庫だった部屋で、ベッド以外の物が無い。そこには、部屋着に着替えたジョーが床に座っていた。一人きりなのでマスクは外しており、目立つ火傷後がモロに露出している。天井に吊るした明るめのカンテラに照らされながら、ボロボロに古ぼけた手帳をパラパラめくっている。
(……あのガラガラマムシの、炎の色……。あの紫色の炎には見覚えがある。忘れたくても忘れられない、あの時の……)

 コンコン、キィィィ……。
 その時突然、扉をノックする音がする。こちらが返事をする前に、扉が開き始めた。
「ッ!」
 ジョーは咄嗟にマスクをつけてそちらに向き直る。
「ジョー君……? まだ起きてるんだ。もう寝なよ……」
 扉を開けて入って来たのは、すっぴん姿のアリッサだ。水色のパジャマに、紫のナイトキャップまで被っている。部屋の明かりがついているのに気づいて心配したようだ。
「あたしも入って大丈夫?」
「……それは、扉を開ける前に言うべき台詞だぞ」
「あ、しまった! てへへ……♪」
 ジョーにツッコまれて、アリッサは下を出して笑った。『てへぺろ♡』というあざとい笑顔だが、ジョーは無視。
「……もしかして、起こしてしまったか。ならすまない、静かにしていよう」
「別に全然うるさくないんだけど……何見てるの?」
 アリッサは側へ近寄ってくる。ジョーは手帳を自然に閉じてアリッサを迎え入れた。
「……ああ、これは俺が旅をしていた頃の日記だ。それを見返していてな」
「へ~、あたしにも見せてよ!」
「ダメだ。……アリッサだって、人に日記を見せたくはないだろう」
 そう言って言いくるめるジョー。

 しかしその手帳は、故郷を焼いた人物を見つけ出し復讐するために、ジョーが情報を書き記したノートである。ジョーの振り返りたくない過去が、怨念と苦悩がぎっしり詰まった復讐のためのものだ。当然そんな物、善良な小市民のアリッサには見せられない。

「……だが、内容くらいは話せるぞ。俺は今日、ナガレたちと協力してサラマンダーに出会ったことがある。だが……奴の様子は少し変だった。普通の個体は赤い炎を出すのだが、奴の炎は紫色だったんだ」
「ああ、見た見た! 紫色の火がばーって広がって来て、オバケみたいで怖かったよ~」
 おどけた様子でブルブルと震えるアリッサ。
「……その紫色の炎に、見覚えがあってな。その時に旅の思い出を振り返ろうとして、日記を見ていたんだ」
「へ~、そうだったんだ」
「……ふう、話していると眠たくなって来た。話はこれで終わりにしよう」
 ジョーは話を切り上げ、大きな欠伸のフリをする。
「なんだ~、聞きたかったのに。あっそうだジョー君!」
「……どうかしたか」
「その……一緒のベッドで寝る?」
「………………一人で寝かせてください……」
「あーんもう、いけずなんだからぁ~」
 そんなことを言って、アリッサはそそくさと部屋を出て行った。


 一人残されたジョーは手帳をバッグにしまい、仰向けに寝転がる。
(……そうだ、見返すまでもない。忘れたくても忘れられないくらいだ)
 心の中で、ざわざわと波が起こる。それを鎮めるため、マスクを外しゆっくりと息を吐く。

(……間違いない。あの炎は……俺の故郷を焼いたものと、全く同じだった)

 ジョーの故郷である小さな村を滅ぼし、幼い頃の彼から両親を奪った紫の炎。
 その首謀者を探し出し、己の手で血祭りにあげ、トドメを刺したはずだった。

 ……だが、その炎とまた再開することになろうとは思わなかった。
(……まさか、奴らの残党が活動を再開したと言うのか。教祖を殺したことで、奴らは散り散りになったと聞いたが……)

 心のざわつきが大きくなる。ジョーはすっと目を閉じて、思考を巡らし……そしてキッと両手を開いた。

(……もしそうだとしたら、そいつらも殺さなければならない。奴らが悪事を働くと言うのなら、俺が皆殺しにしなければならない。……俺の復讐は、まだ終わっていないのか)

 怒りに震え、拳を握りしめる。サラマンダーは所詮モンスターであり、よほどのことが起こらない限り、炎の色が変化するなど考えにくい。……つまり何者かが関与して、サラマンダーの炎が変わった可能性が高い、ということになる。

(あのイビル教団が蘇った……ならばこの俺が再び殺す。何度蘇ろうと、俺がその首を刈りつくす。奴らに生きて居られる限り、俺の安寧は訪れない……!)

 あの炎が潰えぬ限り、ジョーの復讐は終わらないのだ。
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