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第八話 炎の化身

子を想う心に勝る親心

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「ついにこの時が来たわね~! 当然迎え撃つんでしょ~⁉︎ 私たちの特訓の成果見せてやるわ!」
「は、離してくれヒズマさん! ちょっと用事を思い出しただけだ!」
「……えっと、二人は何してんの?」
 異様な雰囲気の二人に尋ねるナガレ。ヒズマは顔を紅潮させ、やる気も元気もフル充填だ。
「ああ、ケンガ君ね~。私が呼びに行ったんだけど~、装備着た姿を見た途端に尻尾を巻いて逃げ出したのよ~。だから捕まえたってワケ」
「逃げ出したって、おま……」
 ナガレは胡散臭そうな目でケンガを見る。
「そんな目で見るなナガレ! 信じてくれ、すぐに戻る!」
「……残念ながら、その用事よりも優先すべき事態となったからな。……その用事はひとまず諦めろ。モンスターを警戒するのは冒険者の大切な仕事だからな」
「うぐ……」
 ジョーにプレッシャーをかけられ、観念して大人しくなるケンガ。そんな彼もレザーアーマーと丈夫なコートを身にまとっており、一応戦いの準備はしているようだ。

「町民はもうみんな避難しておる。あとは私たちだけじゃ」
「まあ、今回はみんなで避難するか。町の方に来なければ、戦う理由もないし……」
「……そうだな。気は抜けないが、前回のように戦うことは無いだろう。いくらサラマンダーが暴れていても、本来はおとなしいモンスターだし、さすがに町には来ないはずだ」
 アルクルの一言に、みんな頷いた。解放されたケンガはブンブン大げさに頷いている。
「そ、そうか! いや~残念だなぁ。せっかく心変わりして戦うつもりだったのに! 残念だなぁ~」
「じゃあ外出て戦って来いよ。止めやしねえから」
「え、あ……い、いや~、強き存在たるもの、無駄な戦いは避けるべきで」
「……お前、もう黙ってろ」
 タネツのツッコミで口を閉ざすケンガ。その横にいるヒズマは残念そうに顔をしかめている。
「なによう、せっかく私の実力を見せてやろうと思ったのにぃ~」
「今度一緒にクエストへ行きましょう。オレ、楽しみにしてます!」
「……ま、まあ今回は仕方ないわ~。あんな強い敵と戦いたくないし~」
 ナガレになだめられ、ようやくヒズマも納得したようだ。
「よし! それでは我々も逃げるとするかの。なに心配はいらぬ、万一に備え安全なところに避難するだけじゃよ」
 レンの一声で、冒険者たちはぞろぞろとギルドから出ていく。

 
「……待て」
 するとジョーが突然手を伸ばし、ナガレたちを止めた。
「どうしたんだ?」
「……何か来る」
「は?」
 急にそんなことを言われても、ナガレたちにはピンとこない。するとジョーは黙って、まっすぐ前を指さした。
「なになに? 何かあるの~?」
「まさかサラマンダーの野郎が来ちまったのか!?」
 タネツとヒズマが、その両側から前をのぞき込む。ナガレも目を凝らすと、なんか遠くに小さな影が見えるような……こちらへぐんぐん近づいてくる。
「……あれ、もしかして馬車か?」
「てかあの馬車……あーっ!」
 突然アルクルが素っ頓狂な声を上げた。
「どうしたのじゃアルクル」

「間違いねえ! あれはターショ君が乗ってった駅馬車じゃねえか!」
「なにっ!?」
 その言葉にいち早く反応したのは、やはりタネツ。
「きっと途中でサラマンダーに出会って逃げてきたんだ!」
「た、ターショは無事か!?」
 いじけていたくせに、やはりターショが心配なようだ。どれだけ腐っても、タネツはターショの実の父親なのだ。
 馬車はどんどん近づいて来て、ナガレたちのすぐ近くで止まった。慌てた様子で馬の繰り手のおじさんが降りてくる。馬車の中は……誰一人いない!
「な……!? だ、誰もいないぞ!」
「どういうことだ! ターショは!? おいっ、ターショをどこへやった!」
 タネツが繰り手に掴みかかる。慌ててナガレが引きはがすと、繰り手は「あ、貴方がギルドマスター様ですか!?」とレンの足元に縋り付いた。
「大変です! ファイタ荒野にサラマンダーが現れ、馬車が襲われたのですが……お連れしていたお客様が勝手に馬を止め、外へ逃げ出してしまったのです! 何度も止めたのですが言うことを聞いてくれず……ですがサラマンダーはお客様を追いかけ始めたのです!」
「な……なんだとっ!?」
「くっ、バカな奴め!」
 絶句するタネツ。ジョーはその蛮行に舌打ちした。モンスター相手に一般人が、走って逃げるなんて不可能に決まっている。すぐ追いつかれて背中からおそわれるだろう。
「お客様が危険です! マスター様、なんとかしてください!」
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