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第八話 炎の化身

不退転の覚悟

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「みんな避けろ!」
 ナガレがケンガに答えるより早く、ジョーが叫んだ。ハッとした冒険者たちが振り向くと、サラマンダーが火炎ブレスを吐き出して、周囲を薙ぎ払った!
 ゴォォォォッ!
「ちょちょちょ! デカいし熱いし避けれない……ぐわぁっ!」
「な、なにっ……ぐはぁっ!」
 威力も範囲もパワーアップしている! みんな一斉に伏せたが、ガードしようとしたナガレと不意を突かれたタネツは直撃をもらってしまう。
「ぐあぁぁぁっ!」
「タネツ! ナガレ君っ!」
 火だるまになって崩れ落ちる二人を見て、ヒズマが悲鳴を上げる。ナガレは地面を何度も転がって、なんとか火を消した。
「な、ナガレっ! 黒コゲだぞ!」
「ぐ……! だ、大丈夫……」
 ある程度までは防具が守ってくれたようだが、それでも右頬が炎で焦げて黒くなっている。とても痛々しい……。
「はぁはぁ……ぐ……くそったれめ……!」
 タネツも何とか立ち上がった。鎧のあちこちに火がついている。
「ナガレ! 回復しろ!」
 ジョーが叫ぶと同時に、サラマンダーへ向かって煙玉を投げた。ボールが地面に落ちると同時に、真っ黒な煙が噴き出す。
「グェェッ⁉︎」
 視界を遮られ、サラマンダーは慌てたように後退し、ナガレたちを捉えようとキョロキョロ見回した。
「さ、サンキュー……いでっ!」
 その隙にナガレが回復薬を飲み干しても、口の中がヒリヒリする。回復でもフォローしきれないほどの大ダメージだ。何度も食らえる攻撃では無い。
「ナガレ……いくらお前でも、近接攻撃ならともかく炎を受け流すのは無理だ。タネツさんのタワーシールドみたいに、硬い防御力があるなら別だが……」
「こ、これ……正直無理じゃない? こんなの勝てっこないわよ!」
 ケンガに続いてヒズマまで逃げ腰になってしまう。
「く……悔しいが俺たちの敵う相手じゃなさそうだ。くたばっちまう前にトンズラしよう!」
 タネツまでそんなことを言い出す始末……とはいえサラマンダーはあまりに強さが違う強敵だ。逃げ腰になるのも仕方ないだろう。ナガレはすっと目を閉じて考えこむ。
「な、そうだろ! ほらナガレ、ここは逃げよう、それがいいって!」
 ケンガはナガレの肩に手を置いた。ジョーは何も言わない。ナガレの答えを待っているのだ。


 ……だが、ここでナガレはキッと目を開けた。
「……嫌だ」
「は?」
「……こんなので逃げるなんて嫌だ! ヒズマさんの努力が無駄になったまま……タネツさんがターショ君が見ている前で逃げるだなんて……オレは、オレは嫌だッ!」
「「……ッ!」」
 ヒズマとタネツは目を見開いたまま硬直する。ケンガは驚きのあまりひっくり返ってしまった。
「ななな、何を言い出すんだナガレェッ⁉︎ ジョーダン言ってんじゃねえ! このまま戦うなんて、死に飛び込むようなもんだぞ!」
「ジョーダンなんかじゃない! オレは本気だ!」
「んな事言ったって……じ、ジョー! おめえからも何とか言ってくれよ!」
 ケンガはジョーを頼るが、当の本人は涼しげに微笑むのみ。
「……仕方ない。ナガレがそう言うなら俺も力を貸そう。死にそうになったらお前を連れて町まで逃げてやる」
「ちょ、ちょおっ⁉︎」
 味方がいなくなり、地面に膝をつくケンガ。それを無視してナガレは、タネツとヒズマに向き直った。
「タネツさん、ヒズマさん。先輩たちだって、このまま終わりたくないと思ってるんじゃないですか?」
「え……いや、そんなこと」
 ヒズマは気まずそうに視線を逸らすが、ナガレはそんな彼女にニッと笑いかける。
「もし本当に逃げ出したかったら、オレなんか置いてとっくに逃げてるはずです。タネツさんだってそうじゃないですか! 『俺はターショの方が大事だぜ!』とか言って逃げてもおかしくなかったのに……」
「いや、そう言うわけにゃ行かねえだろ……仲間をほっぽり出して一人だけ自己優先なんて出来ねえぜ」
「だったら、一緒にヤツを倒しましょう。サラマンダーをやっつけて、特訓の成果を証明して、ターショ君にかっこいいところを見せるんです!」
(……ターショか……)
 タネツはチラッと後ろを振り返る。視界の隅っこにある、大きな岩場。そこから顔を覗かせる可愛らしい顔、曇りなき瞳……彼もまた、タネツのことをじっと見つめていた。
「で、でも私の斬撃は通用しなかったわ……こんなに役立たずだったのなら、最初から特訓なんて……」
 ヒズマはなおもナヨナヨしていたが、ナガレはその肩にポンと手を置いた。
「飛ぶ斬撃は、ヒズマさんの必殺技なんです! それを使って、サラマンダーを倒しましょう!」
「い、いやだから通用しなかったんだってばぁ」
 再び視線を逸らそうとしたヒズマだが、ナガレに見つめられて目が離せない。ナガレはそれを見てニコッと笑った。
「オレは仲間を、ヒズマさんを信じてます。ここにいるみんなそうですよ! ……頼りにしてますよ、先輩!」
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