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第七話 剣を手にしたスナイパー
ケンガの秘密?
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そうして数十分ストーキングを続けるアリッサ。町の人々は怪しさ満点のアリッサから露骨に目をそらしているのに、やはりケンガは気づかない。
「失礼、この町の名産は何だね? ……へえ、ビールと農畜産か。うーん……アクセサリーとかはないのかい?」
ケンガはこんな感じで、町行く人々に町の名産物について尋ねている。どうやら故郷の誰かに渡したいと思っているようだ。
「なるほど、革製品か! ブーツとかがいいか? いや、ジャケットでも……何、町の北に特産品売り場が……分かった、助かるぞ」
町の子供にそう教えられて、ケンガはこちらに引き返してきた。
(コートあっつ……でも尾行のためだもん、ガマンガマン)
そんなことしなくても怪しいし、脱いで普段着になっても大して変わらないのだが……。
……そんなことを考えていたせいで、反応が遅れてしまった。
「……おい貴様、どうしてそんなに暑そうなコートを?」
誰かに呼び止められ顔を上げると、ケンガとばっちり目が合ってしまった。
(……うえぇ~っ、き、気づかれた! ええええっ! とどどどっどど、どうしようどうしよう!)
まさか気づかれたとは! パニックで嫌な汗が体中から噴き出したアリッサ。
「な、なぜ分かった!」
「いや……ずっとつけられてたのは知っていたんだが、怪しすぎて聞くに聞けなかったから……」
(うっそ~ん、気づかれてたんかい!)
……今まで気づかれなかった訳ではなく、怪しすぎて反応できなかっただけのようだ。
と言うわけで邪魔にならないよう大通りの脇に寄った二人。
「ふふふ……さてはこの俺様に惚れているんだな? 結構結構、俺様の名誉に預かりたいというのは当然のこと! いくらでも惚れてもらって構わんぞ」
やっぱり飛び出した謎のポジティブ思考。ケンガは鼻高々に胸を張った。
「え、え~っと……えへへ、実はそうなんですぅ~。英雄の息子なんてカッコいいですねぇ~」
適当に甘ったるい言葉を出すアリッサ。
(あーホント良かったぁ。バカで助かったぁ……)
裏でほくそ笑むアリッサだが、バカなのはお互い様である。しかしケンガは『さも残念!』といった風に、大げさに肩をすくめた。
「だがすまないな、俺様にはかつて心に決めた女性がいるのだ。君はその娘を超えることは決して出来まい……ああ、元気にしているだろうか?」
「……かつて心に決めた女性?」
なんだかちょっとイラついたが、それ以上にアリッサは興味をひかれた。恋バナは彼女の大好物である。
「なんだ興味があるのか? よし聞かせてやる! あれは約十年前、大雪の降る日のことだった…………」
その後、ものすごーーーーく長い話が続いた。様々な悲観的表現を抜いて話をまとめると、こんな感じである。
ケンガには昔、好きだった女の子がいた。
その子は孤児院で育った幼馴染で、気が強く心優しいガキ大将だった。
しかし父親による苦渋の決断により、二人は引き離されてしまう。
その子とはそれ以来二度と会っていない。
だがケンガは、たとえその子が結婚していても、一生再会できなくとも、生涯その子を愛し続けていくと心に誓ったらしい。
「へー、ロマンチック……」
長話にはうんざりしたが、純粋にときめいたアリッサ。やっぱり恋バナは良いものだ。二十歳になっても心は夢見る乙女のままである。
……と、アリッサはあることに気づいた。
(あれっ……そういえば、なんで好きになったのかは言わなかったな)
相手のどこが好きだとかは肝心なワードだ。ケンガのことだし、どんな美談を聞かせてくるかと思ったが、それについては何も言ってこない……。
「ねえ、ケンガ……」
「と言うわけで、お土産探しに忙しいのでな。では失礼する!」
ケンガはカッコつけて踵を返し、スタスタ歩いて行ってしまった。
「あ……行っちゃった」
「失礼、この町の名産は何だね? ……へえ、ビールと農畜産か。うーん……アクセサリーとかはないのかい?」
ケンガはこんな感じで、町行く人々に町の名産物について尋ねている。どうやら故郷の誰かに渡したいと思っているようだ。
「なるほど、革製品か! ブーツとかがいいか? いや、ジャケットでも……何、町の北に特産品売り場が……分かった、助かるぞ」
町の子供にそう教えられて、ケンガはこちらに引き返してきた。
(コートあっつ……でも尾行のためだもん、ガマンガマン)
そんなことしなくても怪しいし、脱いで普段着になっても大して変わらないのだが……。
……そんなことを考えていたせいで、反応が遅れてしまった。
「……おい貴様、どうしてそんなに暑そうなコートを?」
誰かに呼び止められ顔を上げると、ケンガとばっちり目が合ってしまった。
(……うえぇ~っ、き、気づかれた! ええええっ! とどどどっどど、どうしようどうしよう!)
まさか気づかれたとは! パニックで嫌な汗が体中から噴き出したアリッサ。
「な、なぜ分かった!」
「いや……ずっとつけられてたのは知っていたんだが、怪しすぎて聞くに聞けなかったから……」
(うっそ~ん、気づかれてたんかい!)
……今まで気づかれなかった訳ではなく、怪しすぎて反応できなかっただけのようだ。
と言うわけで邪魔にならないよう大通りの脇に寄った二人。
「ふふふ……さてはこの俺様に惚れているんだな? 結構結構、俺様の名誉に預かりたいというのは当然のこと! いくらでも惚れてもらって構わんぞ」
やっぱり飛び出した謎のポジティブ思考。ケンガは鼻高々に胸を張った。
「え、え~っと……えへへ、実はそうなんですぅ~。英雄の息子なんてカッコいいですねぇ~」
適当に甘ったるい言葉を出すアリッサ。
(あーホント良かったぁ。バカで助かったぁ……)
裏でほくそ笑むアリッサだが、バカなのはお互い様である。しかしケンガは『さも残念!』といった風に、大げさに肩をすくめた。
「だがすまないな、俺様にはかつて心に決めた女性がいるのだ。君はその娘を超えることは決して出来まい……ああ、元気にしているだろうか?」
「……かつて心に決めた女性?」
なんだかちょっとイラついたが、それ以上にアリッサは興味をひかれた。恋バナは彼女の大好物である。
「なんだ興味があるのか? よし聞かせてやる! あれは約十年前、大雪の降る日のことだった…………」
その後、ものすごーーーーく長い話が続いた。様々な悲観的表現を抜いて話をまとめると、こんな感じである。
ケンガには昔、好きだった女の子がいた。
その子は孤児院で育った幼馴染で、気が強く心優しいガキ大将だった。
しかし父親による苦渋の決断により、二人は引き離されてしまう。
その子とはそれ以来二度と会っていない。
だがケンガは、たとえその子が結婚していても、一生再会できなくとも、生涯その子を愛し続けていくと心に誓ったらしい。
「へー、ロマンチック……」
長話にはうんざりしたが、純粋にときめいたアリッサ。やっぱり恋バナは良いものだ。二十歳になっても心は夢見る乙女のままである。
……と、アリッサはあることに気づいた。
(あれっ……そういえば、なんで好きになったのかは言わなかったな)
相手のどこが好きだとかは肝心なワードだ。ケンガのことだし、どんな美談を聞かせてくるかと思ったが、それについては何も言ってこない……。
「ねえ、ケンガ……」
「と言うわけで、お土産探しに忙しいのでな。では失礼する!」
ケンガはカッコつけて踵を返し、スタスタ歩いて行ってしまった。
「あ……行っちゃった」
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